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電力需給シミュレーションから導く電力市場の「将来像」とその見方

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2019.1.21

環境・エネルギー事業本部志田龍亮

環境・エネルギートピックス
2016年4月の電力小売の全面自由化以降、電力システム改革に向けた制度変更は現在も進行中であり、市場制度の詳細は未確定な部分も多く残っている。加えて、再生可能エネルギー導入の大幅な進展、原子力発電の一部再稼働、世界的な脱炭素化の潮流など、電力市場をとりまく環境の変化は大きく、将来像を描くことはますます困難になってきている。
電力関連事業の多くは巨額の設備投資を伴い、長期間での回収を前提とすることから、市場の趨勢を長期で見通すことは事業評価上欠かせない。しかし、上記のような市場の先行きの不透明さから、ここしばらく当社にも多様なご相談が寄せられている。ご関心のポイントは業種によって異なるものの、制度改革の具体的な影響はどこに表れるのか、電力各社の将来的な競争力はどうなるのか、再生可能エネルギーの導入・原子力再稼働による具体的な影響は何か……など枚挙にいとまがない。

これらの問いに答えていくにあたっては、今後の見通しに対する定性的なシナリオ分析に加えて、電力需給シミュレーションによって発電市場の定量分析を行うことが有効である。電気料金の原価構造の6~7割は発電費用が占めており、主要な発電事業者の電源稼働の見通しとそれに基づく市場行動は、電力市場の将来動向を読み解くための重要な鍵となるためである。
以上の背景に鑑み、当社はPyDis(パイディス)という電力需給シミュレーションモデルを開発した。PyDisは最適化計算によって、供給区域別(全国10エリア)に1時間単位で電力需給のマッチングを行うものである。需要見通しなどの将来シナリオをインプットとして入力することで、各エリアの発電量構成、燃料消費量、連系線利用量などがアウトプットとして得られ、発電側から見た電力市場の概況を把握することができる(図1参照)。国内にある主要な発電ユニットは全てモデル化しており、連系線容量制約、負荷周波数制御(LFC)での信頼度制約、部分負荷効率、プラントの起動停止などの影響を考慮しているため、足元の需給状況も精度良く再現されている。
図1 電力需給シミュレーション(PyDis)の概要
図1 電力需給シミュレーション(PyDis)の概要
出所:三菱総合研究所
PyDisのシミュレーション結果からは、原子力の稼働、再生可能エネルギーの普及、火力電源の新設・リプレースなどのさまざまなシナリオを想定した場合の将来の発電市場の絵姿が浮かび上がる(図2はシミュレーションの例)。こうした結果をもとに、例えば、発電事業者や発電機メーカーの視点では新設した火力発電所はどの程度の稼働が期待できそうなのか、蓄電池メーカーや再エネ事業者の視点では系統用蓄電池の影響はどのエリアにどの程度あるのか、といった個別のスタディを行うことも可能である。
図2 PyDisによる出力結果(1年間の発電電力量構成)の一例
図2 PyDisによる出力結果(1年間の発電電力量構成)の一例
出所:三菱総合研究所
ただし、こうした分析を行う際に忘れていけないのは、電力需給シミュレーションから導かれる将来像はProjection(蓋然性に基づく見通し)であり、Prediction(未来の予言)ではないことである。
国際エネルギー機関(IEA)などが出す将来見通しも同様の考え方であるが、こうしたシミュレーションの本質は、目指すべき姿との乖離はどの程度なのか、解消すべきボトルネックや本当のリスクはどこにあるのかを分析結果から把握することにあり、遠い将来の数値を「当てに行く」ことではない。電力需給シミュレーションからは興味深い結果が得られることも多いが、数値そのものだけではなく、「この結果をどう解釈するか」といった考察にこそ大きな意義がある。それが得られた将来像の正しい見方と言える。
なお、より良い考察のためには、事業の現場感覚も非常に重要な要素であり、クライアントとの議論はこうした将来像検討には欠かせない。一コンサルタントとして、現実味や納得感のある将来像を、まさにクライアントと一緒に創り上げていければと考えている。