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2020年1月号特集経済・社会・研究開発

新年の内外経済の展望

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2020.1.1
経済・社会・研究開発

POINT

  • 保護主義の経済影響が強まる中、2019年の世界経済は成長減速へ。
  • 2020年、経済減速が社会・政治不安に波及する悪循環を回避できるか。
  • 日本経済は増税後の内需の回復力が焦点、未来につながる東京五輪を。

1.2019年を振り返って

2019年の世界を振り返ると、四つの潮流が強まった年といえる。

第一は米中の覇権争いである。米ペンス副大統領は10月に「中国とのデカップリングは望んでいない」と発言したが、世界の覇権を巡る新旧大国の争いの中で米中間の貿易・投資は相互に縮小。結果的に米中間の経済的分断は進んだ。米国が投資や輸出を通じた技術流出への規制を強める中、中国は技術面での対米依存度を低下させるべく研究開発投資を加速させた。

第二は民主主義・資本主義のほころびである。既存政治への失望を背景に、ポピュリズム的政策への支持が世界的に拡大、政治が不安定化している。英国のEU離脱をめぐる混乱や、米大統領予備選における民主党候補者の左傾化はその象徴だ。格差拡大に対する批判の矛先は大企業にも向けられ、米経営者団体が株主第一主義の見直しを宣言、投資家利益を重視してきた米国型資本主義を修正する動きもみられた。

第三はデジタル経済圏の主導権争いである。Libra※1など民間企業が発行主体となるデジタル通貨構想に対し、各国政府はマネーロンダリングや金融政策への影響に対する懸念を表明した。中央銀行発行のデジタル通貨では中国が先行、2020年にも地域を限定した導入実験を開始する見込みだ。国境を超えるデジタルサービスへの課税をめぐっては、国際ルールづくりへの議論が進んだ反面、米欧の対立も表面化した。

第四は気候変動問題の深刻化である。世界平均気温の上昇ペースが加速※2、南仏では史上最高となる46℃を記録した。日本でも大型台風による被害が相次いだ。欧州では脱炭素の流れが強まる一方で、米国はパリ協定離脱を正式通告、ブラジルもアマゾン開発を促進するなど、地球規模の課題に対する取り組みの「温度差」も表面化した。

世界経済は好不況の転換点へ

これら四つの潮流の強まりが先行きへの見通しを難しくした結果、世界の経済政策の不確実性指数は8月に過去最高値を記録、経済活動の抑制要因となった。米中対立などを背景に世界の貿易が停滞、輸出の下振れが各国経済の成長減速要因となる中、これまで堅調だった各国内需の雲行きも怪しくなった。2019年の世界経済の成長率は2.9%と、2018年の3.5%から減速した模様だ。世界の潜在成長率は3%程度とみられ、世界経済は好不況の転換点に差し掛かっている。

緩和的な金融環境下で拡大するリスクテイク

成長減速に伴うインフレ率の低下や景気後退リスクの高まりを受けて、世界的に金融政策の緩和スタンスが強まった。米国が7月に金融緩和に転じ、欧州も9月にマイナス金利の深掘りを実施した。先進国の国債残高のうち利回りがマイナスの割合は実に30%に達した。成長減速局面において、安全資産とされる金や債券が買われるのは自然な流れだが、2019年は、リスク資産とされる株価や原油価格も同時に上昇した。これら四つの価格が同時に一定の幅以上上昇※3するのは、過去50年間で初めてである。

米中対立で変わる貿易・投資構造

米中対立の長期化が予想される中、グローバル企業は米中分断を前提とした供給網の組み直しに動いた。企業収益は圧迫されるが背に腹は代えられない。中国からの生産移転の動きを捉え、外資誘致を積極化させているASEANでは、輸出と海外直接投資受入がともに拡大している。ただし、打撃を受けるのは中国だけではない。中国は農産物の調達先をブラジルなどに大胆にシフトさせており、米国からの大豆輸入は2018年半ば以降に急減。悪天候も重なり、米農業部門の経営環境は悪化している。

多国間協調の後退と国際的な課題解決力の低下

米国をはじめ国際社会の秩序形成をリードしてきた大国が内向き化する中、国際的な課題解決力の低下が露呈した1年でもあった。12月には貿易紛争解決の最終審判を担うWTO上級委員会が審議不能になったほか、G7、G20の共同声明では「反保護主義」の文言を盛り込むことすらできなかった。そうしたなか、多国間協調の後退に対する防波堤として一定の存在感を示したのが日本だ。デジタル経済圏の国際ルールづくり※4に加え、自由貿易の推進でも貢献した。10月に合意した日米貿易協定が発効すれば世界のGDPの6割※5を占める国・地域からなる自由貿易圏を形成することになる。

2.2020年の展望

2020年の世界経済は成長下振れ局面が続く見込みだ。当社では、米国が2.2%(2019年)→1.8%(2020年)、中国が6.1%→5.9%と世界GDPの4割を占める米中経済が減速、欧州は1%台前半、インドも5%程度の低成長にとどまると予測する。

懸念されるのは、2020年の成長減速が今後10年単位で世界経済が下振れるトリガーとなりかねない点だ。振り返れば、12年前の世界金融危機をきっかけに経済格差が一段と拡大し、有効な解決策を提示できない既存政治に対する不満が、ポピュリズム・自国第一主義の政権を生んだ。保護主義の強まり、構造改革の先送り、国際協調からの離反といった政策運営の結果として、成長減速や財政悪化など負の側面が表面化しつつある。「漂着点」としての成長減速が「発火点」に転じ、次なる停滞に陥る悪循環を回避できるか、2020年は重要な分岐点となる。

ポイント①:米中対立

米中両国は2019年12月に「第1段階の合意」に至ったが、今後は硬直的な状況が続くと予想する。一段の関税引き上げは消費者や農家への打撃が大きいことから選挙前には回避される可能性が高い一方で、中国が米国の要求する産業補助金の削減などに応じる可能性も低く、既存関税の撤廃も見込みにくいためだ。

2020年の対立軸は、投資や輸出への規制など非関税分野へとシフトし、より個別化していくだろう。外国企業による米国への投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の権限強化が、2020年から本格運用される。また、安全保障上の懸念などを理由に特定の中国ハイテク企業との取引を禁止する動きも広がっている。未来の競争力のコアとなる先端科学技術で中国の競争力が急速に高まる中、中国に対する米国議会の強硬姿勢は民主党も巻き込んだ超党派の動きとなっている。

ポイント②:米大統領選挙

2020年11月に米大統領選挙が実施される。トランプ大統領の支持率は政権発足後も一貫して40%前後を維持しており、大統領選1年前の支持率としては、1期目のオバマ大統領と遜色ない水準だ。現政権下で米国経済は改善、失業率は50年ぶりの低水準を記録しているほか、良くも悪くも公約を実現してきた実績への評価もあり、共和党支持層からは90%にのぼる圧倒的支持を得ている。一方の民主党予備選では、資産課税や国民皆保険を唱える急進左派の候補※6が支持を集めているが、現職大統領への決定打となる対抗馬は不在だ。トランプ大統領が再選される可能性は高まっているが、選挙に予想外は付き物。結果次第では米国の政策が大きく振れる可能性もある。

ポイント③:中国リスク

中国は、習国家主席が掲げる「小康社会」実現に向けた5カ年計画の最終年にあたる。2010年比でのGDP倍増目標はほぼ達成できるとみられるが、あくまで中間目標にすぎない。中長期的に見据えるのは、GDPの世界シェアが3割、一人あたりの所得水準でも世界の上位にあった明王朝時代の再現とされる。当社予測では、建国100周年を迎える2049年までに中国の世界GDPシェアは3割近くに達し、米国を抑え世界トップとなる見込みであり、現実を見据えた目標といえよう。

ただし、その実現に向けて2020年は特に慎重な政策運営が求められる局面にある。成長率が6%を割り込むことが濃厚な中、債務のデフォルト額は過去最高を更新し続けている。当社の推計では、中国の不良債権処理コストは日本のバブル崩壊後に比べGDP比で1.4倍の規模に達する恐れがある※7。米国からの「外患」のみならず、香港の混乱や習国家主席の強権的統治への反発など「内憂」も強まっている。

ポイント④:欧州政治

英国のEU離脱は混迷を極める。2019年12月の総選挙では与党保守党が勝利したが、EU離脱が実現しても英国内の分断は一段と深まる可能性が高い。英国世論調査によると※8、10年後に英国がいまの形では存在しないと考える人が50%に達している。

大陸欧州の政治・経済も不安定だ。ドイツが景気後退に陥る可能性は依然として高いほか、超低金利下で金融機関の財務状況が悪化しておりドイツ発の金融システム不安にも警戒が必要だ。加えて、14年余の長きにわたり多様な欧州をまとめてきたメルケル独首相の退任が2020年に前倒しされる可能性も高まっている。イタリアやスペインでも政権基盤が揺らぐなど、政策面での停滞が懸念される。

ポイント⑤:金融不安定化

超低金利を背景に安全資産での運用収益が見込めないなか、世界的な金融緩和にも後押しされる形で、株式や投機的格付債券(BB格以下)などリスクを伴う運用が拡大している。実体経済が悪化する中で米国株価が史上最高値を更新するなど、適切なプライシングへの疑念も強まっている。レバレッジド・ローンの拡大をはじめ、リスクテイクに対する警戒心の鈍化は、2008年の世界金融危機前を彷彿(ほうふつ)とさせる。今後、世界経済の減速圧力が一段と強まり、市場の想定を超える確率と規模でデフォルトが発生すれば、金融市場が不安定化し景気後退に拍車をかける要因となる。

2020年の日本経済:消費税増税後の回復力が焦点

日本経済は景気後退の瀬戸際にある。景気後退確率は2019年10月時点で50%を上回っており※9、事後的に景気後退局面にあったと認定される可能性は十分にある。

2020年の注目点は、消費税増税後の景気の回復力だ。仮に景気後退と認定された場合でも、すみやかに自律的な回復局面に移行できればダメージは小さい。前回増税時と比較しても雇用・所得環境は改善している。2013年末に比べて、就業者数は340万人増、雇用者報酬は同31兆円増、社会保険料などの負担増を加味した可処分所得でも同20兆円増加している※10。海外リスクの顕在化による下振れには注意が必要だが、消費税増税対策や2019年12月に発表された経済対策も下支え要因となり景気低迷の長期化は回避、2020年度は前年比0.5%増とプラス成長を維持すると予測する。

未来につながる東京オリンピック・パラリンピックに

前回の1964年大会は、その後の経済成長や科学技術発展の出発点となった。成熟国として迎える2020年大会は、一様な「量」の豊かさから、多様な「質」の改善を追求する時代への転換点に位置する。課題先進国として日本が提唱する人間中心の原則は、社会の持続可能性を高める上で有効である。格差・分断を乗り越え、五輪マークに込められた世界の協調・団結の重要性を再確認できる大会となることを願う。

※1:米Facebookが発行を予定しているブロックチェーンベースの仮想通貨。

※2:アメリカ航空宇宙局(NASA)発表。

※3:上昇の定義は、前年の終値から当年の終値との変動幅を算出したのち平均および分散で標準化し、0.5以上のプラスを上昇とした。金はドル建て価格、原油はWTI、債券利回りは米国10年物国債、株は米国S&P500。

※4:ダボス会議で自由なデータ流通を目指すData Free Flow with Trustを提唱し、大阪で開催されたG20では大阪トラックの開始を宣言したほか、OECDの「人工知能に関するOECD原則」策定に日本が貢献した。

※5:名目GDPベース。

※6:サンダース上院議員やウォーレン上院議員。

※7:不良債権処理に伴うインパクトを、①不良債権のバランスシートからの切り離し(貸倒引当金繰入額+貸出金償却)、②株価下落の影響(株式等売却損+株式等償却)に分割。「(貸倒引当金繰入額+貸出金償却)/貸出金」の比率および「(株式等売却損+株式等償却)/保有有価証券額」の比率が、中国と日本で同程度と仮定し、現時点の中国の全銀行のバランスシートをもとに試算。

※8:市場調査会社イプソス・モリが2019年10月に実施した英国の将来に対する調査。

※9:Hamilton, J. (1989), A New Approach to the Economic Analysis of Nonstationary Time Series and the Business Cycle, Econometrica, 57(2),357-384.の方法を用い、三菱総合研究所推計。

※10:2013年10-12月期から2019年4-6月期にかけての変化。

[図] 2020年の世界経済における五つの注目点

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