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いまだ不安定な卸電力市場

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2018.9.7

環境・エネルギー事業本部川崎裕太

環境・エネルギートピックス
2016年4月の電力全面自由化以降、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場は、電力小売事業者にとって重要な調達手段となっている。しかし、需要の高まる夏季・冬季には市場価格が急騰(スパイク)するなど、価格は不安定であり、市場を活用する小売事業者は仕入価格の変動リスクを負うこととなる。昨年同様今夏も、特に7月後半に、猛暑の影響によりスパイクが発生した。

流動性が低い市場では、買い手は調達量確保に対する不安心理から高い入札価格を掲示し続ける。その結果一度発生したスパイクの影響は数日にわたり継続する傾向にある。市場の約定量は年々増加しているものの、このようなスパイクの継続性は今夏と昨夏でほとんど差がなく、市場の流動性はいまだ十分ではないと考えられる。

スパイクのような価格変動リスクに対するヘッジ手段として、先物・先渡市場が期待されている。JEPXで開設済みの先渡市場に加えて、東京商品取引所で今年中をめどに先物市場が開設される予定となっている※1。これにより、電力の市場調達価格を固定化することが可能となるが、その契約条件の設定や交渉は非常に難しい。

すなわち、流動性が低い現在の市場において、先物・先渡取引を活用するためには、将来の電力需給バランスに基づき価格を見通す必要がある。自由化が進展する現状で適切な仕入価格の見通しを得ることは、小売電気事業者にとって極めて重要である。それは、需要家が小売電気事業者と契約をする際に適切に料金メニューを比較して価格の妥当性を判断することと同じぐらい重要といってよい。つまり、売る側と買う側の目線に合った客観的な見通しこそが、今後の電力取引市場を活性化させるドライバーとなるだろう。

この社会的課題を解決する有効な手段として当社では早くから将来の卸電力価格の見通しである電力フォワードカーブ※2に着目してきた。現在では、卸電力取引のためのオンライン情報サービス「MPX」(https://www.mpx-web.jp/)を提供しており、3年先までの電力フォワードカーブや6日分のスポット市場の価格予測、その他市場分析に資する情報を配信している。今後も、電力取引の拡大を通じた電力自由化の進展に貢献するべく、電力取引に従事する方々に役立つさまざまなサービスの開発に邁進していく。
図 7月後半の最高気温とスポット市場価格の推移
図 7月後半の最高気温とスポット市場価格の推移
図 7月後半の最高気温とスポット市場価格の推移

※1 東京商品取引所,2018,07,06ニュース「電力先物市場について」
http://www.tocom.or.jp/jp/news/2018/20180706.html

※2 将来の電力の受け渡しについて、現時点で約定する場合の価格を示したもの。将来の卸電力価格に対する、現時点での平均的な見通しを表す。