コラム

社会・経営課題×DX経営コンサルティング

第9回:デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた1stワンマイル

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2020.11.9

企業DX本部中西祥介

社会・経営課題×DX

POINT

  • DXを目指すも、単純なIT化にとどまっている企業も多い。
  • データの欠損など、分析可能なデータになっていないことも原因。
  • いかに容易に分析可能なデータを作成できるかがDXの鍵となる。
コロナ禍を契機に、多くの企業で社内業務の単純なIT化と顧客接点等の変更が進んだ。しかしながら、IT化を急速に進めた結果として、紙で行っていた業務がそのままITの世界で取り扱われている。多くの企業では、従来の自社の商品やサービスの提供といったビジネスモデル自体は変わらず、データ駆動経営※1の段階にまで到達できていない。

DXでデータ駆動経営の実現を目指す際には、新サービス提供や既存業務の抜本的改革を狙ってデジタル技術を試行的に適用しながら「フルデジタル」の世界を目指す方法がある。この方法では、PoC※2を繰り返しながらデータ駆動経営に必要な分析可能なデータが蓄積されていくが、レガシーシステムの存在がネックとなり多額の投資を伴うシステム刷新の必要が生じることも多い。

もう一つの方法が、すでに保有しているものの実際の活用が進んでいないデータを活用して、短期のサイクルで「見える化」「分析」「改善」を繰り返しながら、自らの事業やサービス・商品に対する洞察を深め、変革ポイントがどこにあるのかに気づいていく方法である。例えば、B2C事業で顧客行動が把握できるケースでは、目的やチャネル別に構築された顧客接点のシステムに散在する詳細な情報を統合することで、顧客の行動・感じる価値に対する洞察を深めることができる。こういった活動は、データ駆動経営の試行そのものであり、自社の提供価値を変革するポイントの気づきにつながる。また、試行の結果として本格的なデジタル投資を行う際にも、効率的な取り組みが可能となる。

実際には活用されていないデータを分析の対象として使おうとすると、「①紙や電子ファイルはあってもデータになっていない」「②データはあってもコンテクストやデータ項目の意味がわからず分析可能なデータになっていない」といった壁にあたってしまうことが多い。DXの取り組みのインプットとして活用するためには、「1stワンマイル」として以下のステップに取り組むことが必要である。

ステップ1:紙/通常の電子ファイル(Word、Excel、PDFなど)から、RPA※3やAI-OCR※4といった技術も活用して「データ」を生成する
ステップ2:ステップ1で生成した「データ」や、さまざまなシステムに散在した「データ」を分析可能な形にするため に、データ項目の意味やコンテクストをひも付けた「分析可能なデータ(デジタルデータ)」として蓄積する

ステップ2で、必要となったデータ項目の意味やコンテクストを一つひとつ発生元にさかのぼって定義・確認していくには、大変な労力が必要となる。そのためステップ2では、コンテクストやデータ項目の意味を、無理に整備せず、後からでも付与できるような形で統合データベースを構築しておくことが重要である。こうすることで、DXの取り組みを進める中で分析対象とするデータ範囲の拡大・見直しや集約粒度の変更があっても、柔軟に対応することができる。このようなデータの蓄積のやり方が可能なツールの活用により、フルデジタルでの業務・情報システムの作り替えを待たずにデータ駆動経営の元となるデータを確保し、分析・変革を試行することができる。これによって、データ駆動経営に向けたステップを短サイクルかつ少額の投資で刻みながら上がっていくことが可能となり、本格投資の際の効果や効率にも貢献することができる。

※1:データに基づき経営・事業の意思決定を行っていくこと。

※2:Proof of Concept。新たなアイデアや概念の実現がどこまで可能かを、試行しながら検証すること。

※3:Robotic Process Automation。ヒトが情報システムやWord・Excelなどのツールを使って、実施してきた定型的・繰り返しの事務作業などを、人の代わりに、PCやサーバーなどの上で自動的に実施するための技術。

※4:AI-Optical Character Recognition。深層学習など最新のAI(人工知能)技術を用いて、文字認識精度の飛躍的向上を行った光学文字認識技術。

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