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2020年1月号トピックス2エネルギー・サステナビリティ・食農

再生可能エネルギーの主力電源化に向けて

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2020.1.1

環境・エネルギー事業本部佐々田 弘之

エネルギー・サステナビリティ・食農

POINT

  • 「脱炭素社会」実現に向け再生可能エネルギーの主力電源化が重要。
  • 主力電源化の鍵は蓄電コスト削減によるストレージパリティの実現。
  • 「再エネ+蓄電池」は低廉化に加え、防災・減災への貢献も期待。
2015年のパリ協定採択で「脱炭素社会」実現が世界的な潮流となり、日本でも2050年までの温室効果ガス排出量の80%削減を迫られている。今後はエネルギー政策の根幹である「3E+S」※1に基づく再生可能エネルギーの主力電源化が重要になろう(図)。再エネは、期間限定で電力会社に高値での買い取りを義務づける固定価格買取制度(FIT)を追い風に導入が加速し、2017年度に電力供給の16%(電力量ベース)を担うまでになった。この比率は2030年度には22~24%へと上昇する見込みである。

しかし、FIT適用外となった後の発電事業者の経営環境が不透明になる懸念があるほか、取引市場も十分に機能していないなどの課題がある。需給変動や環境価値との関係を織り込んで再エネ電力の価値を可視化するとともに、誰もが利用できる仕組みである市場の創設が求められている。

再エネは今後、市場での自立的普及フェーズに移行していく。再エネ発電施設の経営にあたっては、FITによる買い取り価格だけを見ていればよい状況は変わり、再エネ電力のもつ複数の価値を見極めていくことが求められる。具体的には、再エネの電力市場への統合が大きな政策テーマとなり、電力量の価値、設備容量の価値、需給調整力の価値、環境価値などを見通していくことが必要となる。

2012年開始のFITについては、再エネ普及を後押しするため買い取り価格を引き上げ過ぎたとの指摘もあった。しかし、今後は発電コストや蓄電池価格の低下に伴って、ストレージパリティ※2が可能になろう。2020年以降は「再エネ+蓄電池」のシステムが、現実的な温室効果ガスを大幅に削減する主役として、継続的に導入されていくであろう。

再エネ+蓄電池のシステムは、環境面での価値も高く、量・質ともに安定した供給が可能である。自立分散型でもあるため、地域の福祉施設や病院、学校などに導入して地産地消のマイクログリッド※3電源として活用すれば、災害時にも対応できるようになる。防災・減災を通じたレジリエンス※4の強化に大きく貢献して日本のエネルギー自給率向上に寄与すると考えられる。

※1:安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)に安全性(Safety)を加えたもの。日本のエネルギー政策の基本的な概念とされる。

※2:蓄電池やシステムなどのコスト低減が進み、導入しないよりもした方が需要家に経済的なメリットがある状態になること。

※3:既存の大規模発電所にほとんど依存せず、一定の地域内での供給源と消費施設をもつ小規模なエネルギー網。

※4:さまざまな環境変化に対する適応能力、リスク対応能力のこと。

[図]今後の日本におけるエネルギー政策の方向性