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経営の意思と戦略に基づくマテリアリティ特定を

長期思考やステークホルダーとの対話がカギ
2024.6.1
杉下 寛樹

ビジネスコンサルティング本部杉下寛樹

二嶋 晃平

ビジネスコンサルティング本部二嶋晃平

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INSIGHT

サステナビリティ経営の核となるのが、「マテリアリティ(重要課題)の特定」である。中長期的な事業環境の変化と、自社が目指す未来の企業像・社会像を明確化し、経営の意思と戦略を盛り込んだ特徴的なマテリアリティを掲げることが重要だ。この観点から、独自性の高いサステナビリティ経営に取り組む日本企業も増えつつある。本コラムではそうした先進事例を踏まえ、企業価値向上につながるマテリアリティ特定のポイントを解説する。

特色あるマテリアリティ特定のためのポイント

多様なステークホルダーからの要請に対応する形で、サステナビリティに関し自社が取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を幅広く特定する企業は多い。一方、オピニオンでも紹介しているように、最近では特定の課題に絞った特徴的なマテリアリティ特定を行い、開示している企業も増えつつある(図1)。
図1 特徴的なマテリアリティを掲げる企業例
特徴的なマテリアリティを掲げる企業例
注1:丸井グループ サステナビリティ 4つの重点テーマ(2019年9月現在)
https://www.0101maruigroup.co.jp/sustainability/themes/(閲覧日:2024年5月29日)
注2:味の素株式会社 ESG・サステナビリティ マテリアリティ
https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/materiality.html(閲覧日:2024年5月29日)
注3:Hondaグループ サステナビリティ Hondaの最重要課題(マテリアリティ)
https://global.honda/jp/sustainability/materiality/(閲覧日:2024年5月29日)
注4:ダイキングループ サステナビリティレポート2023
https://www.daikin.co.jp/-/media/Project/Daikin/daikin_co_jp/csr/new/pdf/report/2023_all_printing-pdf.pdf(閲覧日:2024年5月29日)

出所:各企業サイトから特徴的なマテリアリティの例の一部を抜粋し、三菱総合研究所作成
経済産業省の価値共創ガイダンスや、将来的に適用義務化も見込まれるSSBJ※1開示基準(公開草案)では、サステナビリティの取り組みと企業価値との関係の開示が求められており、その核となるマテリアリティの特定は企業にとって一層重みを増している(図2)。
図2 サステナビリティと企業価値との関係について開示が求められている項目例
サステナビリティと企業価値との関係について開示が求められている項目例
注1:経済産業省 価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス 2.0(価値協創ガイダンス 2.0 2022年 8月30日 改訂)https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/Guidance2.0.pdf(閲覧日:2024年5月29日)より三菱総合研究所改編
注2:SSBJ サステナビリティ開示基準の適用(案)(サステナビリティ開示ユニバーサル基準公開草案 2024年3月)
https://www.ssb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/6/2024ed01_02.pdf(閲覧日:2024年5月29日)より三菱総合研究所改編

三菱総合研究所作成
特徴的なマテリアリティを掲げることは、すなわち自社の特色と経営の意思を社内外に示すことである。その前提として、中長期の経営戦略の明確化・具体化が不可欠である 。それによって自社の企業価値を中長期的に左右するマテリアリティをより深く検討でき、経営資源配分やサステナビリティ施策の着実な実行を進めやすくなる。そして、その情報を適切に開示することで、ステークホルダーとの効果的なコミュニケーションが実現し、企業価値向上につながると期待できる。

本コラムではそのためのポイントを説明した上で、その参考となる先進的な日本企業の実践事例を紹介する。

ポイント①:長期思考で本質的課題を捉える

前述の通り、長期の時間軸で自社の事業のサステナビリティを検証することは極めて重要である。それにより、既存事業の延長では想定が難しい、非連続的なリスクと機会を特定しやすくなるからだ。気候変動については、「2050年カーボンニュートラルの社会像」を前提とした分析が一般的になりつつあるが、例えば生物多様性や人的資本などそれ以外の領域でも少なくとも10-20年程度の時間軸で事業環境変化をできるだけ具体的に分析することが求められる。あえて遠い未来を見据えることで、既存の経営資産やビジネスモデル、ステークホルダーが自社のサステナビリティにどう影響するのか、本質的かつ重要な課題を捉えることができる。

ポイント②:目指す企業像・社会像を具体化する

企業理念やビジョンにおいて、「持続可能な社会実現」や「社会課題解決」をうたう企業は多く存在する。マテリアリティを明確で特徴的なものにするためには、自社の目指す姿をより具体化することが重要となる。ポイント①で分析した長期の事業環境変化を踏まえ、「いつまでに」「誰の」「どのような課題を」「どの程度」解決するのか、を明確化していくことが有効である。そして、課題解決に向けて重要な取り組みを特定しマテリアリティとすることで、共感性や納得性が高まる。これは自社の変革の原動力となるだけではなく、課題解決のために他のステークホルダーを巻き込む推進力にもなる。

ポイント③:ステークホルダーとの対話に注力

マテリアリティに特徴を出そうとすれば、優先度を高く設定した施策とそうでない施策に差が生じることになる。その結果、ステークホルダーから「○○の取り組みが不十分」との指摘を受ける可能性がある。しかし、そうした指摘の多くは批判というよりも、サステナビリティへの取り組みと企業価値・社会価値に関する企業の考えを知りたいという意向を表している。従って、特徴あるサステナビリティへ取り組みについて、自社の意思と戦略を説明することが重要である 。一方で、それらの指摘は、新たな気づきを得るきっかけとなる場合もある。その際は、戦略検討の対象に組み込み、検討結果を真摯に伝えるべきである。

マテリアリティに特徴を出し誠意を持って社会に提示し適切な対話をしていくことで、自社が目指す企業像・社会像実現に関心が高いステークホルダーの「共感」を呼び、投融資や各種の協力・支援を得ることができる。そのような関係を構築し強化できることが、サステナビリティに取り組む意義の1つである。

日本の先進企業から学ぶ独自性の打ち出し方

以下では、これまでに上げた3つのポイントを実践している企業事例を紹介する※2

企業事例:日本ガイシ株式会社(ポイント①、②)

想定される2050年の社会像を「地球環境を保全する行動が倫理観・正義感とともに幅広く浸透し、再生可能エネルギーが電力や各種エネルギーの基軸となる」世界と定義している。その上で、グループビジョンで掲げるありたい姿を踏まえつつ、自社が貢献できる分野として「デジタル社会」「カーボンニュートラル」をバックキャスティングの考え方で設定。その際、明確化した社会像の実現に向けた5つの変革、およびそれと関連付けられたマテリアリティを特定している。さらには、上記を踏まえた事業構造の転換も目指しており、「デジタル社会」「カーボンニュートラル」の両社会像に関連する分野での今後10年の研究開発費配分や2030年、2050年に向けた売上高目標を大胆に設定。長期の視点で企業成長との関係性を明確にしている点が特徴である※3

企業事例:株式会社良品計画(ポイント②、③)

経営理念※4の実現に向けて、「商品」「事業活動」「土着化活動」の3つの観点で目指す社会価値を明確化。そして2030年に向けたマテリアリティとして4つの課題を特定している※5

そのうちの1つ「地域課題解決と地域活性化の実現」の取り組みでは、顧客や株主だけにとどまらないステークホルダーとの対話と連携を重視している点が大きな特徴である。具体的には、地域の公立図書館や事業者などの多様な主体と連携した持続可能なコミュニティデザインの実施※6や、30以上の行政組織などと連携協定締結を進めるなど、ステークホルダーとの共創を進めている※7

企業事例:株式会社レゾナック・ホールディングス(ポイント①、②、③)

経営の根幹にサステナビリティを据え、「社会課題解決による企業成長」と「世界で仲間をつくる会社」を柱とするサステナビリティビジョン2030を策定し、3つのマテリアリティを特定※8。それぞれについて、「私たちの思い」と2030年目標、生み出す価値、リスク・機会、KPIなどを明確化している。

ステークホルダーとのコミュニケーションの観点では、マテリアリティ「イノベーションと事業を通じた共創力&競争力の向上と社会価値の創造」の取り組みにおいて、自社製品を顧客・社会価値などの観点から認定する製品・サービス数をKPIとして設定。認定プロセスにおいて、投資家、有識者、顧客、次世代メンバーの参画を予定していることも特徴と言える。

企業事例:味の素株式会社(ポイント①、②、③)

自社のパーパスとして「アミノサイエンス®で人・社会・地球のウェルビーイングに貢献する」を掲げ、2030年に「環境負荷を50%削減」、「10億人の健康寿命を延伸」の実現を目指している。それを実現するためのマテリアリティの全体像を「アミノサイエンス®によるウェルビーイング」とし、主要なリスク・機会を整理した上で、目標・KPIを設定※9

ステークホルダーとの対話の観点では、マテリアリティの実装や開示において、取締役会の下部機構「サステナビリティ諮問会議」において、投資家、ウェルビーイングやインパクト投資など、関連分野の外部専門家の意見を反映していることが特徴と言える※10
表1 本コラムで挙げたマテリアリティのポイントの実践事例
本コラムで挙げたマテリアリティのポイントの実践事例
注1:①~③は本コラムで挙げた以下のポイントに対応
①:長期思考で本質的課題を捉える
②:目指す企業像・社会像を具体化する
③:ステークホルダーとの対話に注力
注2:味の素株式会社は、表中に記載の4つの項目の下に紐付く12項目をマテリアリティとして特定している

三菱総合研究所作成
自社だからこそ実現できる社会価値の創出と、長期的な企業価値向上の両立は、経営層や多くのステークホルダーが共有する目的である。その達成に向け、企業が明確な意思を持ち、戦略検討・実行・コミュニケーションを繰り返していけば、必ず成果は得られるはずである。

※1:日本のサステナビリティ基準委員会。2023年にIFRS財団が公表したサステナビリティ開示基準を基に、国内の開示基準の開発を進めている

※2:これらの事例とポイントとの対応付けは三菱総合研究所が公開情報を基に独自に分析したものであり、必ずしも当該企業の意向を踏まえたものではない

※3:日本ガイシ株式会社 NGK REPORT 2023
https://www.ngk.co.jp/sustainability/pdf/2023/ngk2023_a3.pdf(閲覧日:2024年5月29日)

※4:「人と自然とモノの望ましい関係と心豊かな人間社会」を考えた商品、サービス、店舗、活動を通じて「感じ良い暮らしと社会」の実現に貢献する

※5:株式会社良品計画 良品計画のサステナビリティ 基本の考え方とESG推進体制
https://www.ryohin-keikaku.jp/sustainability/muji-sustainability/goals/(閲覧日:2024年5月29日)

※6:株式会社良品計画 MUJI REPORT 2023
https://ssl4.eir-parts.net/doc/7453/ir_material_for_fiscal_ym2/152346/00.pdf(閲覧日:2024年5月29日)

※7:株式会社良品計画 地域・コミュニティとともに 地域社会とのつながり
https://www.ryohin-keikaku.jp/sustainability/community/connection/(閲覧日:2024年5月29日)

※8:株式会社レゾナック・ホールディングス RESONAC REPORT 2023
https://www.resonac.com/sites/default/files/2023-08/2023-08pdf-sustainability-report-03-3.pdf(閲覧日:2024年5月29日)

※9:味の素株式会社 ESG・サステナビリティ マテリアリティ https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/materiality.html(閲覧日:2024年5月29日)

※10:味の素株式会社 ESG・サステナビリティ 第二期サステナビリティ諮問会議 https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/framework/advisory_council.html(閲覧日:2024年5月29日)

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