マンスリーレビュー

2023年3月号トピックス2経営コンサルティングヘルスケア

ウェルビーイング経営の起点は「自己診断」

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2023.3.1

政策・経済センター山藤 昌志

経営コンサルティング

POINT

  • ウェルビーイング向上が企業経営や政策立案にとって重要に。
  • 当社が開発した独自指標の分析結果は建設業界の動向とも合致。
  • 従業員の「自己診断」や提供価値の計測に向けて同指標は有用。

企業経営への活用は道半ば

2021年に世界経済フォーラムが「人々の幸福を中心とした経済」を宣言したことを起点に、日本でもウェルビーイングが政策立案や企業経営の目標として掲げられるようになってきた。

このため企業はESGやSDGs、人的資本といった非財務価値が、従業員、顧客や取引先のウェルビーイング向上にどの程度寄与するかを明示して、自社の経営に活かすよう迫られている。しかし、実践できている例はごく少数である。

当社の独自指標と「建設業コラボヘルス」

ただ、ヒントはある。当社は2021年、ポストコロナ社会の究極的な目標をウェルビーイングの最大化と位置付け、その達成度を探るツールとして「MRI版ウェルビーイング指標」を開発した※1。36の指標で構成され、当社のアンケートパネルを用いて年次で定点観測を行っている。

これまでの分析では、興味深い結果が出ている。ウェルビーイング向上に最も大きな影響を及ぼす要素が「将来への希望」であることや、「地球環境への配慮」などのエシカル(倫理性)を重視する傾向が強まっている点だ。

この分析結果には、企業が目指す方向とも符合する部分がある。当社は建設業界全体の健康づくりを後押しするため、日本建設業連合会(日建連)、全国土木建築国民健康保険組合とともに「建設業コラボヘルス」※2を進めている。

日建連はかつて建設業に向けられがちだった3K(きつい、汚い、危険)イメージに代えて、新4K(給与、休暇、希望、かっこいい)の達成を掲げている。「希望」や「かっこいい」が業界理念に加わった事実は、当社分析で「将来への希望」や倫理性が重視されていることと合致している。

当社は建設業コラボヘルスでの経験を踏まえ、建設業界の特色を反映したウェルビーイング指標の構築を検討している。成果が得られれば、他の業界とも同様の取り組みをしていきたい。

まずは「自己診断」に活用を

企業が人的資本経営やサステナビリティ経営を掛け声だけで終わらせないためには、非財務価値の改善を通じて、ステークホルダー全体のウェルビーイング向上を目指す必要がある。

まずは従業員の「自己診断」が求められよう。顧客や株主、取引先と並んで重要なステークホルダーである従業員に直接的なアンケートを行って、ウェルビーイングをめぐる状況を可視化するのだ。

従業員のウェルビーイングは心身の健康だけでなく、社会とのつながりや自己実現、将来への希望、自身が働く企業が多様性実現や地球環境保護に取り組んでいるか否かにも左右される。

その実情を科学的に把握するツールとして、当社の独自指標は有用だと考える。さらに、ステークホルダー全体に自社がどのような価値を提供できるのかを計測して経営理念を見直していけば、「ウェルビーイング経営」実現へと一歩踏み出すことができるのではないだろうか。