マンスリーレビュー

2023年3月号特集2エネルギー・サステナビリティ・食農

プラスチック資源循環の高度化と拡大に向けた方策

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2023.3.1

経営イノベーション本部佐藤 智彦

サステナビリティ本部齋藤 有美

エネルギー・サステナビリティ・食農

POINT

  • プラスチック資源循環はCN時代の社会要請に。
  • CN化の鍵はリサイクルの推進とバイオマスの利活用にある。
  • 3つの協調領域を拡大させプラスチック資源循環の活性化を。

プラスチックにも迫りくるCN化の潮流

利便性、汎用性、経済性に優れ、身近にあふれる「プラスチック」。世界生産量は2019年に約4億6,000万トン(t)と1990年比3.5倍に達した※1。世界需要量は今後さらに拡大し、2050年には約9億8,000万tとなる見通しである※2。利用が爆発的に拡大したことで、水生環境下のプラスチックの蓄積量が積み上がり、深刻な海洋汚染を引き起こしている。2050年には2020年比38%増の約3億8,400万tに達すると推測される※3

また現状では、世界の温室効果ガス排出量の3.4%※4がプラスチック起因だが、今後の生産量拡大により排出量増加が見込まれ、カーボンニュートラル(CN)化の要請が強まっている。

リサイクルとバイオマス利活用の推進が鍵

CN化に向けては化石資源由来プラスチックの減少が不可欠である。対応には生産を継続しつつ生産量を減らす「リデュース」、「リサイクル」、化石資源由来プラスチックから脱却する「バイオマスプラスチック導入」の3つのアプローチが有効である。

リデュースは、少子高齢化や法規制により国内消費が抑制される中での推進となるが、効果は限定的である。一方でリサイクルやバイオマスプラスチックの導入の伸びしろは大きい。

リサイクル手法3種のうち2つは、破砕や溶解などで物理的に材料レベルに戻す「マテリアルリサイクル(MR)」、化学的な手法で原料や分子レベルに戻す「ケミカルリサイクル(CR)」だ(図)。

国内の廃プラスチック処理では、過去20年で未利用プラスチックが減少し有効利用率は高まったが、受け入れ先の大半は焼却熱を利用するもう1つのリサイクル手法「エネルギーリカバリー(ER)」であり資源循環が途絶していた。MR、CRの比率を拡大することで効率的に資源を利用し、化石資源由来プラスチックからの脱却、ひいてはCN化に貢献することができる。

しかしリサイクルにも課題がある。MRは循環を繰り返すと原料の熱履歴に基づく物性劣化が不可避である。劣化した二次資源の受け皿としてCRを活用できると、より高度な資源循環を実現できるだろう。他方CRの再資源化処理は、高温で処理するほど低分子化が進むが、その分エネルギー消費量は大きくなる。既存のプラスチック製造プラントが活用可能という利点を考慮すれば、化石資源由来プラスチックの減産に伴う設備稼働率の低下を避けうる。早期の実用化とリサイクル量の拡大が期待される。

最後にバイオマスプラスチックは、CN素材という点が魅力だが、サトウキビやトウモロコシ、トウゴマなど原料生産加工の大部分を海外に依存している。世界的なバイオ燃料需要の増加に伴いバイオマス需要の拡大も見込まれることから、国内のサプライチェーンを構築する必要がある。
[図] プラスチックリサイクル技術の概要と内訳の推移
[図] プラスチックリサイクル技術の概要と内訳の推移
出所:一般社団法人プラスチック循環利用協会の公表資料に基づき三菱総合研究所作成

プラスチック資源循環の活性化に向けた方策

プラスチック資源循環を活性化するためには、特集1で挙げたように、①リサイクルを容易にする「設計の共通化」、②質と量の両面で二次資源のリサイクル機会拡大を実現する「二次資源マーケットの構築」、③国内バイオマス資源の円滑な調達を実現する「生産者・利用者連携」の3つの打ち手が有効であると考えられる。

①の成功事例にはペットボトルリサイクルがある。国内のリサイクル率86%は欧米と比べ高水準だ。飲料業界が「自主設計ガイドライン」を制定し、設計の共通化に取り組んだ成果である。リサイクルが難しいフィルム形状の製品パッケージ材でも、化学工業各社が開発したモノマテリアル(単素材)化、相容化※5などの技術を活かし、ユーザーである食品業やトイレタリー業などがガイドラインを策定し設計を共通化すれば、選択肢の拡大によりリサイクル率が向上すると考えられる。

②ではデジタル技術を活用したプラットフォームが不可欠だが、その上で取引される情報パッケージを過不足なく設定できるかがポイントである。当社では情報パッケージの構成に関する実証研究を関係主体と連携し進めている。

③については、バイオマス資源をプラスチック原料として用いる化学工業が、バイオマス資源の生産から関与しつつ、林業などに対して連携・支援を行うことが重要である。川上と川下の企業の連携はサプライチェーンを強靱化する上で不可欠であり、廃棄物処理業などの静脈産業との連携・支援も重要性を増すだろう。

以上の方策を通じ、CN化に対応したプラスチック資源循環の高度化と拡大の実現が期待される。

※1:OECD(2022年)"Secondary production is growing, but makes up only six percent of total plastic production(graph)"増加率は三菱総合研究所が算出。

※2:OECD(2023年)"Global Plastics Outlook:Plastics use by polymer - projections"

※3:OECD(2023年)"Global Plastics Outlook:Plastic leakage to the aquatic environments - projections"に基づき三菱総合研究所が算出。

※4:OECD"Plastic leakage and greenhouse gas emissions are increasing"

※5:異なるポリマー素材同士を分子レベルで混合させることで、MR時の性能低下を改善する技術。