2019年の世界を振り返ると、四つの潮流が強まった年といえる。
第一は米中の覇権争いである。米ペンス副大統領は10月に「中国とのデカップリングは望んでいない」と発言したが、世界の覇権を巡る新旧大国の争いの中で米中間の貿易・投資は相互に縮小。結果的に米中間の経済的分断は進んだ。米国が投資や輸出を通じた技術流出への規制を強める中、中国は技術面での対米依存度を低下させるべく研究開発投資を加速させた。
第二は民主主義・資本主義のほころびである。既存政治への失望を背景に、ポピュリズム的政策への支持が世界的に拡大、政治が不安定化している。英国のEU離脱をめぐる混乱や、米大統領予備選における民主党候補者の左傾化はその象徴だ。格差拡大に対する批判の矛先は大企業にも向けられ、米経営者団体が株主第一主義の見直しを宣言、投資家利益を重視してきた米国型資本主義を修正する動きもみられた。
第三はデジタル経済圏の主導権争いである。Libra※1など民間企業が発行主体となるデジタル通貨構想に対し、各国政府はマネーロンダリングや金融政策への影響に対する懸念を表明した。中央銀行発行のデジタル通貨では中国が先行、2020年にも地域を限定した導入実験を開始する見込みだ。国境を超えるデジタルサービスへの課税をめぐっては、国際ルールづくりへの議論が進んだ反面、米欧の対立も表面化した。
第四は気候変動問題の深刻化である。世界平均気温の上昇ペースが加速※2、南仏では史上最高となる46℃を記録した。日本でも大型台風による被害が相次いだ。欧州では脱炭素の流れが強まる一方で、米国はパリ協定離脱を正式通告、ブラジルもアマゾン開発を促進するなど、地球規模の課題に対する取り組みの「温度差」も表面化した。
第一は米中の覇権争いである。米ペンス副大統領は10月に「中国とのデカップリングは望んでいない」と発言したが、世界の覇権を巡る新旧大国の争いの中で米中間の貿易・投資は相互に縮小。結果的に米中間の経済的分断は進んだ。米国が投資や輸出を通じた技術流出への規制を強める中、中国は技術面での対米依存度を低下させるべく研究開発投資を加速させた。
第二は民主主義・資本主義のほころびである。既存政治への失望を背景に、ポピュリズム的政策への支持が世界的に拡大、政治が不安定化している。英国のEU離脱をめぐる混乱や、米大統領予備選における民主党候補者の左傾化はその象徴だ。格差拡大に対する批判の矛先は大企業にも向けられ、米経営者団体が株主第一主義の見直しを宣言、投資家利益を重視してきた米国型資本主義を修正する動きもみられた。
第三はデジタル経済圏の主導権争いである。Libra※1など民間企業が発行主体となるデジタル通貨構想に対し、各国政府はマネーロンダリングや金融政策への影響に対する懸念を表明した。中央銀行発行のデジタル通貨では中国が先行、2020年にも地域を限定した導入実験を開始する見込みだ。国境を超えるデジタルサービスへの課税をめぐっては、国際ルールづくりへの議論が進んだ反面、米欧の対立も表面化した。
第四は気候変動問題の深刻化である。世界平均気温の上昇ペースが加速※2、南仏では史上最高となる46℃を記録した。日本でも大型台風による被害が相次いだ。欧州では脱炭素の流れが強まる一方で、米国はパリ協定離脱を正式通告、ブラジルもアマゾン開発を促進するなど、地球規模の課題に対する取り組みの「温度差」も表面化した。
世界経済は好不況の転換点へ
これら四つの潮流の強まりが先行きへの見通しを難しくした結果、世界の経済政策の不確実性指数は8月に過去最高値を記録、経済活動の抑制要因となった。米中対立などを背景に世界の貿易が停滞、輸出の下振れが各国経済の成長減速要因となる中、これまで堅調だった各国内需の雲行きも怪しくなった。2019年の世界経済の成長率は2.9%と、2018年の3.5%から減速した模様だ。世界の潜在成長率は3%程度とみられ、世界経済は好不況の転換点に差し掛かっている。
緩和的な金融環境下で拡大するリスクテイク
成長減速に伴うインフレ率の低下や景気後退リスクの高まりを受けて、世界的に金融政策の緩和スタンスが強まった。米国が7月に金融緩和に転じ、欧州も9月にマイナス金利の深掘りを実施した。先進国の国債残高のうち利回りがマイナスの割合は実に30%に達した。成長減速局面において、安全資産とされる金や債券が買われるのは自然な流れだが、2019年は、リスク資産とされる株価や原油価格も同時に上昇した。これら四つの価格が同時に一定の幅以上上昇※3するのは、過去50年間で初めてである。
米中対立で変わる貿易・投資構造
米中対立の長期化が予想される中、グローバル企業は米中分断を前提とした供給網の組み直しに動いた。企業収益は圧迫されるが背に腹は代えられない。中国からの生産移転の動きを捉え、外資誘致を積極化させているASEANでは、輸出と海外直接投資受入がともに拡大している。ただし、打撃を受けるのは中国だけではない。中国は農産物の調達先をブラジルなどに大胆にシフトさせており、米国からの大豆輸入は2018年半ば以降に急減。悪天候も重なり、米農業部門の経営環境は悪化している。
多国間協調の後退と国際的な課題解決力の低下
米国をはじめ国際社会の秩序形成をリードしてきた大国が内向き化する中、国際的な課題解決力の低下が露呈した1年でもあった。12月には貿易紛争解決の最終審判を担うWTO上級委員会が審議不能になったほか、G7、G20の共同声明では「反保護主義」の文言を盛り込むことすらできなかった。そうしたなか、多国間協調の後退に対する防波堤として一定の存在感を示したのが日本だ。デジタル経済圏の国際ルールづくり※4に加え、自由貿易の推進でも貢献した。10月に合意した日米貿易協定が発効すれば世界のGDPの6割※5を占める国・地域からなる自由貿易圏を形成することになる。