マンスリーレビュー

2020年1月号トピックス4ヘルスケア

「予見」「予防」で健康寿命を延伸

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2020.1.1

プラチナ社会センター柏谷 泰隆

ヘルスケア

POINT

  • 令和は、医療における「4つのP」が実現する時代。
  • Predictive(予見)とPreventive(予防)によってQOLが向上。
  • 超高齢化が進む日本は、実現のための実証フィールドになりえる。
昭和から平成にかけて、日本人の主な死因は、感染症から、がん・心疾患・脳血管疾患となり、生活習慣病を中心とする疾病へと大きく構造が変化した。医療保険制度の負担と給付のひずみが拡大し、QOLの悪化にもつながった。令和の時代は、デジタル技術やライフサイエンスの進展により、医療分野における「4つのP」の実現に向けた動きが加速するだろう(表)。感染症と比べて、生活習慣病は発症までの期間が長く、発症前のPredictive(予見)とPreventive(予防)の実現で、個人のQOLは格段に向上する。

病気の予測・早期診断が可能になってきた背景には、レセプト(診療報酬明細書)や日々の診療データ、遺伝子検査データなどの集約・活用基盤の構築や、分析のためのAI技術向上などがある。類似の症状や遺伝子をもつ患者のデータが多く集まるほど、予測の精度は上がる。医療用AIの開発は世界中で進められ、画像診断からがんゲノム医療、認知症の早期発見、創薬まで、応用領域は広がりつつある。世界規模でデータが蓄積・分析されれば、治療の難しい希少疾患などへの適応も可能となる。

予測された病気の発症予防には、人々の行動変容が鍵となる。企業における健康経営の取り組みや、健康・予防へのインセンティブが付いた民間保険なども増えるだろう。遺伝子レベルでの予測精度が高まるとともに、予防のための行動変容が多くの人々に浸透すれば、健康寿命の延伸にもつながる。人生を豊かに過ごせる期間が延び、社会保障費への過剰な心配は無用となる。PredictiveとPreventiveの進展で、関心の低い層を含めた多数の人々が自分の行動を変えるきっかけは確実に増える。

健康寿命の延伸と持続可能な社会保障制度の構築を両立させるために、制度改革は必要不可欠である※1。しかし、先端技術活用で「4つのP」が実現され、生活習慣を身構え過ぎることなく自然に変容できるようになればさらに効果的だ。

世界に先駆けて超高齢化が進む日本では、デジタルヘルスやAIを活用したサービス開発・実証ができる市場が豊富にある。日本の経験は、急速に高齢化が進むアジア諸国などにおいても参考になるだろう。

※1:当社政策・経済研究センター「未来社会構想2050」では、人生100年時代を支える財政・社会保障制度へ向け、健康寿命の予測と財政収支の推計を行っている。

[表]医療にまつわる世界的な新トレンド=「4つのP」