コラム

カーボンニュートラル時代の原子力エネルギー

深層防護って何?

福島第一原子力発電所事故後の原子力

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2019.6.5

原子力安全事業本部佐藤昇平

カーボンニュートラル時代の原子力

1.福島第一原子力発電所の事故とは

東日本大震災は想定外だったという評価が聞かれます。その後の地震、豪雨などの異常気象や火山の噴火でも想定外という言葉が使われています。東京電力福島第一原子力発電所(以下福島第一原子力発電所と記載)の事故調報告書※1でも、「スリーマイル島原発事故(1979年)やチェルノブイリ原発事故(1986年)以降、東電が、国と連携して、設備と運用の両面からシビアアクシデント対策を整備してきた」とし、「今回の事故はその想定を大幅に上回るものであり、これまでの取り組みだけでは事故の拡大を防止できなかった」としています。しかし、「人と環境を放射線リスクから防護すること」を目的とする原子力安全※2に関しては想定外では済まされません。もちろん、東京電力だけでなく、今後いずれの原子力発電所においても想定外を理由とした原子力事故※3は許されません。

想定外、言い換えると想定を超える「不確かさ」に備えるために、「深層防護」という概念があり、さまざまな分野で活用されています。例えば、軍事戦略や、情報システムのセキュリティ対策など、社会への影響が甚大な分野です。原子力安全に対してはこの「深層防護」という概念を活用して、多層の防護策を組み合わせることで、全体としての防護の信頼性を最大限に向上させています。国際原子力機関(IAEA)の原子力安全の専門家による報告書INSAG-10※4では表1に示すように、防護レベルをレベル1からレベル5までの5層に設定しています。

国内においては、1992年5月28日付け原子力安全委員会決定文(ⅰ)において東電福島第一原子力発電所事故の前まではINSAG-10の分類に従えば、深層防護の第1層「異常状態の防止」、第2層「異常状態の緩和とDBA※5の防止」、および第3層「DBAの緩和とBDBA※6の防止」までを安全規制要求とする一方で、第4層「BDBAの緩和」を目的としたシビアアクシデント(SA※7)に対するハード面およびソフト面の対策を事業者の自主的取り組みとして推奨していたと理解できます。しかし、福島第一原子力発電所事故ではこの深層防護の第1層から第3層の防護策が事故後は比較的短時間しか働かず、さらに第4層のシビアアクシデント対策も有効に機能せず、防護レベルの第5層に当たるサイト外の緊急時対応に至りました。
表1 深層防護レベル
  防護
レベル
目的 目的達成に不可欠な手段
プラントの
当初設計
レベル1 異常運転や故障の防止 保守的設計および建設・運転における高い品質
レベル2 異常運転の制御および故障の検知 制御, 制限および防護系、ならびにその他サーベランス特性
レベル3 設計基準内への事故の制御 工学的安全施設および事故時手順
設計基準外 レベル4 事故の進展防止およびシビアアクシデントの影響緩和を含む、過酷なプラント状態の制御 補完的手段および格納容器の防護を含めたアクシデントマネジメント
緊急時計画 レベル5 放射性物質の大規模な放出による放射線影響の緩和 サイト外の緊急時対応

出所:深層防護レベル(INSAG-10 6頁のTable 1)「原子力安全の基本的考え方について」第Ⅰ編 別冊 深層防護の考え方, AESJ-SC-TR005(ANX):2013, p.51

また、深層防護あるいは多重防護と類似した言葉として、「多重障壁」という言葉があります。原子炉の場合、5重の壁とも言われ、「ペレット※8」「燃料被覆管」「原子炉冷却材圧力バウンダリ※9」「原子炉格納容器」「原子炉建屋」の五つを指します。これらの障壁は閉じ込め機能を達成するための重要な手段であり、「人と環境を放射線リスクから防護する」目的に照らして非常に重要です。
図1 放射能を閉じ込める5重の壁
図1 放射能を閉じ込める5重の壁
出所:電気事業連合会「放射能を閉じ込める5重の壁」
http://www.fepc.or.jp/nuclear/safety/shikumi/jikoseigyosei/index.html(2019年5月20日閲覧)
深層防護と多重障壁の関係を説明した例として、IAEAの報告書INSAG-12※10があります。ここでは図2(その1)の左図のように、物理障壁と防護レベルの関係を示し、両者が共に深層防護を構成する(together constitute defence in depth)と説明しています。以降の説明では、深層防護(多重防護)の防護レベルと多重障壁とを区別するために、前者を深層防護、後者を物理障壁と記載します。
図2 深層防護の防護レベルと物理障壁の関係(その1)
図2 深層防護の防護レベルと物理障壁の関係(その1)
出所:INSAG-12を参考として三菱総合研究所作成
図2 深層防護の防護レベルと物理障壁の関係(その2)
図2 深層防護の防護レベルと物理障壁の関係(その2)
出所:INSAG-12を参考として三菱総合研究所作成 *「拡大図」は図2(その1)を示す

2.なぜ深層防護策が有効に機能しなかったのか

では、福島第一原子力発電所の事故では、なぜ深層防護策が有効に機能しなかったのでしょうか。2012年7月5日の国会事故調報告書※11では以下が要因として指摘されました。
  1. シビアアクシデント対策の対象が内部事象※12に限定され、外部事象※13(地震、津波など)、人為的事象(テロなど)を対象外とし、米国では規制対象としている長時間の全交流電源喪失※14を想定していなかった。
  2. シビアアクシデント対策が規制対象とされず、事業者の自主対策とされたため対策の実効性が乏しくなった。
  3. 規制当局が、深層防護について5 層のうち3 層までしか対応できないとの認識を持ちながら必要な措置を怠った。
  4. 9.11 テロ後、全電源喪失に対する機材の備えと訓練を義務付ける規制(通称「B.5.b」)が米国で導入された事実を知りながら、日本の規制には反映させなかった。
  5. 日本のシビアアクシデント対策について、事業者と規制当局のなれ合いの結果、対策範囲は狭く、その対応は遅れ、実効性に乏しく、国際水準を無視したものであった。

元々、2007年のIRRS※15において、S8(Sは提言(Suggestion)を意味する)として以下の指摘を受けていました。

S8: 原子力安全・保安院は、リスク低減のための評価プロセスにおいて設計基準事象を超える事故の考慮、補完的な確率論的安全評価の利用およびシビアアクシデントマネジメントに関する体系的なアプローチを継続すべきである。(ⅱ)
福島第一原子力発電所事故で深層防護策が有効に機能しなかった直接的な原因として、外部事象(地震、津波など)および長時間の全交流電源喪失に対する想定と対策が不十分であったとされていますが、特に深層防護の第4層のシビアアクシデント対策が有効に機能せず、最終物理障壁である原子炉格納容器および原子炉建屋のバウンダリ機能※16を維持できなかったことが事故を一層深刻なものとし、さらに、第5層のサイト外の緊急時対応の不十分さも露呈した結果となりました。

3.福島第一原子力発電所事故の教訓による新たな枠組み

福島第一原子力発電所事故の教訓から、国内外で、再稼働を目的とした原子力発電所の安全性を審査する新規制基準が策定され、その新規制基準に基づく適合性審査が行われています。図3に新たな規制の枠組みのイメージを示します。第4層および第5層の防護策が徹底的に強化されていることがわかるかと思います。
図3 新たなシビアアクシデント対策規制の枠組みのイメージ
図3 新たなシビアアクシデント対策規制の枠組みのイメージ
出所:原子力安全・保安院「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策規制の基本的考え方について(現時点での検討状況)」2012年8月27日
「原子力安全の基本的考え方について」第Ⅰ編 別冊 深層防護の考え方

4.福島第一原子力発電所の今後の廃炉に向けて考えること

福島第一原子力発電所はシビアアクシデント事故によって、ペレット、燃料被覆管、原子炉冷却材圧力バウンダリ、原子炉格納容器、原子炉建屋の閉じ込め機能という全ての物理的障壁が完全にあるいは一部損傷しています。福島第一原子力発電所の現在の状況は、事故時に揮発性の放射性物質のほとんどが放出され、残留する放射性物質は原子炉格納容器などのバウンダリ機能や建屋および周辺部の地面への飛散防止剤の散布等により一定程度の放出抑制が図られています。崩壊熱レベルも事故直後に比べ大幅に低下し、その他、未臨界維持や火災・爆発防止についても、一定の対策と監視により放射性物質の異常放出の脅威の可能性は低い状況にあります。しかし、今後予想される燃料デブリ取り出しに向けた各種の作業や工事における誤操作・誤動作等の内部事象および地震・津波などの外部事象に対して、十分に対処する必要があります。前述の通り、福島第一原子力発電所の現在の状況は通常の運転プラントとは全く異なるため、防護策も運転時とは異なりますが、深層防護の考え方に基づき、多層の防護レベルおよび防護策を講じておく必要があります。

事故炉である福島第一原子力発電所の深層防護レベルおよび防護策の一例(当社試案)を表2に示します。
なお、表2ではIAEAの報告書INSAG-10に準拠して、防護レベルをレベル1からレベル5までの5層で整理しています。
具体的には、福島第一原子力発電所の現在の状況の維持をレベル1の「異常状態の防止」とし、現状からの有意な変化を異常状態として、「異常状態の抑制」をレベル2としています。さらに、放射性物質の異常放出、異常な温度上昇、再臨界、火災・爆発などを事故として、これらに伴う放射性物質の異常放出防止をレベル3の「想定事故の緩和」とし、これらの事故を上回る事故に対する異常放出緩和をレベル4の「想定を越える事故の緩和」としています。
さらに、これらの防護策が効果的に機能せず発電所の外での緊急時対応が必要な状態をレベル5の「周辺の放射線影響緩和」として整理しました。
ここで、「異常状態」や「事故等」は運転プラントでは、運転パラメータの変化量、放射性物質の放出量や公衆被ばく量などによって定量的に定義されますが、福島第一原子力発電所に関しては現状では定量的な定義について合意されたものはありません。また、福島第一原子力発電所のような事故炉について深層防護レベルを何層とするかについても合意されたものはありません。
表2 事故炉である福島第一原子力発電所の深層防護レベルおよび防護策の例(当社試案)
防護
レベル
目的 目的達成のための
防護策の例
懸念されるリスク
レベル1 異常状態の防止
  • 放射性物質放出防止
  • 崩壊熱除去
  • 未臨界維持
  • 火災・爆発防止
  • 現状の放射性物質の保持状態の維持・監視
  • 崩壊熱除去:循環冷却設備の運転と監視
  • 未臨界維持・監視
  • 窒素供給と水素濃度監視
  • 原子炉格納容器および原子炉建屋のバウンダリ機能の脆弱性
  • 強風・竜巻による放射性物質の飛散
  • 屋外仮設設備の脆弱性
レベル2 異常状態の緩和
  • 放射性物質放出防止
  • 崩壊熱除去
  • 未臨界維持
  • 火災・爆発防止
  • 放射性物質の飛散・漏えいの監視と防止策の実施
  • 崩壊熱除去:温度・水位の監視と代替冷却の実施
  • 臨界近接検知と臨界防止策の実施
  • 水素濃度監視と希釈策の実施
  • 同上
レベル3 想定される事故の緩和
  • 放射性物質異常放出
  • 火災・爆発
  • 使用済燃料取扱事故
  • 異常放出の防止策の実施
    (フィルタードベントなど)
  • 崩壊熱除去:外部注水の実施
  • 臨界の終息策の実施
  • 原子炉格納容器および/または原子炉建屋のバウンダリ機能回復とその破損防止対策が必要
レベル4 想定を超える事故の緩和
  • 構造物、重機器等の損壊・落下
  • 使用済燃料の落下破損
  • テロ・サボタージュ
  • 異常放出の緩和策の実施
  • 放射性物質の拡散緩和対策(フィルタードベント、大容量泡放水砲など)
  • 同上
レベル5 周辺の放射線影響緩和
  • オフサイト緊急時対応

出所:三菱総合研究所

表2の福島第一原子力発電所の深層防護レベルおよび防護策の一例から考察されることは、防護レベルや防護策を多層化することは無論重要でありながら、最終物理障壁の原子炉格納容器および原子炉建屋のバウンダリ機能の脆弱性があらためて浮き彫りになることです。従って、防護レベルや防護策の多層化と最終物理障壁のバウンダリ機能強化を組み合わせ、全体として防護の信頼性を向上させることが、「人と環境を放射線リスクから防護する」目的に照らして必要であるということです。
また、原子炉建屋が損傷していることで、強風・竜巻による建屋瓦礫など放射性物質の飛散も懸念されます。さらに、原子炉建屋の屋外に設置された仮設設備の環境条件や経年変化に対する頑健性も気になるところで、これらの懸念の払拭と仮設設備の信頼性を高める観点から、原子炉建屋および仮設設備全体を覆う外周建屋の設置とそれに伴うバウンダリ機能の回復が望まれます。

従って、深層防護の考えに基づく福島第一原子力発電所の信頼性を向上させるための第一の課題は、失われた最終物理障壁である格納容器および原子炉建屋のバウンダリ機能をどのように回復・維持するかであり、そのための方策をできるだけ早期に具体化する必要があります。原子炉格納容器および原子炉建屋のバウンダリ機能回復のための検討は実施されているものの、シビアアクシデント事故により高温高圧にさらされた原子炉格納容器や水素爆発などにより損傷した原子炉建屋のバウンダリ機能の回復には非常に大きな困難が伴うと考えられます。この代替策として、各号機の原子炉建屋の外周建屋の設置、1号機から4号機全体を覆う大型原子炉建屋、さらには、発電所敷地全体を覆う発電所全体カバーなどの構想について、長期的な得失、費用対効果などを含めた総合的な検討が必要と考えます。なお、3号機で進められた使用済燃料取り出し用の原子炉建屋の一部を覆うカバー設置はその第一歩ですが、今後長期間に及ぶ廃炉作業に向けてはさらに広いカバー範囲と頑健性が必要と考えます。

さらに、地震・津波を始めとする外部事象などに対する長期健全性評価を継続的に実施し、各種の深層防護策(防護レベル・防護策および物理障壁機能)が確保されていることを確認する監視・検査方策を確立する必要があります。その上で、その後の燃料デブリ取り出しに際しては、回復した原子炉格納容器および原子炉建屋のバウンダリ機能の一部を開口することが必要となるため、開口するバウンダリ貫通部の処置(グリーンハウス化、セル化、二重化、負圧管理など)の対策を講じるとともに、各種作業に関連する防護策の有効性を評価・確認するべきです。福島第一原子力発電所の廃炉作業を着実に推進するためには、深層防護の考え方で安全対策を講じる必要があると考えます。

5.最後に

「深層防護」についてはさまざまな議論がありますが、本コラムではあえて福島第一原子力発電所廃炉作業と深層防護というテーマを取り上げました。そこには、事故後8年間が経過し、事故から得られたさまざまな教訓を風化させることのないようにとの思いがあったためです。そこで、現時点で得られている情報や知見に基づき、当社の見解として現状の課題と今後の対策の試案を示した次第です。さらに優れた今後の対応策が検討・提示されて、より安全に福島第一原子力発電所の廃炉が進められることを期待しています。

※1「福島第一原発事故と4つの事故調査委員会」 国立国会図書館 ISSUE BRIEF No.756 (2012.8.23) p.8、および東京電力(東電事故調)「福島原子力事故調査報告書」2012.6.20. pp.39-45 http://www.tepco.co.jp/cc/press/2012/1205628_1834.html(2019年5月20日閲覧)

※2原子力安全とは、人と環境を原子力の施設と活動に起因する放射線の有害な影響から防護すること。

※3原子力事故とは、原子力関連施設での放射性物質や放射線に関係する事故のこと。

※4International Nuclear Safety Group (INSAG) Defence in Depth in Nuclear Safety, INSAG-10 June 1996 なお、深層防護に関するIAEAの最新の記載図書は、SSR-2/1 (Rev.1), Safety of Nuclear Power Plants : Design February 2016

※5DBA:設計基準事故(Design Basis Accident)。原子力施設を設計する際に、ここで想定される事故に対しては対応可能とすることが求められます。

※6BDBA:設計基準事故を超える事故(Beyond Design Basis Accident)。設計基準を超える事故のため、設計で確実に対処できるとはいえません。

※7SA:原子炉の燃料が重大な損傷を受けるなど設計時の想定を超える過酷事故(Severe Accident)。

※8ペレット:原子炉で使用する核燃料を、粉末状にした上で成型し、磁器のように焼結してセラミック化して融点を高めることで、原子炉の壁の一つ目を構成している。ウラン金属は融点が1,132℃であるが、焼結により融点を2,700~2,800℃程度まで高めている。

※9原子炉冷却材圧力バウンダリ:原子炉冷却材を内包して原子炉と同じ条件で圧力障壁を形成するもので、この圧力障壁が万一破損すると原子炉冷却材喪失事故(LOCA)となる範囲の機器、配管、隔離弁等の施設をいう。

※10International Nuclear Safety Group (INSAG) Basic Safety Principles for Nuclear Power Plants 75-INSAG-3 Rev. 1, INSAG-12 October 1999 (ここでは物理障壁としての「原子炉建屋」(第5の壁)は省略されています。)

※11「福島第一原発事故と4つの事故調査委員会」 国立国会図書館 ISSUE BRIEF No.756 (2012.8.23) p.8、および1Fの国会事故調報告書(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会「報告書」2012.7.5. pp.95-125)

※12内部事象:プラントにとって望ましくない事象が、無作為な機器故障や原子力発電所運転員の誤操作等によって生じる場合を「内的事象」と呼ぶ。

※13外部事象:プラントにとって望ましくない事象が、地震・津波や火災、航空機の墜落等の外部からの影響によって生じる場合を「外的事象」と呼ぶ。

※14発電所の外部からの交流受電、発電所内の非常用発電装置による交流電源が全て失われた状態を「全交流電源喪失」と呼ぶ。

※15「IRRS」とは、Integrated Regulatory Review Service(総合規制評価サービス)の略称で、各国の原子力規制機関等の専門家によって構成されるミッションが、IAEA 加盟国の原子力安全や放射線防護に関する各種の規制や取り組みについてIAEA安全基準との整合性をレビューする。わが国においては、2007年6月に旧原子力安全・保安院および旧原子力安全委員会が受入れを実施し、2008年3月に報告書が公表された。その後、2016年1月に原子力規制委員会が2回目のIRRSを受け入れている。ここで、原子力規制委員会は、S8の現況として「東京電力福島第一原子力発電所事故後の炉規法改正により、シビアアクシデントの発生を防止するための基準を強化するとともに、万一シビアアクシデント等が発生した場合に対処するための規制要求を新設するとともに、既設炉にも最新の基準への適合を義務づけるバックフィット制度を導入した。現在実施されている新規制基準適合性審査において、設計基準事象を超える事故の考慮、確率論的リスク評価の利用およびシビアアクシデントマネジメントを含めた体系的な審査を行っている」と説明している。

※16バウンダリ機能:軽水炉等の発電炉において、原子炉冷却材や放射性物質を含む気体などを保持するための建屋、容器および配管等の壁を総称していう言葉。発電炉設備の安全性のための一般設計基準に用いられる用語である。

i1992年5月28日付け原子力安全委員会決定文(1997年10月20日一部改正)「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて」において、以下のとおりとしている。
(1)
我が国の原子炉施設の安全性は、現行の安全規制の下に、設計、建設、運転の各段階において、①異常の発生防止、②異常の拡大防止と事故への発展の防止、および③放射性物質の異常な放出の防止、といういわゆる多重防護の思想に基づき厳格な安全確保対策を行うことによって十分確保されている。(筆者注:ここでは多重防護という言葉が使用されているが深層防護と同義と理解)
(2)
あるアクシデントマネージメントが原子炉施設の設備を大幅に変更することなく実施可能であり、その実施を想定することによりリスクが効果的に減少する限りにおいて、その実施が奨励又は期待されるべきと考えられる。

iiS8に対して、国会事故調査報告書で以下が指摘されている。(1Fの国会事故調報告書(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会「報告書」2012.7.5. pp.560-563))
日本は過去IAEAによるピア・レビューを受けたが、その結果に対しても、適切な対応を怠ってきた。 ~(中略)~ IRRSを2007年に受け入れたが、現時点まで具体的な改善策が取られていない。
~(中略)~ 世界標準が遵守されていることを再チェックされる仕組みとなっているが、日本は2010年2月に受ける予定であったフォローアップ・ミッションを経産省の対応の遅れによりいまだに受けていない。
~(中略)~ このように、日本はIAEAによるピア・レビューを、自らの規制・法的枠組みの改善に用いるというよりは、保安院の独立性が確保されていることのアピールに利用したと言える。