コラム

福島第一原子力発電所廃炉のこれまでと、これから原子力安全

チェルノブイリ事故の燃料溶融物(FCM)の現状|後編

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2020.3.3

原子力安全事業本部石川秀高

福島第一原子力発電所廃炉のこれまでと、これから
チェルノブイリ原子力発電所4号炉の事故は、34年前の1986年4月に発生しました。日本では、チェルノブイリ事故に関する炉内の状況や環境への影響など多分野にわたる研究を13~14年前まで精力的に実施していました。事故炉は一部で実施された構造強化や補修以外は手が加えられていないので、現在の内部の状況は基本的に事故当時から大きく変わっていません。

後編では事故時に溶融した燃料や構造物によって作られた燃料含有物質(以後FCM※1)の状況について整理を行います。また、福島第一原子力発電所事故による燃料デブリと比較し、燃料デブリの状況把握や今後の取り出しに向けた取り組みに参考となる事柄をまとめます。

1.チェルノブイリ事故によるFCM 

1.1 FCMの発生状況(垂直下方、横方向)

事故時、炉心に装荷されていた燃料は溶融し、原子炉室の下部に落下しました。原子炉室の床は下部遮へい体の役割をもっており蛇紋岩(マグネシウム、ケイ素、酸素が主成分)が詰められていました。溶融した高温の燃料は、この下部遮へい体の一部を溶かしました。下部遮へい体は、事故で4mもずれ落ちたため側部壁との間に隙間ができ、そこから原子炉室周りの生体遮へい体として詰められていた大量の砂が原子炉室に入り込み、溶融した燃料と混じりあいました。さらに、事故で破壊され落ちてきた炉内コンクリート構造物なども混入し、溶融一体化して大量のFCMとなりました。

溶融したFCMは原子炉室の下側に垂直に流れ落ち、事故時に生じた蒸気を冷却するために設置されている2層のサプレッションプールの下層まで、水の中を流れ落ちたものもあります。一部のFCMは途中で横に50m流れ、ある隙間から下に流れ落ち「象の足」といわれる塊状のものになりました。

このようにFCMは冷却されながらいろいろなところに流れ、すべてが冷却・固化した時点で事故が終息しました。

大量に生じたFCMは溶岩のように下や横方向に流れたため、溶岩状を意味する「Lava」という言葉を使うこともあります(Lava -like FCM またはLFCM)。ロシアではLavaだけでFCMを表すことも多いです。
図1 FCMの流れ
図1 FCMの流れ
出所:ウクライナ科学アカデミー「ウクルィティエ石棺の構成とその改造のための必要条件」(1992)を元に三菱総合研究所作成
図2 柱状(事故直後)や配管中のFCM
図2 柱状(事故直後)や配管中のFCM
出所:ウクライナ科学アカデミー「ウクルィティエ石棺の構成とその改造のための必要条件」(1992)(左)
Mr. Viktor Krasnov (Institute for Safety Problems NPP National Academy of Science of Ukraine) より提供(右)

1.2 垂直下向、横方向に流れたFCMの外見および成分の違い

FCMは高温で溶融した後に冷却・固化しているので、多様な金属組織や化学組成によって成り立っています。垂直下向に流れたFCM と横方向に流れたFCMでは外見や成分が若干異なっています。

垂直下方に流れたFCM はウラン含有量が多く(10%程度)、マグネシウムも相対的に多く含まれ茶色をしています。一方横方向に流れたFCMのウラン含有量は低く(5%程度)黒色をしています。
図3 茶色(垂直下方)と黒色(横方向)のFCM
図3 茶色(垂直下方)と黒色(横方向)のFCM
Mr. Viktor Krasnov (Institute for Safety Problems NPP National Academy of Science of Ukraine) より提供

1.3 サプレッションプールにおける軽石状のFCM

原子炉室の下にあるサプレッションプール最下層の水を抜くと、山型のFCMが現れました。事故時に水の中を超高温の溶融物が落ちていったと考えられますが、一気に大量のものが落ちていけば水を瞬間的に蒸気化させ爆発させても不思議ではありません。しかし、そのような形跡はなく、軽石状であることから、このFCMは水の中を局所的な蒸気発生を伴いながら細い筋のような形で落ちたとも考えられます。
図4 軽石状のFCM
図4 軽石状のFCM
Mr. Viktor Krasnov (Institute for Safety Problems NPP National Academy of Science of Ukraine) より提供

1.4 高温溶融時のFCMの粘性 

FCMは途中ところどころで冷却固化しながら50mの距離を水平方向に流れていきました。粘性の強いどろどろした状態では途中で止まってしまうと思われます。現地研究所との協力で実施した模擬FCMによる研究で、溶融状態のFCMはさらさらしており、潤滑油くらいの粘性度であったことが確かめられました。何かで力が加えられて横方向に流れていったと推察されます。

2.FCMの変化とその特性

2.1 FCMの風化

事故直後、冷却固化したFCMは非常に硬く、そして室内の放射線量は非常に高いものでした。現地の研究者は、離れたところから日本製の小さなシャベルカーのような電動式おもちゃを近づけてサンプルを採取しよう試みましたが歯が立たず、ロシア製のライフルで撃ち、はじかれたかけらを研究者が駆けて取ってくるようなことも行われていました。

しかし、ウクライナ特有の気象的特徴(昼夜の温度差、季節の温度差が大きいなど)もあり、年月を経るに従い多様な金属組織や化学組成による粒界(結晶の粒同士の境界)からクラック(ひび割れ)が入り大きなブロック状に分かれるなどいわゆる風化が生じ、場所によってはガラス成分が多いためスコップで「ざくっ」とすくえる状態になりました。
図5 床一面のFCM
図5 床一面のFCM
事故後10数年たち、ブロック状になってきました。
出所:Mr. Viktor Krasnov (Institute for Safety Problems NPP National Academy of Science of Ukraine) より提供

2.2 唯一水と触れて変質が見られる「象の足」

一方、横方向に一番遠くに流れて隙間から下に流れ落ちて固まった「象の足」は、唯一水に触れており、年数の経過と共に床との境目辺りでところどころおかゆ状の溜まりが作られ、全体の形も少し平らな形に変化しました。

福島第一原子力発電所事故でできた燃料デブリは多くが水中に存在していることから、チェルノブイリ発電所の状況に関する知見は燃料デブリの劣化の検討に寄与できる可能性があります。
図6 象の足(右は約15年後)
図6 象の足(右は約15年後)
出所:三菱総合研究所(左)、筆者撮影(右)

2.3 FCMと福島第一原子力発電所の燃料デブリの違い

チェルノブイリ事故ではFCMが形成されましたが、福島第一原子力発電所事故では1~3号炉共に炉心の燃料は溶融し、チャンネルボックス、制御棒、コンクリートなどの種々の炉心構造物を巻き込み燃料デブリとなっています※2

チェルノブイリ原子力発電所では、軽水炉と設計は大きく異なりますが減速材として黒鉛ブロックが敷き詰められている以外は、ほぼ同様の材料によって炉心が構成されています※3

このため、福島第一原子力発電所の燃料デブリとFCMは、それぞれを構成している材料は基本的によく似ていることになります。しかしながらチェルノブイリでは、事故時に原子炉室の下部にスチール製の大きな缶詰の様な遮へい体に詰められていた蛇紋岩や多くの砂、落下したコンクリート構造材も巻き込んだため、FCMのウラン含有度は数~10%程度と低く、逆にケイ素(Si)成分が約30%と高く、いわゆる「ガラス固化体状」になっています。一方、福島第一原子力発電所における燃料デブリは、その生成の過程に応じてさまざまな種類が存在する可能性があり、それらの分類や定義付けは今後実施されることとなります。また、やはり過酷事故を起こした米国TMI-II(スリーマイル島原子力発電所2号機)の燃料デブリは、炉心燃料や炉内構造物が溶融一体化した(溶融プール化)後に固化しており、チェルノブイリFCMに比べウラン含有度が相対的に高かった可能性があります。

このように、チェルノブイリFCMと福島第一原子力発電所燃料デブリは、基本的に同様の材質から形成されていますが、それらが作られた過程に応じて含まれている元素の比率などは異なると想定されます。また、事故後の置かれている状況や環境も大きく異なっていることから、チェルノブイリFCMを参考に福島第一原子力発電所の燃料デブリの取り出し方を検討する際には、このような違いについて留意する必要があります。

2.4 FCMの特徴的な結晶とコンクリート床との相互作用

FCMの塊は、表層と内部では冷却固化していく時間が異なったため、気孔率など物理的特性に少し違いがあります。

また、FCM塊の内部からはとがった角を持つ小さな結晶が見つかっています。中にはピラミッドのような形をしているものもあります。大きさは最大500μm程度でウラン、ジルコニウム、ケイ素、酸素が含まれており、関係者は「チェルノビライト」と呼んでいます。

この結晶は、約1,600℃で数日保持されないと生成されないことがロシアの研究者によって明らかにされており、事故後のFCM冷却挙動を把握する上で重要な知見になりました。

下方や横方向に流れたFCMは、建屋の床などのコンクリート構造材と接触し冷却・固化しています。そのようなところでは、FCMの表層は固まっても内部が高温溶融状態のままコンクリートと接触することになり、コンクリートとの間で相互作用が生じます。日本の研究では、FCM中の超ウラン核種※4がコンクリート側へ移行していることも確認されています。

福島第一原子力発電所事故時においても、溶融した燃料は、原子炉内の圧力容器を支えているペデスタルという構造体の下部まで到達しており、そこではコンクリートと接触している可能性が高いと考えられています。このことから、燃料デブリ中の放射性核種がコンクリートへ移行する挙動の分析などにおいて、チェルノブイリの知見は参考になります。
図7 チェルノビライト
図7 チェルノビライト
出所:三菱総合研究所

3.新安全コンファインメント(NSC)の建設と今後

3.1 国際プロジェクトで建設された新安全コンファインメント(NSC)

シェルターは建屋の既存の柱に非常に大きく重い梁(はり)を乗せているため、ほんの少しずつ「ずれ」が生じます。そのずれは5年、10年と時間経過と共にcmオーダーに及ぶ可能性もあり、構造が不安定になってきます。そのため事故後、早い段階から第二シェルターの建設が検討され、初期の国際設計コンペを経て、1997年に欧州復興開発銀行(EBRD)によるシェルター改善計画(SIP)が10年計画で発足しました。

シェルター内のFCM分布やダスト評価など400項目を超える多くの調査が計画され、その最終段階としてシェルターを覆う第二シェルターである「新安全コンファインメント(NSC)」が建設されました。長期にわたる審査を経て、最終的にフランスの企業コンソーシアム「Novarka」が設計と建設を担当し、2016年秋にドームが定位置に設置されました。2018年にはすべての工程が完了しています。NSCの設計寿命は100年となっています。   
日本はEU、米国に次いで独、英、仏、伊各国とほぼ同額の全必要額の数%を負担しています。

シェルターは現在まで何カ所かの構造上の弱点は綿密に調査され補修・強化されていますが、このような補修・強化作業もSIPにおける初期の事業に組み込まれました。
図8 建設中のNSC(ドームをシェルターに移動)
図8 建設中のNSC(ドームをシェルターに移動)
出所:EBRD "Chernobyl 25 years on: New Safe Confinement and Spent Fuel Storage Facility"
https://www.ebrd.com/documents/comms-and-bis/chernobyl-25-years-on.pdf(閲覧日:2020年3月2日)

3.2 チェルノブイリの今後

ウクライナとしては、事故炉からFCMを取り出すことを事故当初より希望しており、上記SIPでも一時取り出し手法が検討されました。

しかし、FCMは非常に大量であり、広範囲に広がりを持ち、さらに非常に硬かったため、技術開発が困難で、取り出すための経費も巨大になる可能性も指摘されました。またFCM内のウランなどの放射性核種が再臨界を生じる可能性は限りなくゼロに近いと日本を始め多くの国の専門家による評価もなされました。これは閉じ込められている放射性核種の自然崩壊に伴う放射線の放出は続くものの、新たな核分裂の可能性はほとんど生じず、閉じ込めがしっかりしていればFCMの存在による危険性は抑え込めることを意味します。このようなことによりFCM取り出しの検討は中止されました。

NSCが完成した現在、今後はウクライナ政府の責任の下で維持管理が進められることになります。NSCの中でシェルターの一部が解体されることになりますが、将来的にはFCM取り出しが再度検討課題となる可能性は残されています。

4.おわりに:燃料デブリ取り出しの検討の参考となるFCM

現在、福島第一原子力発電所1~3各号機の格納容器内への調査が実施され、少しずつカメラを通し燃料デブリの実際の様子が確認され始めています。今後多様な燃料デブリの存在や、燃料デブリが原子炉構造材と固着している状況なども明確になると想定されます。同時に、多くが水に触れている燃料デブリが今後どのように変化していくかの研究も進むと考えられます。

チェルノブイリのFCMは、生成過程が福島第一原子力発電所における燃料デブリとは大きく異なっています。さらに事故後はそのほとんどが、長期間水に触れない状態となるため、燃料デブリの多くが水と触れている福島第一原子力発電所の環境とは大きく異なります。このためチェルノブイリFCMを福島第一原子力発電所における燃料デブリの取り出し方を検討する上で参考とする際には留意が必要です。

しかしながら、福島第一原子力発電所の燃料デブリと同様に水に触れているFCMが1カ所存在していることや、また高温溶融状態のFCMがコンクリートと接触し相互反応が生じていることなども確認されており、このような知見は福島第一原子力発電所燃料デブリの検討にも参考になると思われます。

※1:Fuel Containing Materialsの略。チェルノブイリ事故で原子炉室の下方に落下した燃料や構造物は溶融して固まっている形状をしており、一般的なデブリや瓦礫とは少し違うイメージのため、関係者は「燃料含有物質(FCM)」と呼んでいます。

※2:福島第一原子力発電所の燃料デブリ:溶融状態の燃料デブリは圧力容器下部に落下し、さらに圧力容器を支える格納容器内のペデスタルに達することになります。福島第一原子力発電所1号機、3号機、2号機の順にその度合が大きく、1号機ではかなりの量の燃料デブリが格納容器に移行している可能性が高いと考えられています。格納容器内に落下したものは下部の厚いコンクリートにまで達している可能性も高いと考えられています。

※3:福島第一原子力発電所とチェルノブイリの燃料を中心とした炉心構造材料
福島第一原子力発電所:二酸化ウラン燃料ペレット、ジルカロイ-2被覆管、ジルカロイ-4製のチャンネルボックスなど
チェルノブイリ:二酸化ウラン燃料ペレット、ジルコニウム-1%ニオブ被覆管、ジルコニウム-2.5%ニオブ製圧力管など

※4:超ウラン核種:ウランより重いアメリシウムなどの元素の同位体で、原子炉ではウラン燃料の核分裂で生成されます。