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2020年米国大統領選挙が気候変動対策に与える影響

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2020.11.18

サステナビリティ本部山口建一郎

高橋尚子

環境・エネルギートピックス
2020年11月3日、米国では大統領および上下院議員の選挙が行われた。得票数や一部の結果について、最終稿作成時点(2020年11月16日)で完全には確定していないが、現状最も可能性が高いと考えられる「民主党による政権獲得(バイデン氏の大統領就任)、共和党多数の上院、民主党多数の下院」という前提で、米国の気候変動対策への影響について論じる※1

1.バイデン氏の気候変動対策に関する選挙公約

バイデン氏は、気候変動対策に関する選挙公約※2※3として、2050年までの温室効果ガス実質排出ゼロ達成、インフラ投資によるレジリエンスの強化、選挙翌日の2020年11月4日に米国が離脱したパリ協定への再加入を含めた国際協調を掲げている※4。これらの対策は、雇用保護を標榜(ひょうぼう)して石炭産業の保護や環境規制の緩和を進めてきたトランプ氏の対応とは大きく異なる。バイデン氏は公約実現のために今後10年間でクリーンエネルギーに1.7兆ドルの予算を投じ、また2025年末までに目標達成を担保するためのメカニズムを設立するとしているが、詳細は未定である。また、シェールガスの採掘は大統領選挙の接戦州における主要な争点であるため、民主党内でも見解は統一されていない。

2.今後の米国の気候変動対策に対する見通し

バイデン氏が目指す気候変動対策は先進的に見えるが、当面は限定的な進捗にとどまるであろう。その理由は二つある。

第1は上院における共和党の多数派維持である。上院の権限として、下院と同等の立法権のほか、大統領が指名する人事(上級官僚職および将校など)の承認が挙げられる。近年、議会において共和党と民主党の間の溝が深まる傾向が顕著である。共和党が過半数を握る上院では、気候変動対策に限らずバイデン政権および民主党議員により起草された法案が採択されないばかりか、政府との対立により、閣僚人事すら滞る可能性がある。これまで米国では、気候変動対策に積極姿勢を示した民主党オバマ政権下においても、連邦政府が起草した新たな気候変動対策法案について、議会で両党が合意に至らず成立しない状況が続いてきた。その結果、連邦政府の気候変動対策は、既存の大気浄化法(Clean Air Act)による規制の対象にCO2を含めることで温室効果ガス排出規制を行うという、議会の意向を諮る必要がない行政主体の取り組みに留まってきた。バイデン政権でも同様の状況になることが予想される。

第2は連邦最高裁判所における保守派の圧倒的多数の確立である。連邦最高裁の裁判官は大統領により指名され上院が承認する9名からなるが、任期は終身制であるため、指名当時の政権の影響が長期にわたり継続する。トランプ政権は4年間で既に3人の保守派を連邦最高裁判事として指名し、結果として気候変動対策に消極的な保守勢力が6名と圧倒的多数となった。これにより、バイデン政権が気候変動対策を立法によらず大統領令に基づき実施したとしても、当該大統領令に反対する勢力が訴訟提起して違法性を争った場合、連邦最高裁により違法と判断される可能性が高まっている。

結果として、バイデン政権においては、トランプ政権下で生じたような気候変動対策の後退には歯止めがかかることが期待されるが、上院や連邦最高裁の影響により対策の進展は限定的になることが予想される。当面は、新型コロナウイルス感染症に起因する失業対策の一環として、再生可能エネルギーの推進やインフラ投資を促進に向けた政策を実施するなど、両党の合意が比較的容易に得られやすい施策が中心となろう。

3.日本と世界の脱炭素化へ向けた影響

菅首相は2020年10月26日の所信表明で、「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。これはパリ協定や、欧州各国およびバイデン氏が掲げる長期的な目標と整合するものである。

「カーボンニュートラル」は、排出を完全にゼロにすることと比べて技術的な難度は下がるが、何をもって「ニュートラル」とみなすかという点について、国際的な共通認識の確立が必要となろう。このために、国際的な枠組みであるパリ協定に基づく議論の進展が期待されるところである。しかし上記のように米国は、短期的には上院、中期的には連邦最高裁の影響で、大幅な気候変動対策の推進が望めない可能性が高い。このことはパリ協定の目標である今世紀後半の「カーボンニュートラル」実現へ向けた障壁になる恐れがある。

なお、日本は従来も温室効果ガスの「2050年80%削減」という大幅な削減目標を掲げており、「カーボンニュートラル」目標は従来の路線から実態として大きく変わるものではない。しかしながら、「80%減」と異なり、「カーボンニュートラル」は、排出する全ての主体に対してカーボンオフセット(温室効果ガスを直接削減することが難しい場合に排出削減に効果のある別の活動を実施すること)などを何らかの形で実施することを促す。このため、あらゆる主体が気候変動対策を自分事として捉える契機となろう。特に米国と関係の深い日本の民間企業は、バイデン氏の2050年までの温室効果ガス実質排出ゼロ達成という公約もふまえ、気候変動対策の検討を急ぐ必要がある。

当社は、民間企業の気候変動対応コンサルティングにおいて実績と知見を有しているほか、CO2回収・貯留・利用(CCUS)技術の推進などの対策にも密接に関与しており、このような「カーボンニュートラル」への対応に貢献する所存である。

※1:2020年11月16日現在、上院の獲得議席数は共和党50~52議席、民主党50~48議席となると想定されるが、本稿では共和党優勢という前提で検討した。

※2:Joe Biden, CLIMATE CHANGE: The Biden-Harris plan to create union jobs by tackling the climate crisis
https://buildbackbetter.com/priorities/climate-change/(閲覧日:2020年11月16日)

※3:Joe Biden, The Biden Plan for a Clean Energy Revolution and Environmental Justice
https://joebiden.com/climate-plan/(閲覧日:2020年11月16日)

※4:パリ協定は行政協定という法的性質を有しており、合衆国憲法において条約締結のために求められる正規の批准手続(上院の出席議員の3分の2の賛成)を要せずに、大統領の専権で締結・批准することが可能である。

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