コラム

福島第一原子力発電所廃炉のこれまでと、これから原子力安全

福島第一原子力発電所の燃料デブリ取り出しにむけて

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2018.4.24

原子力安全事業本部中村京春

福島第一原子力発電所廃炉のこれまでと、これから

1.はじめに

福島第一原子力発電所の廃炉において、最大の課題は燃料デブリの取り出しです。「燃料デブリ」とは、事故によって、原子炉圧力容器(Reactor Pressure Vessel、RPV)内の炉心燃料が、原子炉格納容器(Primary Containment. Vessel、PCV)の中の構造物(炉心を支える材料や制御棒、PCV底部のコンクリートなど)と一緒に溶けて固まったものを指します。

燃料デブリは核燃料を含むため放射線源ですが、現在は冷却され一定の安定状態を維持しています。しかし、福島第一原子力発電所は地震や津波により損傷しており、また、内部の状況がいまだに十分に把握できていないなどの不確かさや不安定さをはらんでいることから、中長期的なリスク管理の観点から見ると、燃料デブリをできるだけ早く取り出し、より安全な場所に移動させて安定的に保管する必要があります。

本コラムでは、この「燃料デブリの取り出し」の実施体制とスケジュールを説明し(第2章)、その難点を示します(第3章)。さらに、これを解決するための研究開発の状況をまとめ(第4章)、最後に今後の取り組みに関しての提言を第5章に示します。

2.廃炉に向けた実施体制と、目前に迫る燃料デブリ取り出し

福島第一原子力発電所の廃炉にあたっては、政府、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(※1)(NDF)、東京電力および研究開発機関が一体となって取り組んでいます。(図1参照)
図1 福島第一原子力発電所の廃炉に向けた実施体制図
図1 福島第一原子力発電所の廃炉に向けた実施体制図

出所:原子力損害賠償・廃炉等支援機構 「東京電力ホールディングス(株) 福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2017について」(http://www.dd.ndf.go.jp/jp/strategic-plan/book/20170831_SP2017EM.pdf、2018/3/9閲覧)を基に三菱総合研究所作成

政府は、福島第一原子力発電所1号機~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ(※2)を公開しており、同ロードマップで廃炉の大まかな工程を示しています。中長期ロードマップでは、廃炉の工程は以下の3期に分けられています。

【第1期】期間:2011年12月~2013年11月
事故による放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている状況(2011年12月に達成)から、初号機(※3)の使用済燃料プール内にある燃料取り出しの開始(2013年11月に達成)まで。

【第2期】期間:2013年11月~現在継続中
第1期終了から初号機の燃料デブリ取り出し開始(2021年内を予定)まで。

【第3期】期間:未定
第2期終了から廃止措置終了(2041~2051年頃を目標)まで。

2018年4月現在は【第2期】にあたります。中長期ロードマップでは2021年内を目標とする「初号機の燃料デブリ取り出し開始」を【第2期】の終了と位置付けています。同時に【第2期】は、NDFが公開した戦略プラン(※4)で示されている「燃料デブリ取り出し方針」に基づいて、燃料デブリ取り出しに向けた多くの研究開発が本格化する時期でもあると考えられます。

3.難しいPCV内部の正確な状況把握

福島第一原子力発電所の事故では、1~3号機の3基のRPV内の燃料が溶けたことがわかっています。なお、4号機は定期検査中であったため燃料が装荷されていませんでした。1~3号機のPCV内の燃料デブリの状態として考えられているものを図2に示します。
図2 各号機のPCV内の燃料デブリの状態(イメージ)
図2 各号機のPCV内の燃料デブリの状態(イメージ)
出所:各種資料を基に三菱総合研究所作成
燃料デブリを取り出すには、PCV内部に存在する燃料デブリや炉内構造物の情報を収集する必要があります。必要な情報は「どこに(位置)」「どのような形で(形態)」「どのような特性で(性状(※5))」「どのくらい(量)」存在するかといったことです。

これらの情報は、福島第一原子力発電所における条件を考慮して燃料デブリが生成される様子を実験や解析により推定した結果や、ロボットを実際にPCV内部に投入して状況調査した結果により、徐々に得られています。特に、2017年には1~3号機に対してロボットを使用した調査が行われ、内部状況の一部が直接確認されました。1~3号機の確認箇所を図3に示します。具体的には、1号機ではPCV内1階から線量計およびカメラをつり降ろし、RPVを支えているペデスタル(原子炉圧力容器支持構造物)外地下階などの状況を確認する調査が実施されました。2号機ではペデスタル内プラットホームへカメラを装備した自走式調査装置が投入され、金属性の足場であるグレーチングの脱落や変形などの状況が確認されました(図4参照)。3号機は滞留水の水位が1号機および2号機よりも高いため、水中遊泳式調査装置(水中で泳ぐロボット)が用いられ、ペデスタル内の状況が確認されました。なお、2018年1月には2号機のペデスタル内を対象とした追加調査が実施されており、今後、画像の分析および線量・温度データの評価が行われる予定です。
図3 2017年に実施された内部調査による確認箇所のイメージ
図3 2017年に実施された内部調査による確認箇所のイメージ
出所:各種資料を基に三菱総合研究所作成
図4 2号機のペデスタル内プラットホーム
図4 2号機のペデスタル内プラットホーム

出所:東京電力ホールディングス(株)(東京電力ホールディングス、写真集より引用http://photo.tepco.co.jp/date/2017/201711-j/171130-01j.html、2018/3/9閲覧)

図5 3号機における水中遊泳式調査装置
図5 3号機における水中遊泳式調査装置

出所:国際廃炉研究開発機構/東芝エネルギーシステムズ(株) (http://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/fukushima/roadmap.html 2018/3/9閲覧)

しかし現実的に、PCV内部の調査は、放射線の影響でロボットなどの遠隔装置に頼らざるを得ないことから、調査の場所や時間が限られています。2021年に予定されている燃料デブリ取り出しの前にPCV内部の状況を正確かつ網羅的に把握することは困難です。そこで、政府の中長期ロードマップおよびNDFによる戦略プランにおいては、燃料デブリ取り出しは「ステップ・バイ・ステップのアプローチ」として、取り出しを進めながら徐々に得られる情報に基づいて、柔軟に方向性を調整していくこととしています。

4.燃料デブリ取り出しに関連する研究開発

燃料デブリ取り出しの研究開発は、「工法やシステムの開発」と「基盤技術の開発」に大別されます。前者は主に燃料デブリ取り出しの戦略検討を行い、後者では戦略を完遂する上で必要となるロボット・機器の開発を行います。なお、PCV内部は、放射線の影響から人が作業できる環境ではないため、ロボットなどを用いた遠隔作業が想定されています。

研究開発を進めるにあたっては、燃料デブリの形状や性状、地震や津波により損傷を受けた建屋の健全性、PCV内部構造物の破損状況など、さまざまな情報を反映して検討を進める必要があります。このように、燃料デブリ取り出しに関連する研究開発は多岐にわたります。2017年原子力学会(秋の大会)のプログラムをご覧になれば、福島第一原子力発電所の燃料デブリ取り出しに関連する研究が数多く行われていることがおわかりいただけると思います(表1参照)。
表1 原子力学会における燃料デブリ取り出しに関連するセッション一覧
表1 原子力学会における燃料デブリ取り出しに関連するセッション一覧
出所:日本原子力学会「2017年秋の大会プログラム」を基に三菱総合研究所作成

5.今後の取り組みについて

2章で述べたように、目前に迫った燃料デブリ取り出しに関する研究開発が盛んに行われると同時に、研究開発成果の現場適用に向けた取り組みが加速することになります。開発された技術を現場で適用するにあたっては、不確かさを持つデブリの形状・性状に柔軟に対応できる技術かどうか、高い放射線環境下で問題なくロボットや機器が動作するか、投入するロボットや機器が現場で動作できるサイズか、コストが妥当か、工期・スケジュールに遅延が生じないかなど、現場で運用する側からのさまざまなニーズに応える必要があります。

また、3章で述べたように、PCV内部の正確かつ網羅的な情報の取得は、燃料デブリ取り出し開始まで困難であると想定されるため、今後の研究開発は、現場の不確定要素に合わせて多様化させる必要があります。これは、廃炉作業中に、計画当初は想定していなかったさまざまな課題に直面すると想定されるためです。例えば、地震や津波による損傷の度合いや炉内の構造物やデブリの分布状況が正確に把握できておらず、工事を進めるにつれて、当初想定した工事方法とは異なる選択をする必要が出てくる可能性もあります。そのため、戦略プランで示される燃料デブリ取り出し方針に沿って研究開発を絞りつつ、少数の代替案も残しておく必要があります。

そして、4章で述べたように、燃料デブリ取り出しに関連する研究開発は多くの機関や組織が行っています。研究開発成果は、燃料デブリ取り出しの工法を検討する材料として活用されていますが、実際に燃料デブリの取り出しが開始された後も、研究開発成果を常に廃炉の現場作業にフィードバックする仕組みが必須となります。また現場へフィードバックするための情報は複数の専門分野にまたがる可能性もあります。そのため、研究開発側と現場で運用する側の連携とともに、各機関・各組織で開発された研究開発成果を共有・理解・統合できる仕組みを強化することが廃炉を進めるために不可欠となります。そのためのツールとして、研究開発の全体像をさまざまな専門分野の人が参照できるような技術マップを作成し、数多くの研究開発が福島第一原子力発電所の廃炉に向けてどのようにつながっていくのかの道筋を、丁寧に描いていく必要があります。

※1 原子力損害賠償・廃炉等支援機構は、中長期的な視点から、廃炉を適正かつ着実に進めるための技術的な検討を行う組織として、2014年に発足しました。

※2 「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ(案)」廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議、http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hairo_osensui/dai3/siryou2.pdf, 2018/3/9閲覧

※3 使用済燃料プールから燃料の取り出しの初号機は4号機です。

※4 NDF,「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の 廃炉のための技術戦略プラン 2017」http://www.dd.ndf.go.jp/jp/strategic-plan/book/20170831_SP2017FT.pdf, 2018/3/9閲覧

※5 燃料デブリがどのような物質によって構成されているかなど、デブリを取り出す際に考慮すべき科学的特性等を示します。