今回のレポートでは、緊急事態宣言期間における全国の移動を主たる交通手段(以下、代表交通手段)別に対前年比で分析した。分析の結果、4月後半の平日の移動は自動車が1~2割減、鉄道はほぼ半減していた。日常生活から移動そのものを大幅に削減することの難しさがうかがえる。
緊急事態宣言の解除に伴い、今後、経済活動の維持に向けて、全国的に移動が増加に転じる可能性が高い。移動そのものを現状以上に抑制することは難しいと想定されることから、今後は、一律に移動を制限するのではなく、感染者が発生・増加している地域との人流に着目して制限をかけるなど、地域内外の感染状況に応じた接触制限が有効であると考えられる。
以下で、今回の分析内容の詳細を述べる。
代表交通手段を区別した人流推定データの分析
分析期間は、緊急事態宣言以前からGW期間まで(2020年3月16日~5月6日)とし、この期間を以下に示す4つのフェーズに区分した。また、前年同時期のデータ(2019年3月18日~5月6日)を比較対象とした。
フェーズ 1|緊急事態宣言発令前(2020年3月16日~4月7日)
フェーズ 2|緊急事態宣言発令翌日から区域変更まで(2020年4月8日~16日)
フェーズ 3|緊急事態宣言の区域変更後からGW前まで(2020年4月17日~28日)
フェーズ 4|GW期間中(2020年4月29日~5月6日)
分析の範囲は全国である。移動は ①県内移動、②隣接県間移動※3とそれ以外の③長距離移動に分類した。
緊急事態宣言直後から移動は抑制傾向、GW期間中は県内移動を中心に増加
平日の鉄道による移動は、緊急事態宣言直後であるフェーズ2に大きく減少し、以降も微減の傾向が続いた。特に鉄道の長距離移動は、フェーズ1で前年同時期比55%、フェーズ2で前年同時期比26%と、最も顕著な減少がみられた。
平日の自動車(図中のピンク線)についてみると、いずれの期間においても1~2割程度の減少にとどまった。この背景には、物流関係の移動が増加したこと、業種によってはテレワーク/在宅勤務への対応が難しいことなどが考えられる。宅配便(トラック)取扱個数の上位3社であるヤマト運輸株式会社(宅急便)、佐川急便株式会社(飛脚宅配便)、日本郵便株式会社(ゆうパック)の取扱個数の実績をみると、それぞれ2020年3月の対前年比は増加している※4~6。
・GW期間中(2020年4月29日~5月6日)はすべて休日として分析
・前年同時期比:2019年の同時期の平日・休日別、代表交通手段別の平均値に対する比
・代表交通手段は移動を徒歩、自動車、鉄道のうち最も近い交通手段を推定して当てはめたもの。なお、②隣接県間移動において「徒歩」と判定された移動は、今回の分析から除外している。
・①県内移動:都道府県を超えない移動
・②隣接県間移動:隣接県への移動
・③長距離移動:「①県内移動」「②隣接県間移動」のいずれにも該当しない移動
出所:三菱総合研究所
・GW期間中(2020年4月29日~5月6日)はすべて休日として分析
・前年同時期比:2019年の同時期の平日・休日別、代表交通手段別の平均値に対する比
・代表交通手段は移動を徒歩、自動車、鉄道のうち最も近い交通手段を推定して当てはめたもの。なお、②隣接県間移動において「徒歩」と判定された移動は、今回の分析から除外している。
・①県内移動:都道府県を超えない移動
・②隣接県間移動:隣接県への移動
・③長距離移動:「①県内移動」「②隣接県間移動」のいずれにも該当しない移動
出所:三菱総合研究所
一律の移動制限から、個別具体的な接触制限へ
2020年5月14日に39県に対する緊急事態宣言が解除されたことをふまえると、今後は全国で移動が増加傾向に転じる可能性が高い。まだ緊急事態宣言を解除していない都道府県への流入・流出を含め、継続的に全国的な移動状況を把握することが必要と考えられる。
移動そのものを現状以上に抑制することは難しいと想定されることから、今後は一律な移動制限を行うのではなく、感染者が発生・増加している地域における人流に特に着目して個別具体的な制限をかけるなど、地域内外の感染状況に応じた接触制限が有効であると考えられる。
今後は、緊急事態宣言の対象都道府県を含む区域における経済活動の再開や区域の縮小に資する示唆を得るため、県内移動の状況などをより詳細に確認していきたい。
- 前年同時期比:代表交通手段別データ(全国地方別および都道府県別:CC BY 4.0)[36KB]
- 前年同時期比:代表交通手段別グラフ(全国地方別)[209KB]
- 前年同時期比:代表交通手段別グラフ(全国都道府県別)[710KB]
※本データは、株式会社三菱総合研究所がLocationMind株式会社の協力を得て作成したものです。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス表示4.0国際ライセンス(CC BY 4.0)のもとで提供しています。「前年同時期比:代表交通手段別データ(全国地方別及び都道府県別:CC BY 4.0)」内の利用規約に従ってご利用ください。
謝辞
本分析に際しては、LocationMind株式会社の桐谷直毅CEO、柴崎亮介CTO、金杉洋氏、宮澤聡氏をはじめ、皆さまから多大なる協力をいただいた。ここに記して感謝の意を表したい。