マンスリーレビュー

2023年3月号トピックス1海外戦略・事業経済・社会・技術

社会課題解決型スタートアップで新たな日越関係を

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2023.3.1

ハノイ駐在員事務所緒方 亮介

海外戦略・事業

POINT

  • ベトナムとの外交樹立50周年は新たな関係構築の好機。
  • スタートアップへの投資機運が高まっているが足かせも。
  • 課題先進国である日本の産官学による制度構築で支援を。

外交樹立50周年を機に

2023年は日本とベトナムの外交関係樹立50周年である。これを機に、社会課題をビジネスで解決する「インパクトスタートアップ」の支援を通じ、日本がベトナムの「質の高い成長」を実現するという両国関係の新たなあり方を提案したい。

同国でのスタートアップ投資は2021年に前年比3倍強の約14億米ドル(約1,880億円)と、過去最高となった。DXを活用して既存産業の効率化や再構築を進める例も多く、シンガポールやインドネシアで活動するベンチャーキャピタルも、次々とファンドを立ち上げている。

この国の若者と直接話していると楽しい。祖国を良くしたいという熱意やエネルギーは、最近の日本ではあまり感じることがない。若年層が多いこともあるが、近年の著しい経済成長によって、誰もが前向きで今日より明日が良くなると信じている様子がうかがえる。

スタートアップ成長を阻む3つの要因

ただしスタートアップのさらなる成長を阻む、3つの足かせも存在している。

まずはグローバル志向の企業が少ない。1億人近い人口を抱える国内市場が存在し、外資にとっての参入障壁の高さも相まって「ガラパゴス」的発想の強い会社が多い。

次に国内の資金調達市場が未整備なため、利益確保を急ぐあまり、長期的な視点でビジネスを展開できない企業が多い。

3番目は大学発のスタートアップがほぼ皆無な点である。ハノイ工科大学のように、スタートアップを支援する組織を傘下に有する大学は、極めて少ない。

課題先進国としての日本の強み

これら3点の克服に向けては韓国なども積極的に取り組んでいるが、日本の産官学が連携して立ち向かうことが、最も効果的だと考える。

ベトナムは経済成長の半面で、人件費の高騰や大気汚染、少子高齢化といった社会課題を抱えている。政府も裾野産業の育成や、環境配慮型の投資の積極誘致によって、社会課題解決と経済発展の両立による「質の高い成長」を志向している※1

課題先進国である日本は、少子高齢化や公害、交通渋滞といった分野において知見を有しており、「新たな未来を創る」視点で産官学が連携してベトナムを支援していくことができる。

ビジネスによって社会課題を解決するインパクトスタートアップは、その原動力となりうる。また、ベトナムでは法制度のあいまいさを逆手に取って、オンライン診療やドローン宅配など、日本では規制などによって実現困難なことに挑戦するスタートアップも増えている。

インパクトスタートアップを日本が率先して支援すれば、質の高い成長を実現できると考える。社会課題解決を起点とするビジネスに取り組んできた当社も、ベトナムのインパクトスタートアップの創出や育成に積極的に取り組んでいきたい。

※1:ベトナム共産党が2019年に制定した政治局50号決議において指針を示した。