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ポストコロナの経営 自動車 第1回:自動車の新たな役割

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2020.7.29

経営イノベーション本部小河絵里香

平井 翔

孫 婕

高田真吾

経営戦略とイノベーション

自動車は単なる移動手段か

高度経済成長期からバブル期にかけて、自動車は一つのステータスシンボルとして認識されてきた。自動車の保有者には、人に見てもらいたいという意識があり、自動車は「走る応接室」として位置づけられていた。しかしこの役割は、時代と共に変化して、自動車は家族で共有する「リビング」と同様に捉えられるようになった。また自動車が普及し、人々の移動の足として定着することにより、自動車での移動は特別なものから一般的なものにその役割を変えた。さらに2010年以降、カーシェアリングが普及することで「公共的」な側面が加わり、自動車は単なる移動手段の一つとしての認識が強まった。
しかし、今回のコロナ禍を通じ、単なる移動手段にとどまらない、自動車がもつ価値や魅力が改めて浮き彫りになったと感じている。

「移動」と「移動以外」での自動車の新たな役割

人々が日々を過ごす場所は大きく三つに分けられる。一つ目は住むための「家」、二つ目は就労や学びのための「職場・学校」、そして三つ目はプライベートな用事や娯楽を楽しむ「その他」(公園やカフェ、病院、役所など)である※1。私たちはこの三つの場所を行き来しながら生活しており、自動車は三つの場所の間を移動するために利用されてきた。
しかし、コロナ禍によるステイホームや3密回避などの社会的要請がなされ、三つの場所間の移動は最小限にまで減少し、私たちは移動先で行ってきたことの多くを、住むための場所である「家」で行っている。こうした状況において、「1.移動における自動車の役割」が変化し、また移動以外の「2.自動車の新たな役割」が生じたと考える。
図1 コロナ前の自動車の役割
図1 コロナ前の自動車の役割
出所:三菱総合研究所

1-1 移動における自動車の役割|移動時の安全性確保

リモートワークが困難な業種など、職場までの移動が不可欠なケースは引き続きなくならない中で、移動時に他人との接触を極力減らすといった安全性重視の移動に対する需要が高まっている。
われわれの調査によれば、緊急事態宣言の発令後、4月後半の平日の鉄道移動は前年同期比で約4割減少したが、自動車移動は1割減にとどまっている※2。さらに中国では、マイカー通勤が仕事復帰の条件とされるケースも見られ、マイカー通勤の必要性が増している。
また、自動車移動に対する需要の高まりは、通勤だけに限らない。星野リゾートが運営する「星のや東京」では、自宅からホテルまでタクシーで送迎するプランの提供を開始※3。企業側が自社サービスの利用を増やすために移動手段を提供する例は今後も増えていくだろう。

1-2 移動における自動車の役割|自分で行く、から物が来るへ

外食や買い物など従来は自ら移動し運んでいたものを企業側や第三者に運んでもらうという流れがある。
例えば飲食店の食事を家まで運んでくれるUber Eatsは、2020年第1四半期(2020年1月-3月)の総取扱高が46.8億ドル(約5,000億円)となり、前年同期比で52%増加した※4(日本国内に限らず、サービス展開を行う各国の合計値)。また、楽天における4月単月のショッピングEコマース流通総額は、前年同期比で57.5%増を記録している※5
さらに中国では、「非接触」「無人化」を目指し、移動主体を人からロボットへ変えるべく、無人搬送技術への制限を緩和している。例えば中国国内に200店舗以上を展開する餃子のチェーン店「小恒水餃」は2月24日より無人配送車の使用を開始した※6
図2 ポストコロナの移動における自動車の役割
図2 ポストコロナの移動における自動車の役割
出所:三菱総合研究所

2-1 自動車の新たな役割|プライベート空間の確保(就労・学びの場所としての車)

移動中および職場での混雑を防ぐため、オフィスなどへの出勤停止措置が講じられたことにより、自宅でのリモートワークを余儀なくされている人も多い。一方で、小さい子供がいる場合など、自宅内で仕事に集中できる環境を用意できないという家庭も多い。その解決策として、駐車している車中で、Web会議を行うという使い方がされている。「移動」という機能ではなく、「プライベート空間の確保」ができるという自動車の強みを活かした使い方の一例だと考える。

2-2 自動車の新たな役割|外出先での安全性確保(用事・娯楽の場所としての車)

診察や娯楽などこれまで自宅・職場以外で行われていたことを車の中で行う取り組みも進んでいる。
PCR検査を車内で受けられるドライブスルー方式の実施は記憶に新しいだろう。ドイツなどの欧州では、ドライブイン教会、ドライブインナイトクラブ、ドライブインコンサートなども行われている※7。車に乗りながらサービスを受けられる取り組みが増えてきていることが分かる。

2-3 自動車の新たな役割|安全でプライベートを確保した生活(災害時に住む場所としての車)

安全性、プライベート性、居住性を有する自動車は、災害時において3密の回避が可能な避難場所としての役割を担える可能性も出てきている。EVは緊急時の電源としての役割を担っているが、電源にとどまらず、自動車の空間自体が生活できる空間として認識されつつあると考えられる。
さらに、リモートワークの普及が進んだ結果として住む場所の制約が減り、一地点にとどまる必要性が薄れているため、災害時に限らない居住スペースとしての活用ニーズも出てくるかもしれない。キャンピングカーはキャンプを行う場合の必要な機能を自動車にもたせたものである。同様の発想で生活空間としての自動車という可能性も考えられる。
図3 移動以外における自動車の役割
図3 移動以外における自動車の役割
出所:三菱総合研究所

ポストコロナの自動車産業

今後、ウィズコロナ時代、アフターコロナ時代を迎えるにあたり、移動時の安全性がより求められる。ユーザーが自ら出向くのではなく、物の方が来るなどの潮流が強まる中で、自動車以外の産業が自社事業の付加価値を高めるため、「移動サービスとしての自動車」を利用する動きが進むだろう。また同時に、生活のシーンにおいて仕事や娯楽、居住する「空間としての自動車」利用が進むだろう。
ユーザーの意識が変化していく中で、移動手段にとどまらない価値を示すことが自動車産業の発展にとって重要な時代になってくる。

次回はこれらの移動、自動車の使い方や自動車に対する価値観の変化により生じる、自動車産業の大きなトレンド「CASE」への影響について検討する。

※1:米国の社会学者Ray Oldenburgの著書『The Great Good Place』の分類を参考にしているが、第三の場所の定義は本コラム内のものとは異なる。

※2:三菱総合研究所「新型コロナウイルス人流分析レポート2:4月後半の平日の移動は対前年比で自動車は1~2割減、鉄道はほぼ半減」(2020年5月21日)

※3:星野リゾート「【星のや東京】都内で心も身体もリフレッシュする温泉旅館滞在 ~都内から車で約30分の大手町、温泉と食事付きで徹底した3密回避空間で気分転換~」(2020年4月24日)
https://www.hoshinoresorts.com/information/release/2020/04/88335.html(閲覧日:2020年7月15日)

※4:Uber Technologies“Uber Announces Results for First Quarter 2020”(2020年5月7日)
https://investor.uber.com/news-events/news/press-release-details/2020/Uber-Announces-Results-for-First-Quarter-2020/(閲覧日:2020年7月21日)

※5:楽天「2020年度第1四半期決算説明会」(2020年5月13日)
https://corp.rakuten.co.jp/investors/assets/doc/documents/20Q1PPT_J.pdf(閲覧日:2020年7月21日)

※6:小恒夜语『小恒水饺开始研究测试无人车配送(小恒水餃は無人配送車の研究と試験を開始)』(2020年2月25日)https://mp.weixin.qq.com/s/YGhl_aHXZIaTJtD3ILJUCQ(閲覧日:2020年7月17日)

※7:The New York Times “At Drive-In Disco, It ‘Feels Like Saturday Again,’ Even Without a Dance Floor”(2020年6月20日)
https://www.nytimes.com/2020/06/02/world/europe/europe-germany-coronavirus-reopening.html(閲覧日:2020年7月15日)

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