「深層防護」についてはさまざまな議論がありますが、本コラムではあえて福島第一原子力発電所廃炉作業と深層防護というテーマを取り上げました。そこには、事故後8年間が経過し、事故から得られたさまざまな教訓を風化させることのないようにとの思いがあったためです。そこで、現時点で得られている情報や知見に基づき、当社の見解として現状の課題と今後の対策の試案を示した次第です。さらに優れた今後の対応策が検討・提示されて、より安全に福島第一原子力発電所の廃炉が進められることを期待しています。
※1「福島第一原発事故と4つの事故調査委員会」 国立国会図書館 ISSUE BRIEF No.756 (2012.8.23) p.8、および東京電力(東電事故調)「福島原子力事故調査報告書」2012.6.20. pp.39-45
http://www.tepco.co.jp/cc/press/2012/1205628_1834.html(2019年5月20日閲覧)
※2原子力安全とは、人と環境を原子力の施設と活動に起因する放射線の有害な影響から防護すること。
※3原子力事故とは、原子力関連施設での放射性物質や放射線に関係する事故のこと。
※4International Nuclear Safety Group (INSAG) Defence in Depth in Nuclear Safety, INSAG-10 June 1996 なお、深層防護に関するIAEAの最新の記載図書は、SSR-2/1 (Rev.1), Safety of Nuclear Power Plants : Design February 2016
※5DBA:設計基準事故(Design Basis Accident)。原子力施設を設計する際に、ここで想定される事故に対しては対応可能とすることが求められます。
※6BDBA:設計基準事故を超える事故(Beyond Design Basis Accident)。設計基準を超える事故のため、設計で確実に対処できるとはいえません。
※7SA:原子炉の燃料が重大な損傷を受けるなど設計時の想定を超える過酷事故(Severe Accident)。
※8ペレット:原子炉で使用する核燃料を、粉末状にした上で成型し、磁器のように焼結してセラミック化して融点を高めることで、原子炉の壁の一つ目を構成している。ウラン金属は融点が1,132℃であるが、焼結により融点を2,700~2,800℃程度まで高めている。
※9原子炉冷却材圧力バウンダリ:原子炉冷却材を内包して原子炉と同じ条件で圧力障壁を形成するもので、この圧力障壁が万一破損すると原子炉冷却材喪失事故(LOCA)となる範囲の機器、配管、隔離弁等の施設をいう。
※10International Nuclear Safety Group (INSAG) Basic Safety Principles for Nuclear Power Plants 75-INSAG-3 Rev. 1, INSAG-12 October 1999 (ここでは物理障壁としての「原子炉建屋」(第5の壁)は省略されています。)
※11「福島第一原発事故と4つの事故調査委員会」 国立国会図書館 ISSUE BRIEF No.756 (2012.8.23) p.8、および1Fの国会事故調報告書(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会「報告書」2012.7.5. pp.95-125)
※12内部事象:プラントにとって望ましくない事象が、無作為な機器故障や原子力発電所運転員の誤操作等によって生じる場合を「内的事象」と呼ぶ。
※13外部事象:プラントにとって望ましくない事象が、地震・津波や火災、航空機の墜落等の外部からの影響によって生じる場合を「外的事象」と呼ぶ。
※14発電所の外部からの交流受電、発電所内の非常用発電装置による交流電源が全て失われた状態を「全交流電源喪失」と呼ぶ。
※15「IRRS」とは、Integrated Regulatory Review Service(総合規制評価サービス)の略称で、各国の原子力規制機関等の専門家によって構成されるミッションが、IAEA 加盟国の原子力安全や放射線防護に関する各種の規制や取り組みについてIAEA安全基準との整合性をレビューする。わが国においては、2007年6月に旧原子力安全・保安院および旧原子力安全委員会が受入れを実施し、2008年3月に報告書が公表された。その後、2016年1月に原子力規制委員会が2回目のIRRSを受け入れている。ここで、原子力規制委員会は、S8の現況として「東京電力福島第一原子力発電所事故後の炉規法改正により、シビアアクシデントの発生を防止するための基準を強化するとともに、万一シビアアクシデント等が発生した場合に対処するための規制要求を新設するとともに、既設炉にも最新の基準への適合を義務づけるバックフィット制度を導入した。現在実施されている新規制基準適合性審査において、設計基準事象を超える事故の考慮、確率論的リスク評価の利用およびシビアアクシデントマネジメントを含めた体系的な審査を行っている」と説明している。
※16バウンダリ機能:軽水炉等の発電炉において、原子炉冷却材や放射性物質を含む気体などを保持するための建屋、容器および配管等の壁を総称していう言葉。発電炉設備の安全性のための一般設計基準に用いられる用語である。
i1992年5月28日付け原子力安全委員会決定文(1997年10月20日一部改正)「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて」において、以下のとおりとしている。
(1)
我が国の原子炉施設の安全性は、現行の安全規制の下に、設計、建設、運転の各段階において、①異常の発生防止、②異常の拡大防止と事故への発展の防止、および③放射性物質の異常な放出の防止、といういわゆる多重防護の思想に基づき厳格な安全確保対策を行うことによって十分確保されている。(筆者注:ここでは多重防護という言葉が使用されているが深層防護と同義と理解)
(2)
あるアクシデントマネージメントが原子炉施設の設備を大幅に変更することなく実施可能であり、その実施を想定することによりリスクが効果的に減少する限りにおいて、その実施が奨励又は期待されるべきと考えられる。
iiS8に対して、国会事故調査報告書で以下が指摘されている。(1Fの国会事故調報告書(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会「報告書」2012.7.5. pp.560-563))
日本は過去IAEAによるピア・レビューを受けたが、その結果に対しても、適切な対応を怠ってきた。 ~(中略)~ IRRSを2007年に受け入れたが、現時点まで具体的な改善策が取られていない。
~(中略)~ 世界標準が遵守されていることを再チェックされる仕組みとなっているが、日本は2010年2月に受ける予定であったフォローアップ・ミッションを経産省の対応の遅れによりいまだに受けていない。
~(中略)~ このように、日本はIAEAによるピア・レビューを、自らの規制・法的枠組みの改善に用いるというよりは、保安院の独立性が確保されていることのアピールに利用したと言える。