コラム

カーボンニュートラル時代の原子力エネルギー

【coffee break】福島第一原子力発電所由来の放射性物質による土壌汚染について

福島第一原子力発電所事故後の原子力

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2017.9.11

原子力安全事業本部塚田耕一

カーボンニュートラル時代の原子力

1.土壌汚染とは

有害な物質が土壌中に含まれ、人の健康や生活に影響が及ぶ状態を土壌汚染といいます。私たちが普段耳にするような工場跡地などで発生する土壌汚染と、福島第一原子力発電所から放出された放射性物質による土壌汚染とでは、どのような違いがあるのでしょうか。

2.汚染物質の種類

通常の化学的汚染地域においては、①揮発性有機化合物、②重金属類、③油などが主な汚染物質です。それに対して、福島第一原子力発電所の事故では、④放射性セシウムなどをはじめとした放射性物質による汚染が課題となっています。
図表1 汚染物質の種類とその特徴
図表1 汚染物質の種類とその特徴

出所:環境省HP(https://www.env.go.jp/water/chikasui/panf/pdf/p02.pdf、2017/8/28閲覧)、
農林水産省HP(http://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/110914.htm、2017/8/28閲覧)をもとに三菱総合研究所作成

図表1に汚染物質の種類とその特徴を示しました。事故によって大気中に放出された放射性物質は、風に乗って拡散し、広い範囲で降り積もりました。その一部は海に運ばれましたが、土壌に降り注いだ放射性物質は、ほとんどが表層5cm程度の粘土などの細かい粒の土に吸着し留まっています。

また、放射性物質の特徴として、直接触れなくても放射線によって被曝することが挙げられます。ただし、放射能は半減期によって減衰するため(半減期はセシウム134で2年程度、セシウム137で30年程度)、時間の経過によって放射性物質による影響は小さくなっていきます。

3.土壌汚染の対処方法

土壌汚染の疑いがある場合には、土壌汚染対策法(図表1の汚染物質①~③の場合)や放射性物質汚染対処特措法(図表1の汚染物質④の場合)にもとづき、該当区域の土壌を採取して、汚染物質の含有量や汚染の広がりの度合いを調査します。調査の結果として、土壌汚染が確認され、健康被害が生じる恐れがあると認定された場合は、汚染の拡散防止や除去などの措置を講じることが定められています。

(ア) 化学的汚染物質の場合

図表1の汚染物質①~③による汚染について、汚染物質が口などから直接摂取されることを防止する策として、「盛土(もりつち、もりど)」が挙げられます。これは、汚染土壌の上を砂利などで覆ってから、さらにその上に汚染されていない土を盛って、汚染した土壌が飛散するのを防止する対処法です。

また、地下水に溶け出した汚染物質を摂取してしまうことの防止策として、「封じ込め」が挙げられます。これは、汚染土壌を構造物などで囲んで、汚染物質が地下水に触れて溶け出すことがないようにする対処法です。
図表2 ①~③の汚染物質に対する摂取防止措置(左:盛土、右:封じ込め)
図表2 ①~③の汚染物質に対する摂取防止措置(左:盛土、右:封じ込め)

出所:環境省HP(https://www.env.go.jp/council/10dojo/y105-02/ref01.pdf、2017/8/28閲覧)

汚染土壌の浄化や除去にあたっては、汚染物質の種類や特徴に応じた対処法がとられます。揮発性有機化合物が揮発しやすい性質を利用した「土壌ガス吸引」、重金属類などが含まれる土壌を水で洗浄して分離除去する「土壌洗浄」、油や揮発性有機化合物などを生物分解する「バイオレメディエーション」などが挙げられます。
図表3 ①~③の汚染物質に対する浄化・除去措置
(左:土壌ガス吸引、中:土壌洗浄、右:バイオレメディエーション)
図表3 ①~③の汚染物質に対する浄化・除去措置 (左:土壌ガス吸引、中:土壌洗浄、右:バイオレメディエーション)
出所:三菱総合研究所

(イ) 福島第一原子力発電所由来の放射性物質の場合

福島第一原子力発電所の事故による汚染(表1の汚染物質④)については、透過力の高い放射線の影響を防ぐ必要があるため、その特性に応じた対策をしなければなりません。降り注いだ放射性物質は土壌表層に集中していることから、表土の5cm程度を削り取って除去する「表土削り取り」が行われています。

福島県内で削り取られた土の量はおよそ2000万m3にも及び、現時点でそのほとんどは仮置場に置かれた状態です。仮置場の数は、国が対策を行ったものだけでも270カ所、市町村が対策を行ったものを含めると10万カ所近くと言われています。国は最終的にはこれらの土を福島県外で最終処分することを約束しているため、福島第一原子力発電所が立地している大熊町と双葉町に、30年以内の期間、中間貯蔵することとなりました。
図表4 ④の汚染物質に対する措置(左:表土削り取り、右:仮置場への搬入)
図表4 ④の汚染物質に対する措置(左:表土削り取り、右:仮置場への搬入)

出所:農林水産省HP(http://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/110914.htm、2017/8/28閲覧)、
環境省HP(http://josen.env.go.jp/material/pdf/handbook_kariokiba.pdf、2017/8/28閲覧)

また、福島第一原子力発電所の構内では、表土削り取りに加え、地表面をアスファルトなどで覆うフェーシングを行っています。これは、土壌からの放射線量を低減させるのに加えて、雨水が土壌中に浸透して原子炉建屋に流れ込み汚染水が発生することを防止抑制する効果もあります。
図表5 福島第一原子力発電所構内におけるフェーシング(左:施工前、右:施工後)
図表5 福島第一原子力発電所構内におけるフェーシング(左:施工前、右:施工後)

出所:東京電力ホールディングス(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/roadmap/images1/images1/l160330_11-j.pdf、2017/8/28閲覧)

4.最後に

本コラムでは、通常の化学的汚染物質による土壌汚染と、福島第一原子力発電所から放出された放射性物質による土壌汚染の特徴や違いに焦点を当てました。どちらにも共通することですが、土壌汚染の対処に当たっては、多くの労力と長い時間が必要です。

福島第一原子力発電所の事故により生じた土壌汚染は非常に広範囲に及び、被害を受けた人々に深刻な影響をもたらしました。国や関係機関の努力により、その対策は着実に進められていますが、環境と生活の再建を目指し、今後もより一層の取り組みが求められています。