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CN×CE融合を実現する最適解

業界横断連携と未来世代を見据えた合意形成を
2024.5.1
古木 二郎

政策・経済センター古木二郎

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INSIGHT

カーボンニュートラル(CN)とサーキュラーエコノミー(CE)の融合は、持続可能な社会の実現に欠かせない。しかし一方で、「リサイクル技術が未成熟でCNと両立できない」「資源循環領域の情報が乏しく投資判断ができない」など、企業は多くの現実的な問題に直面している。各プレイヤーが「部分最適」の誤謬を乗り越え、理想的なCNとCEの融合を目指していくには、より高い視座に立った政策運営や、産官学の強力な横断連携が不可欠だ。当社独自の調査結果などを踏まえ、「CN×CE」融合の最適解を導く処方箋をここに提示する。

トレードオフ・情報不足・コスト増が課題

オピニオン」では、資源循環とエネルギーの政策融合、すなわちカーボンニュートラル(CN)とサーキュラーエコノミー(CE)の融合が日本における持続可能な社会実現のカギであることを示した。では、具体的には何がボトルネックになっているのか。CN×CEへの実現に向け、企業各社さまざまな取り組みを開始しているが、その推進担当者からは、さまざまな悩み、産みの苦しみの声を聞く。図1はその主な声をまとめたものである。

1点目はCNとCEのトレードオフの発生だ。CEへ移行していくには、廃棄物を回収・リサイクルした再生資源を、再び製品製造に利用する循環型のサプライチェーンを構築・拡大していくことが必要だ。しかし新たなリサイクル技術の導入段階では、技術の成熟度が低く、規模も小さいため、エネルギー消費量が増えてしまい、短期的にはCNに逆行することもある。

2点目はCEに係る情報連携不足だ。CEに向けたサプライチェーンを構築するには、主体間の情報連携が必要であるが、情報の収集・共有には多大な時間と費用がかかる。そもそも循環型のサプライチェーンには、従来の製造業者や流通業者、小売業者に加えて、消費者や回収事業者、資源再生事業者など、さまざまな主体が参加するため、従来のサプライチェーン以上に協調関係の構築が難しく、誰がどのような情報を持っているかも容易にはわからない。CEに貢献できる製品の将来需要に関する情報も不足しており、CE移行に係る投資判断を鈍らせている。

3点目は対策コストの増加とその価格転嫁の難しさだ。CN素材や再生材の製造・利用に伴うコスト増加分は、製品価格に転嫁しなければ、事業採算性の悪化につながるが、コモディティ化した製品分野では、そのような価格上昇は需要の低下要因になる可能性がある。持続可能社会に資するとはいえ、高価格の再生材の利用に対する社内外の理解を得るのは難しい。
図1 企業担当者から寄せられた「CN×CE実現に向けた問題点」
企業担当者から寄せられた「CN×CE実現に向けた問題点」
三菱総合研究所作成

日本企業にも押し寄せる欧州CE法規制化の波

しかし、このような現場での悩みの解消に手をこまねいている時間的猶予はほとんどない。各国の法規制や国際的な政策枠組みの整備が進み、脱炭素化だけでなく、CEへの移行を企業に要請し始めているからだ。

EUの執行機関である欧州委員会では、2022年3月に「持続可能な製品政策枠組みパッケージ」の1つとして、エコデザイン規則案を発表し、(1)エコデザイン要件の設定、(2)デジタル製品パスポート(DPP)の作成、(3)売れ残り商品の破壊禁止に関する枠組み構築を打ち出した。この規則案に基づき、2022年11月発表の「包装および包装廃棄物規則案」では、2040年の再生材利用目標を定量的に示している※1

また2023年7月には、「ELV(廃棄自動車)規則案」が発表され、車両に使用するプラスチックの25%以上を再生材とすることを求めている※2。さらに、金融市場においても、IFRS(国際会計基準)財団が一部業界にCE情報開示を要求しており、EU市場においてもCSRD(企業サステナビリティ報告指令)に基づいて、CE情報を含めた非財務情報開示が必要となった(図2)。

これらの規制は、EU諸国に子会社を持つ企業やEUに製品を輸出する企業も対象であり、該当する日本企業は対応が既に必要となってきている。
図2 資本市場において求められる非財務情報としてのCE関連実績
資本市場において求められる非財務情報としてのCE関連実績
出所:IFRSウェブサイト(https://www.ifrs.org、閲覧日:2024年4月22日)、欧州委員会C(2023)5303などを基に三菱総合研究所作成

日本の競争力強化につながるCE実現のヒント

重要なのはこれらの規制などに対症療法的に対応することではなく、目指すべき社会像の実現に向けてより能動的に取り組み、日本企業の競争力強化につなげていくことだ。日本におけるCNとCEの同時実現に向けた処方箋として、以下の3つを提示したい(図3)。
図3 CN×CEに向けた3つの問題と方策
CN×CEに向けた3つの問題と方策
三菱総合研究所作成

(1)CNと整合したCE目標の設定

日本では、CEについての明確な指標・目標値は定められていない。循環型社会形成推進基本計画にて、「資源生産性」、「循環利用率」、「最終処分量」が代表指標として定められてはいるが、2050年カーボンニュートラルのような明確な達成目標年・目標値ではない。国のCEに係る指標・目標値と企業、自治体、消費者の取り組みの因果関係が明確でないために、個々の主体の取り組みのインセンティブは乏しく、国側の説明力も弱かった。

上記の背景を受け、2023年3月に経済産業省が「成長志向型の資源自律経済戦略」を策定。トヨタ自動車や東京大学など300を超える企業・団体からなる産官学協議体「サーキュラーパートナーズ」が2023年12月に発足した。ここでCEに係る指標・目標値も検討されていく予定であるが、重要なのは「CNと整合したCE目標」の検討・設定を行うことだ。

冒頭、CE移行に向けた問題点として、CNとCEのトレードオフを挙げたが、図4に示すように、「(1)短期的には資源消費が増えるが、普及後にCE効果も期待できる取り組み」や「(2)一時的にはエネルギー消費が増えてCNに逆行するが、技術進歩・スケールアップでCN貢献が期待できる取り組み」もあるはずだ。これらについては短期的ではなく、あくまで長期的な視点から国として適切に評価し、支援していくべきであるし、そのような支援につながるCE目標設定を目指すべきであろう。(1)、(2)のような取り組みのCN・CEへの効果がいつ、どのように表れていくのかを明確化・具体化していくことができれば、「オピニオン」で示したエネルギー基本計画への織り込みも可能になってくる。
図4 短期的にはCN・CEに逆行するケースも
短期的にはCN・CEに逆行するケースも
三菱総合研究所作成

(2)情報流通PFを活用した業界横断連携

上記サーキュラーパートナーズでは、循環に必要となる製品・素材の情報や循環実態の可視化を進めるため、2025年をめどに、データの流通を促す「CE情報流通プラットフォーム」の立ち上げを目指している。現状では、いわゆる動脈産業と静脈産業の連携が進んでおらず、実態として資源循環がどの程度行われているのか、基本的な情報がまだ十分把握できていないため、そこを解消するのが狙いだが、具体方策はこれからだ。

図5に示したのは、当社が実施した企業の資材調達担当者を対象としたアンケートの結果である。業種ごとに、CEとCNの目標設定やその実現に向けた取り組み状況を点数評価し、グラフ上に配置したものである。図の右上に配置されている企業ほど、CNとCEの双方で明快で積極的な取り組みをしていることを示す。自動車・電機をはじめ、国際競争の激しい分野ほど先行していることがわかるだろう。

こうした先行分野の企業が後発分野を巻き込み、サプライチェーン全体での動き、全産業での動きとしていくことが重要だとわれわれは考える。今後立ち上がる情報流通プラットフォームはその業界間連携の基盤になる。先行分野の企業を起点に、業界横断で、金属やプラスチックなどの素材を集約・リサイクルする仕組みや、廃材や機能低下製品を他用途でカスケード利用するなどの連携を促し、CN・CEの両立につながるビジネス創出を目指すべきである。
図5 CNとCE双方でプロアクティブな業種とは?
CNとCE双方でプロアクティブな業種とは?
注:選択肢と点数の対応:5点=CN/CE目標に掲げており、その実現に向けた実施内容が具体化されている、4点=CN/CE目標に掲げているが、実現に向けた具体策は未検討、3点=「3R/CO2削減目標」はあり、3R推進/CO2削減に向けた実施内容が具体化されている、2点=「3R/CO2削減目標」はあるが、その達成に向けた具体策は未検討、1点=「CE/CN実現」や「3R/CO2削減」の目標なし。

出所:売上規模10億円以上の企業に勤務し、原料調達の決定権・選定権がある回答者を対象としたアンケート調査結果(回答者数:建設103、化学103、鉄鋼72、繊維61、食品103、電機103、自動車103、小売103、サービス103)を基に三菱総合研究所作成

(3)CN・CE価値に対するコンセンサス醸成

CN・CE移行が果たせなかった場合にもたらされる地球温暖化、資源不足、環境破壊の被害者は、未来の国民・人類である。現代を生きるわれわれはその不可逆的な影響や被害を実感できないがために、CN・CE対応に伴うコスト増とその価格転嫁による商品価格の上昇を十分に受け入れることができない。未来世代のために、現代のわれわれの行動を適切に変容させるには何が必要なのか?

欧州のように、まず再生材利用の規制方針を打ち出すこともアプローチの1つであるが、その規制が実行力のあるものにするには、企業の行動原理を変えるための社会のコンセンサスが必要だ。

コンセンサスの醸成には、図6に示した方策が効果的と考えられる。すなわち、「CN素材や再生材利用等の宣言・誓約を、政府支援や公共調達の要件とすること」、「既存リサイクル法において、CN・CEにより貢献する取り組みにインセンティブを導入すること」、「国のCN目標と整合したCE目標と、その達成シナリオを提示すことでCN・CE市場の予見性を向上し、成長期待値の拡大を図ること」、「CN素材・再生材利用によるコスト増、価格転嫁水準を価格交渉材料として提示すること」などである。

これらの取り組みを政府が後押しすることによって、中小企業も含めたサプライチェーンの終端(最終ユーザー)まで、CN・CE価値に対する社会的コンセンサスを醸成することが必要だろう。
図6 社会的コンセンサス醸成のための方策
社会的コンセンサス醸成のための方策
三菱総合研究所作成

※1:飲料ボトル65%、食品接触型包装50%、非食品容器65%。

※2:新車に使用する再生材のうち25%はELV由来とすることも規定。

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