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2020年東京オリンピック・パラリンピック「スマート都市オペレーション」をレガシーに

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2018.12.4

科学・安全事業本部高橋久実子

Safety Biz

POINT

  • 2020年東京オリンピック・パラリンピックでは、「都市オペレーションセンター(COC)」設置による円滑な都市運営を目指す。
  • COC運営には、最先端技術の実装と実効的な意思決定組織の整備が必要。
  • 東京大会を実証機会と捉え、「スマート都市オペレーション」のパッケージ展開を図る。
1964年の東京オリンピックは、道路、鉄道や競技施設などのインフラ整備を通して、わが国の戦後復興に向けた強い姿勢を世界に発信する好機となった。来る2020年の東京オリンピック・パラリンピック(東京大会)も、少子高齢化や人口減少、頻発化・巨大化する自然災害、テロの脅威、インフラ老朽化などさまざまな課題に対応する先進的な都市運営のあり方を世界に示す機会とすべきではないか。

東京都は開催都市として「安全・安心な都市の実現」というレガシーを掲げ、円滑な都市運営を行うため、大会期間中に「都市オペレーションセンター(City Operation Center ; COC※1)」を設置する旨を発表している。COCは、①円滑な大会運営の支援、②都民生活への影響の軽減という二つの機能を発揮するため、ラストマイル※2の運営、都市機能の維持に係る情報※3を一元的に集約した上で都市運営に関わる迅速な意思決定を行い、開催都市としての役割を果たすことが検討されている。

COCの運営には、セキュリティカメラやセンサーなどのモニタリング技術、人流管理のための群衆解析技術、都市情報の集約基盤・アプリケーションなどの最先端技術の実装が必要である。さらに、国・組織委員会・会場所在区市など多くの関係機関との連携も必要となる。従来、都庁などの行政組織は、専門性に基づき設計された組織構造の下に業務を遂行してきたが、従来のピラミッド構造では、大量の情報を迅速に処理し、速やかに意思決定を行うには時間がかかりすぎるため、技術活用の恩恵を十分に受けることができない。ゆえに、COCでは、危機管理時の標準的な組織運営システムであるICS※4の枠組みを参考に組織体制を構築することで、集約情報を効果的に活用し、円滑な複数部署・機関間連携と意思決定を行うことを目指している。

このような高度な都市オペレーション(スマート都市オペレーション)を行うには、最先端技術の実装というハード面の要素およびその活用を前提とした実効的な意思決定組織の構築というソフト面の要素が必要となる。

東京大会において、大会運営の監視機能として限定的に展開されるCOCは、大会後の都市運営に発展的に引き継がれることで、将来的には大都市・東京のスマート都市オペレーションの実現という形で結実していくことであろう。

東京大会をスマート都市オペレーション実証の機会として捉え、ハードとソフトの両輪を兼ね備えた仕組みと、その運営のノウハウ・知見を蓄積することで大規模イベント誘致など同様の課題を抱える国内外の他都市にパッケージ展開していくことも考えられる。当社も、リスクマネジメント・危機管理の知見をもって、安全・安心な東京大会の成功、またそのレガシーの展開に貢献したい。
図 COCによるスマート都市オペレーションの実現
図 COCによるスマート都市オペレーションの実現
出所:三菱総合研究所

※1東京2020大会における都市運営に係る基本方針(閲覧日 2018.11.20) http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/03/09/documents/08_03.pdf

※2競技会場周辺の駅から競技会場入口(入場者のチケット等の確認を行うソフトチェックポイント)までの、観客が歩行するルート

※3ライフライン、公衆・環境衛生、交通情報、気象情報、事件事故の発生状況、テロ・サイバー攻撃のリスク情報など

※4インシデント・コマンド・システム ; Incident Command System:米国で繰り返し起こる大規模な森林火災に際して、各組織が連携するため1970年代に開発された危機管理の標準手法。