マンスリーレビュー

2023年3月号特集3エネルギーサステナビリティ

ものづくりを支える蓄電池リサイクル実現を

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2023.3.1

サステナビリティ本部細田 幸佑

エネルギー

POINT

  • 蓄電池のリサイクル・リユース政策が欧州や中国で加速。
  • 日本でもサプライチェーン強化の観点からの取り組みが求められる。
  • 国内リユース促進とリサイクル産業の競争力強化で資源の還流を目指す。

蓄電池の「資源循環」に海外政府が動く

カーボンニュートラル社会にとり、蓄電池の利用は欠かせない。現在はリチウムイオン二次電池(LiB)が需要の中心であり、特に電気自動車(EV)向けの必要性が急激に高まっている。

原料需要も急増し、LiBに使用されるリチウムやコバルト、ニッケルなどを含む「蓄電池資源」の年間需要は2040年にかけて、2020年比で30倍以上に増大するという試算もある※1。蓄電池資源の安定確保に向け各国は、鉱山権益の確保支援や省資源型の次世代蓄電池の開発と並びリユースやリサイクルでも政策を打ち出している。

例えばEUで昨年暫定合意された電池規則案※2では各種電池の回収やリサイクルなどに関して、加盟国や事業者に対する義務を強化している。欧州は蓄電池のサプライチェーンをアジアに依存してきた。新規則は蓄電池の域内資源循環の促進などを通じて依存度を下げ、関連産業を欧州に集積させる狙いがあるとされる。

一方でEVの生産や販売で世界最大の台数の中国では、自動車メーカーと蓄電池メーカーに「拡大生産者責任※3」を適用し、より管理された車載蓄電池の回収・リサイクルを進めている。蓄電池リユースの基準なども策定し、EVと蓄電池の製造・消費大国として、環境と経済の両立を目指して蓄電池資源の循環を促している。

蓄電池資源の海外流出が国内産業の課題に

日本では小型蓄電池や車載蓄電池などそれぞれで、メーカーの共同回収スキームが構築されている。ただしあくまで自主的なスキームで、回収率の目標などはない。

加えて車載蓄電池の処理では、適正であることを条件に、最も経済合理的な方法が選択されている。このため資源回収のためのリサイクルではない場合もある。解体事業者が取り外した蓄電池はリユースやリサイクル目的で輸出されることもあり、総量は取り外した蓄電池の2〜3割と報告されている※4

まだ日本の蓄電池リサイクルへの政策的対応は強化されていない。短期的に見れば、使用済み蓄電池の排出は現時点では少なく、廃棄に伴う環境問題なども顕在化していない。しかし長期的に見れば、リサイクルで回収された原料が国内へ再供給されることは、電池や自動車など国内のものづくり産業の維持、発展へ寄与する。

海外でのリサイクルの競争優位性が高まれば、国内で発生するスクラップの多くが経済原理から輸出され、国内産業へ安定的に循環する資源は減少する(図)。供給の安定性や環境負荷の低さの面で利点のあるリサイクル原料が入手困難になることは、国内の自動車や蓄電池産業の国際競争力の一部を損ないかねない。
[図] 理想的な蓄電池リサイクルの姿
[図] 理想的な蓄電池リサイクルの姿
出所:三菱総合研究所

リユース促進とリサイクル産業の競争力が鍵

この現状に対し当社からは、EV普及後を見据えて日本が取り組むべき2つの点を紹介したい。

第1に国内での中古蓄電池リユースの拡大である。リユースは蓄電池を国内にとどめる観点(国内ストックの拡大)から重要である。リユースの効率化に有効なツールの一つとして「デジタルプロダクトパスポート」がある。事業者間で製造情報や残存性能など必要な情報を共有でき、欧州では「バッテリーパスポート」の名称で導入の準備が進められている。また企業が製品を所有し貸し出す事業モデル(サブスクリプションやリース・レンタル)であれば、個人所有に比べ廃棄段階でまとまった量を扱え、リユースやリサイクルにつなげやすい。

第2にリサイクル産業の国際競争力の強化が必要である。リサイクル後の蓄電池資源の国内需要を拡大するとともに、技術革新を推し進め、サプライチェーンで連携した事業モデルの確立を急ぐ必要がある。実現すればアジア圏を含めて海外から蓄電池のスクラップを日本へ還流させる構想の実現も可能となる。より低コスト・高効率なリサイクルの技術開発については国も支援して※5、早期実用化を促している。

並行して、EV普及で先行する海外市場へリサイクル事業者が進出し、原料を獲得し事業経験を積むことも重要である。また中長期な視野では、日本が先行する次世代型蓄電池を、リサイクル技術までセットにして開発や実証していくことが、電池産業の競争力維持に寄与する。

※1:国際エネルギー機関(2021年)"The Role of Critical Minerals in Clean Energy Transitions"

※2:2022年12月9日付の欧州委員会プレスリリースより。合意後の文書は未公開。

※3:OECD(経済協力開発機構)が提唱した、製品の生産者が廃棄段階についても一定の責任を負うという環境政策の概念。

※4:経済産業省(2022年7月26日)「第5回 蓄電池産業戦略検討官民協議会」。

※5:NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金においてリサイクル技術開発への支援事業が採択されている。