コラム

カーボンニュートラル時代の原子力エネルギー・サステナビリティ・食農

【coffee break】福島第一原子力発電所の廃炉にはいくらかかるの?

福島第一原子力発電所事故後の原子力

タグから探す

2018.1.11

原子力安全事業本部近藤直樹

カーボンニュートラル時代の原子力
今回は、福島第一原子力発電所の廃炉にまつわる「お金」の話をご紹介したいと思います。廃炉にはいくらかかるのでしょうか?その費用は誰が負担するのでしょうか?そんな疑問にお答えします。

福島第一原子力発電所の廃炉にはいくらかかるの?

福島第一原子力発電所の廃炉にかかる費用は、当初は約2兆円と予想されていましたが、今は約8兆円(※1)と見込まれています(福島第一原子力発電所の事故対応で廃炉以外にかかる費用は、賠償費が約8兆円、除染および除染で生じた土壌などの中間貯蔵費が約6兆円とされているため、必要な資金の総額は22兆円に達する見通しです。)(※2)

廃炉費用8兆円と聞いて、額の大きさがピンとくるでしょうか。これは日本の国家予算の約8%で、台湾の国家予算に匹敵します(もちろん、廃炉費用は数十年間の合計であり、国家予算は年単位ではありますが)。非常に大きな額と言ってよいでしょう。
表1 福島第一原子力発電所の事故対応に係る費用
表1 福島第一原子力発電所の事故対応に係る費用
出所:新々・総合特別事業計画(第三次計画)を基に三菱総合研究所作成

どうしてそんなにかかるの?

事故を起こしていない一般の原子力発電所の廃炉には、約300億円かかると言われています(※3)(原子炉4基だと単純計算で1200億円)。福島第一原子力発電所の廃炉に要する8兆円は、その60倍以上です。これほどまでの差を生じさせる原因は、福島第一原子力発電所では、廃炉対象の4基のうち、1~3号機で「燃料が溶け落ち、放射性物質が放出されたことによって、作業が極めて困難となっているから」に他なりません。

福島第一原子力発電所と同じく炉心溶融事故を起こした米国のスリーマイルアイランド原子力発電所2号機(TMI-2:1979年に事故発生)の対応(溶けた燃料の取り出し完了まで)にかかった費用と比べてみましょう。TMI-2の対応には約10億ドル(2012年貨幣価値で約23億ドル、1ドル=110円で換算すると2,530億円)を要しました(※4)。これは原子炉1基分であり、4基だと単純計算で約1兆円になります。この費用と比べても、福島第一原子力発電所の廃炉に要する8兆円は約8倍です。この差の原因として考えられる主な事項を下表に示します。こうした各要因の違いが、作業量や廃棄物発生量、ひいては費用に影響を及ぼすこととなります。
表2 TMI-2の対応と福島第一原子力発電所廃炉の主な違い(費用の観点)
表2 TMI-2の対応と福島第一原子力発電所廃炉の主な違い(費用の観点)
出所:三菱総合研究所

誰が負担するの?

廃炉に必要な8兆円は全て、東京電力ホールディングスが負担することになっています。しかし、総額8兆円もの資金を確保することはできるのでしょうか?

東京電力ホールディングスおよび原子力損害賠償・廃炉等支援機構(法律に基づく認可法人)は、2017年5月に「新々・総合特別事業計画(第三次計画)」を策定しました。その中で、東京電力ホールディングスは、送配電事業基盤を強化するなど「非連続の経営改革」をやり遂げ、収益力の改善および企業価値の向上を実現して、資金を確保可能にしようとしています。仮に40年間で8兆円を要する場合、単純計算で年間2000億円の資金が必要になりますが、2016年度に廃炉関連で確保した実績は約1400億円でした。今後は生産性改革等により、年間の確保額を3000億円まで増やすとしています。

また、昨年制定された新たな法律(※5)では、福島第一原子力発電所の廃炉にかかると考えられる費用を見越して、東京電力ホールディングスがいったん、原子力損害賠償・廃炉等支援機構に資金を積み立てた後、廃炉に必要な分だけ取り戻しを行う仕組みが定められました(積立金制度)。将来を見据えて計画的にコツコツ貯金し、必要な時に必要な分だけ引き出して使う、ということです。「計画的に」「必要な時に必要な分だけ」という点が、「お金が足りなくなる」事態を避けるポイントであると言えます。

おわりに

福島第一原子力発電所の廃炉には8兆円もの莫大な費用がかかると見込まれています。
この額を少しでも減らすには(少なくともこれ以上増やさないためには)、効率的かつ効果的な研究開発と着実な廃炉の実施が重要です。また、数十年続く廃炉作業の期間中、費用を確保し続けるためには、東京電力ホールディングスの経営努力に加え、積立金制度を有効に運用することが鍵となるでしょう。

※1 精緻な積み上げによる算出ではなく、あくまで概算値であることに留意が必要。

※2 参考文献:原子力損害賠償・廃炉等支援機構、東京電力ホールディングス株式会社
「新々・総合特別事業計画(第三次計画)」p.2、2017年

※3 参考文献:原子力百科事典ATOMICA「原子力発電所の廃止措置費用評価」(2018/1/10閲覧)
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=05-02-01-02

※4 参考文献:技術研究組合 国際廃炉研究開発機構「平成26年度 技術研究組合国際廃炉研究開発機構シンポジウム「廃炉への道」を切り拓く 特別講演資料『スリーマイル島原子力発電所事故:復旧、クリーンアップ、教訓および今後;レイク・バレット』」(2018/1/10閲覧)
http://irid.or.jp/_pdf/Sympo_Barrett_J.pdf

※5 参考文献:原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の一部を改正する法律:
経済産業省ニュースリリース 「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の一部を改正する法律案」が閣議決定されました(2018/1/10閲覧)
http://www.meti.go.jp/press/2016/02/20170207001/20170207001.html