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新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言ヘルスケアスマートシティ・モビリティ

新型コロナウイルス人流分析レポート2:4月後半の平日の移動は対前年比で自動車は1~2割減、鉄道はほぼ半減

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2020.5.21

次世代インフラ事業本部盛田太郎

坂井浩紀

中條 覚

新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言
各種報道において、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の期間における人流の分析データが取り上げられ、例えば、全国12箇所の観光地における県外からの来訪者が前年比90%以上の減少※1であったことなどが報告されている。特徴的なスポットでの減少は報告されているが、日常生活における移動の全体量はどうなっているのであろうか。
今回のレポートでは、緊急事態宣言期間における全国の移動を主たる交通手段(以下、代表交通手段)別に対前年比で分析した。分析の結果、4月後半の平日の移動は自動車が1~2割減、鉄道はほぼ半減していた。日常生活から移動そのものを大幅に削減することの難しさがうかがえる。
緊急事態宣言の解除に伴い、今後、経済活動の維持に向けて、全国的に移動が増加に転じる可能性が高い。移動そのものを現状以上に抑制することは難しいと想定されることから、今後は、一律に移動を制限するのではなく、感染者が発生・増加している地域との人流に着目して制限をかけるなど、地域内外の感染状況に応じた接触制限が有効であると考えられる。
以下で、今回の分析内容の詳細を述べる。

代表交通手段を区別した人流推定データの分析

人流推定データは、LocationMind株式会社によるLocationMind xPOPのデータ※2を活用した。本データでは、ある滞留(一定時間移動がない状態)から次の滞留までの移動を「1移動」として計上している。代表交通手段は、移動の速度や経路などから推定した。
分析期間は、緊急事態宣言以前からGW期間まで(2020年3月16日~5月6日)とし、この期間を以下に示す4つのフェーズに区分した。また、前年同時期のデータ(2019年3月18日~5月6日)を比較対象とした。

フェーズ 1|緊急事態宣言発令前(2020年3月16日~4月7日)
フェーズ 2|緊急事態宣言発令翌日から区域変更まで(2020年4月8日~16日)
フェーズ 3|緊急事態宣言の区域変更後からGW前まで(2020年4月17日~28日)
フェーズ 4|GW期間中(2020年4月29日~5月6日)

分析の範囲は全国である。移動は ①県内移動、②隣接県間移動※3とそれ以外の③長距離移動に分類した。

緊急事態宣言直後から移動は抑制傾向、GW期間中は県内移動を中心に増加

前年同時期比でみた代表交通手段別の全国の移動状況を図1(平日)、図2(休日)に示す。いずれも、緊急事態宣言前のフェーズ1の時点で前年よりも移動がある程度抑制されていたことがうかがえる。フェーズ1時点での移動の抑制傾向は、平日、休日ともに、特に鉄道(図中の緑線)において顕著であった。なお、8地方(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州沖縄)別での分析においても同様の傾向がみられた。
平日の鉄道による移動は、緊急事態宣言直後であるフェーズ2に大きく減少し、以降も微減の傾向が続いた。特に鉄道の長距離移動は、フェーズ1で前年同時期比55%、フェーズ2で前年同時期比26%と、最も顕著な減少がみられた。
平日の自動車(図中のピンク線)についてみると、いずれの期間においても1~2割程度の減少にとどまった。この背景には、物流関係の移動が増加したこと、業種によってはテレワーク/在宅勤務への対応が難しいことなどが考えられる。宅配便(トラック)取扱個数の上位3社であるヤマト運輸株式会社(宅急便)、佐川急便株式会社(飛脚宅配便)、日本郵便株式会社(ゆうパック)の取扱個数の実績をみると、それぞれ2020年3月の対前年比は増加している※4~6
図1 前年同時期比:代表交通手段別の移動状況(全国、平日)
図1 前年同時期比:代表交通手段別の移動状況(全国、平日)

GW期間中(2020年4月29日~5月6日)はすべて休日として分析

前年同時期比:2019年の同時期の平日・休日別、代表交通手段別の平均値に対する比

代表交通手段は移動を徒歩、自動車、鉄道のうち最も近い交通手段を推定して当てはめたもの。なお、②隣接県間移動において「徒歩」と判定された移動は、今回の分析から除外している。

①県内移動:都道府県を超えない移動

②隣接県間移動:隣接県への移動

③長距離移動:「①県内移動」「②隣接県間移動」のいずれにも該当しない移動

所:三菱総合研究所

休日は、全般的に平日よりも移動が大きく抑制された。自動車および鉄道ともに、緊急事態宣言直後であるフェーズ2の時点で大きく抑制が進んだ。一方、GW期間中に相当するフェーズ4では、①県内移動は、いずれの交通手段においても増加していた。②隣接県間移動および③長距離移動は、自動車は減少傾向であったものの、鉄道は②隣接県間移動で増加、③長距離移動で横ばいであった。全般的にGW期間中の移動量は増加の傾向ではあったが、マイカーなどによる遠出(②隣接県間移動および③長距離移動)は自粛されていたものと思われる。
図2 前年同時期比:代表交通手段別の移動状況(全国、休日)
図2 前年同時期比:代表交通手段別の移動状況(全国、休日)

GW期間中(2020年4月29日~5月6日)はすべて休日として分析

前年同時期比:2019年の同時期の平日・休日別、代表交通手段別の平均値に対する比

代表交通手段は移動を徒歩、自動車、鉄道のうち最も近い交通手段を推定して当てはめたもの。なお、②隣接県間移動において「徒歩」と判定された移動は、今回の分析から除外している。

①県内移動:都道府県を超えない移動

②隣接県間移動:隣接県への移動

③長距離移動:「①県内移動」「②隣接県間移動」のいずれにも該当しない移動

所:三菱総合研究所

一律の移動制限から、個別具体的な接触制限へ

以上の分析により、長距離移動(図中の点線)は対前年同期比で顕著に減少しているものの、県内および隣接県間の移動(図中の実線および破線)は、緊急事態宣言の発出後も一定程度の減少にとどまっていたことがわかった。特に平日においてこの傾向が顕著である。
2020年5月14日に39県に対する緊急事態宣言が解除されたことをふまえると、今後は全国で移動が増加傾向に転じる可能性が高い。まだ緊急事態宣言を解除していない都道府県への流入・流出を含め、継続的に全国的な移動状況を把握することが必要と考えられる。
移動そのものを現状以上に抑制することは難しいと想定されることから、今後は一律な移動制限を行うのではなく、感染者が発生・増加している地域における人流に特に着目して個別具体的な制限をかけるなど、地域内外の感染状況に応じた接触制限が有効であると考えられる。
今後は、緊急事態宣言の対象都道府県を含む区域における経済活動の再開や区域の縮小に資する示唆を得るため、県内移動の状況などをより詳細に確認していきたい。
参考

※本データは、株式会社三菱総合研究所がLocationMind株式会社の協力を得て作成したものです。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス表示4.0国際ライセンス(CC BY 4.0)のもとで提供しています。「前年同時期比:代表交通手段別データ(全国地方別及び都道府県別:CC BY 4.0)」内の利用規約に従ってご利用ください。

 
謝辞
本分析に際しては、LocationMind株式会社の桐谷直毅CEO、柴崎亮介CTO、金杉洋氏、宮澤聡氏をはじめ、皆さまから多大なる協力をいただいた。ここに記して感謝の意を表したい。

※1:KDDI株式会社「KDDI Location Analyzerを用いた全国主要観光地におけるGW期間中の詳細人流分析レポート」
https://www.au.com/content/dam/au-com/information/covid-19/pdf/KDDI_GW_analysis.pdf(閲覧日:2020年5月19日)

※2:LocationMind xPOPのデータは、NTTドコモが提供する「ドコモ地図ナビ」サービスのオートGPS機能利用者より、許諾を得た上で送信される携帯電話の位置情報を、NTTドコモが総体的かつ統計的に加工を行ったドコモ地図ナビ統計情報を基に作成されたデータを使用。位置情報は最短5分ごとに測位されるGPSデータ(緯度経度情報)であり、個人を特定する情報は含まれない。

※3:国土交通省「『隣接する都道府県』について」
https://www.mlit.go.jp/tec/nyuusatu/hattyu/rinsetu.pdf(閲覧日:2020年5月19日)
ただし、本分析では岡山の隣接県は島根ではなく鳥取とした

※4:ヤマト運輸株式会社「2020年3月小口貨物取扱実績」
http://www.kuronekoyamato.co.jp/ytc/pressrelease/2020/data/news_200406.pdf(閲覧日:2020年5月19日)

※5:SG ホールディングス株式会社「2020年3月デリバリー事業の取扱個数実績」
https://ssl4.eir-parts.net/doc/9143/ir_material_for_fiscal_ym10/79862/00.pdf(閲覧日:2020年5月19日)

※6:日本郵便株式会社「2020年3月期郵便物・荷物の引受物数」
https://www.post.japanpost.jp/notification/pressrelease/2020/00_honsha/0508_01_02.pdf(閲覧日:2020年5月19日)

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