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日本経済・企業のサプライチェーン強靭化に向けた提言 ─ポストコロナの国際情勢変化を踏まえて

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2021.9.8

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:森崎孝)は、コロナ危機がもたらした国際情勢、産業・企業、社会・個人への影響を踏まえ、ポストコロナで目指すべき社会を「レジリエントで持続可能な社会」と位置づけ、その実現に向けた提言を公表してきました(2020年7月「ポストコロナの世界と日本」、同年10月「目指すべきポストコロナ社会への提言」)。今回は、そのなかの国際情勢について、米中対立の渦が国際社会を巻き込みながら拡大している状況を踏まえ、日本経済・企業のサプライチェーン強靭化に向けた提言をとりまとめました。

コロナ危機と米国政権交代による国際情勢の変化

米国トランプ政権下で貿易摩擦として表面化した米中対立は、コロナ危機と米国の政権交代を経て、多面的な対立へと発展している。バイデン政権は中国を「唯一の挑戦国」と位置づけ、前政権の強硬姿勢を引き継いだ格好だが、同盟国との連携強化など、中国へのアプローチには変化がみられる。

米中対立の渦は国際社会を巻き込みながら拡大している。米国輸出規制に端を発する世界的な半導体不足、台湾を巡る緊張の高まり、中国の輸出管理法施行など、グローバルなサプライチェーンの地政学的な脆弱性が明らかになってきた。経済安全保障上のリスクに備える動きは、米中以外の国々にも広がりがみられる。

中国としては米国など西側諸国の輸出管理強化をにらみ、ハイテク・サプライチェーンの内製化など自律的な成長力強化を喫緊の課題として取り組んでいる。また、対外的には、一帯一路圏の国々を中心に、貿易・投資・融資を通じた経済的な関与を強めるとともに、先端技術分野でも中国が存在感を高めている。中国への経済的依存度が高まることで、これらの国々に対する中国の政治的な影響力も強まる可能性がある。

米中相互の経済依存関係は深いことから、短期的に経済圏の分断が進む可能性は低いものの、先端技術が絡む一部の分野では、企業の投資先変化などを通じて、中長期的にサプライチェーンなどの選択的な分断が進む可能性が高い。サプライチェーンの複線化や技術開発拠点の見直しなどを戦略的に進めることが重要になる。

日本経済・企業のサプライチェーン強靭化に向けて

日本経済・企業が直面する経済安全保障上のリスクは、サプライチェーンや技術の分野に絞っても多様なものがある。まずは日本としてどのリスクに備えるべきか、政府と産業界が連携してゴールを設定する必要がある。

そのうえで、日本企業としては、サプライチェーンの把握など自社事業における経済安全保障上のリスクについて把握できる社内の体制を構築し、経営として意思決定していく必要がある。これらをもとに、調達先の多元化など事業の継続性強化や、社内の機微技術・情報の特定などリスク管理体制強化を講じていくべきだ。

日本政府は、企業のサプライチェーン強靭化を支援する役割が期待される。企業のインテリジェンス機能を補完するとともに、サプライチェーン上のチョークポイントとなる戦略物資の代替調達先確保など、投資金額もリスクも大きな案件については、政府が戦略的に他国との交渉をリードしていく必要がある。また、ルールに基づく競争的な市場環境の形成・発展に向けて、QUADやG7など価値観を共有する国々と協調し、ハイレベルな経済協力や国際ルールづくり、およびその世界への展開に政府として積極的に関与すべきだ。その担い手となる国際人材の輩出・育成に向けて、産官学が連携して国際交渉の場で通用する人材の層を厚くすることも重要だ。

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