2009年にスタートした再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が今年で満10年となる。住宅用太陽光発電は同制度に基づく買取期間が10年間であり、この期間を終了した、いわゆる「卒FIT電源」の行方に注目が集まっている。買取期間が満了する住宅用太陽光発電の数は、今年だけで約53万件※1にのぼるとみられ、電気事業者による住宅用太陽光の「卒FIT電力争奪戦」が始まっている。これまでは、FIT制度で定められた買取価格によって余剰分の電力を電気事業者が義務的に買い取る形になっていた。卒FIT電源に移行した後は、需要家は発生した電力を自家消費するか、卒FIT電力の買取を公表した電気事業者から最も買取条件の良い事業者を選ぶことが可能となる。
電気事業者は、卒FIT電力買取を通して得た分散型リソース(蓄電池や太陽光発電など、電力需要地の近くや各家庭に分散して設置された電源や需要家設備)を有効活用していくことが重要になる。これまで顧客に対して電力を売ることを主たるサービスとしていたが、卒FIT電力買取を契機に電気事業者はサービスの幅を広げていくことが求められる。
卒FIT電力はさまざまな用途で活用することができる。まず卒FIT電力の持つ環境価値の活用である。環境価値とは、発電時にCO2を排出しないことで、CO2削減に貢献している電力に対して与えられる価値のことである。主に太陽光や風力などの再エネで発電された電力に対して付与される価値であり、日本では「Jクレジット」「グリーン電力証書」「非化石価値証書」として取引が行われている。住宅用太陽光由来の卒FIT電力にも環境価値が認められ、これら証書の発行対象となる。その卒FIT電力を束ねて得た環境価値を、高度化法※2で電力小売事業者に課される目標の達成に活用したり、再エネ電力メニューとして外部に売ったりすることができる。また、卒FIT電力の買取を入り口として電力販売以外のサービスを展開する事業者も現れている。例えば、需要家の契約を電気だけではなく、ガスもセット契約にすることを条件に、卒FIT電力の買取価格を高くするメニューも現れている。このメニューは需要家にとっては、高い価格で卒FIT電力を買い取ってもらうメリットがある一方で、電気事業者にとっては電気とガスのセット売りをすることで、住宅の消費エネルギー全体を自社に囲い込むことができ、利益の確保につながる。また、新規に蓄電池を購入する需要家に対し、高価買取を提示している例もあり、卒FIT買取をきっかけに製品の販売につなげる意図も垣間見える。
一方、電力システム改革の進展によって、卒FIT電力の買取にとどまらず、分散型リソースの活用の幅は今後さらに広がっていくと考えられる。需要家だけでなく卸電力市場・容量市場※3・需給調整市場※4の各市場で、分散型リソースがもたらす価値を提供できるようになる。電気事業者は状況に応じて最も利益を得られる売り先を選択することで、自らの収益拡大に向けた戦略を立てられるようになる。つまり、卒FIT電力買取を契機に、電気事業者は従来の需要家への電力販売サービスだけでなく、「次世代型エネルギーサービス事業」への転換が可能となる(図)。
分散型リソースを活用したビジネスの検討や実際の運用には、最新の政策動向を把握しつつ、海外の先行事例を参考にノウハウやツールを作り上げていく必要がある。現在、経済産業省においてエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)検討会が行われており、分散型リソースを活用したエネルギーサービスのあり方についても議論がなされている。当社は、ERAB検討会の事務局を担当し、分散型リソースを活用した事業について、関連する制度設計の支援も行っている。電力市場が新たな転換点を迎える中で、エネルギーサービス事業者や蓄電池メーカーなどにとって必要な知見やソリューションを提供できるように貢献していきたい。
図 次世代型エネルギーサービス展開概要