コラム

環境・エネルギートピックスエネルギー

新電力経営に必要なALM(資産と負債の一体的管理)の視点

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2020.11.9

イノベーション・サービス開発本部村上文則

環境・エネルギートピックス

需給バランスで変動する電力の取引相場

皆さんが自宅で契約している電力会社の料金プランを見ていただきたい。1kWhあたりの料金は、段階にもよるがおおよそ20~30円程度ではないだろうか。この価格が高いか安いかはさておき、重要なのは価格が基本的に今月も来月も同じという点である。1kWhあたりの料金が固定(燃料費調整制度は除く)されているからこそ、消費者は安心して電気を使える。

一方でこの状況は、電力会社、特に自前の発電所を持たない新電力会社にとっては困った事態をもたらす。なぜなら、電力の仕入れコストは一定ではないからである。電力は大規模な貯蔵が難しい特殊な財であり、電力会社同士の取引価格はその瞬間の需要と供給のバランスが反映され大きく変動する。

一例として、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場を見てみる。ここでの約定価格(東京エリア1カ月平均)は、2020年7月が4.83円/kWh、翌2020年8月は7.53円/kWhと、短期間のうちに50%以上高騰している※1。こうした価格変動の要因としては、供給の側ではLNG・石炭といった燃料価格、発電所の稼働計画、自然エネルギーの発電量などが考えられる。需要の側では気象条件や社会情勢・経済状況などが挙げられる。

ALMの考え方への注目

ではこの市場環境に対して、新電力会社はどのような戦略で臨めば良いのだろうか。機械的に市場から必要量を調達するだけの単純な方法を用いた場合、仕入れコストと託送料金※2、営業費の合計が販売価格を超過する逆ザヤのリスクに大きくさらされてしまう。前述の通り、電力の取引相場はその時々で大きく変動するからである。

ここで参考になるのが、ALM(Asset Liability Management:資産と負債の一体的管理)の考え方である。ALMは主に金融業界で用いられる手法であり、資産と負債を一体的に関連付けて管理することを意味する※3。例えば銀行などの金融機関では、顧客から調達した資金を投資に用いている。資産側(貸付金の回収など)の利回りと負債側(顧客への利息支払いなど)の利回りとの差が利ザヤになる。資産側と負債側のポートフォリオの経済価値はそれぞれ市場金利の変動に伴って変化するが、金利に対する両者の感応度を事前に計測しコントロールすることで※4、金利変動の影響が財務の健全性へ及ぶリスクを低減可能である。

つまり、収益を左右する変数の不確定性をあらかじめ考慮に入れた上でポートフォリオの最適化を図る。金融自由化の進展に伴って激化する競争を生き残るためにも、精緻なリスク管理の手段としてALMへの注目度が増している※5

ALMの手法の応用

これと同様に考えてみよう。小売事業者が将来の電力供給を消費者に約束すると、事業者にとって将来分の電力の仕入れコストは負債的な性格を持つことになる。一方で、対価として受け取る電気小売料金は資産的な性格を持つ。

ALMの手法は多岐にわたるが、簡単な例として、負債側で先物・先渡市場を活用して将来の仕入れコストをあらかじめ固定化すれば相場変動の衝撃を和らげることができる。

反対に、資産側をコントロールする方法もある。一部で登場してきたJEPX連動型の小売料金メニューはこの考え方に分類される。これは普及が進んでいるスマートメーター※6を活用して、日々JEPXで決まる卸市場取引価格に小売単価を連動させる料金体系である。事業者にとっては、負債側の価格変動に相関・追随するかたちで資産側の価値も変動するので、両者の差を相場の状況に関わらず安定させることができる。消費者にとっても相場の安定期などには価格メリットを享受できる可能性がある。ただし料金単価の変動リスクが常に存在することについて、事前に丁寧な説明を行う必要があるだろう。

発電所を所有している事業者にとってもALMは有用なはずだ。発電所は売電収入を利回りとして生む変動金利の資産として捉えられる。資産側である将来の売電収入と、負債側である建設用の借入資金や将来分の燃料費を一体的に捉えることで最適化が可能となる。

MPXを通じた貢献

新電力会社は、相場の変動に備えた予備的な手元資金を必要としている。市場リスクを積極的にコントロールすることでキャッシュフローの不確実性を抑えられれば、必要な手元資金量も減少し、結果的に資本効率の向上に寄与するだろう。
 
ALMを行う上で必要なのは、市場変動要因の分析・理解と、不確定性も含んだかたちで市場の将来見通しを得ることである。当社ではさまざまな側面からお客さまの電力ビジネスを支援しており、中でも卸電力取引向けのオンライン情報サービス「MPX(MRI Power Price Index)」では、電力フォワードカーブや確率過程モデルによる市場価格のシミュレーション結果、市場理解に必要な各種データを集約した分析プラットフォームといった豊富なコンテンツを提供している。今後も本サービスを通じて電力卸取引の活性化と電力事業経営の効率化に貢献してきたい。

※1:日本卸電力取引所(JEPX) 2020年度スポット市場取引結果。
http://www.jepx.org/market/index.html(閲覧日:2020年10月16日)

※2:小売電気事業者が支払う、送配電網の利用料金。

※3:日本証券アナリスト協会編 (2009)「新・証券投資論[II]」日本経済新聞出版社 p.353。

※4:資産と負債のデュレーション(将来キャッシュフロー発生までの平均期間)などが指標としてよく用いられる。

※5:金融庁 「主要行等向けの総合的な監督指針 III -2 財務の健全性等」。
https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/city/03b.html(閲覧日:2020年10月16日)

※6:通信機能を搭載し、電力使用量を30分ごとに細かく計測できる電力量計。

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