コラム

新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言ヘルスケアスマートシティ・モビリティ

新型コロナウイルス人流分析レポート3:6月前半の平日の鉄道移動は緊急事態宣言発令前までは戻らず

タグから探す

2020.6.29

次世代インフラ事業本部坂井浩紀

盛田太郎

中條 覚

新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言
政府は、2020年5月25日に全都道府県での緊急事態宣言を解除し、県間移動、観光、イベントなどの社会経済活動を3週間ごとに段階的に緩和するための目安を発表した※1。6月1日から18日までは移行期間のステップ1であったが、日常生活における移動はどのようであっただろうか。

バス・鉄道事業者の定期運賃収入減少の懸念あり

三菱総合研究所では、全国の移動の状況について、ゴールデンウイーク(GW)期間翌週から6月前半までを対象として、主たる交通手段(以下、代表交通手段)別の分析を行った。その結果によると、緊急事態宣言の解除後、移動は増加傾向にあるものの、6月半ばにおいても平日の移動は鉄道移動において緊急事態宣言発令前の水準まで戻っておらず、休日の移動は日常生活圏内が中心であることが分かった。

まだ十分に移動の水準が戻っていない現状を踏まえると、6月19日からの移行期間ステップ2においては、平日、休日ともにさらに移動が増加することが予想される。しかし、平日は、今後も一定程度テレワーク/在宅勤務が定着し、特に定期券を利用した通勤移動が以前の水準までは戻らない可能性がある。国土交通省が公表している鉄道統計年報※2によると、民間鉄道事業者における旅客運輸収入のうち定期運賃が占める割合は約4割と、運輸事業者に影響を及ぼす可能性は高い。

国内観光などの需要回復に期待

6月19日からの移行期間ステップ2では、県間移動については全面的に解禁されたほか、県外からの集客による観光振興、イベントの上限人数の緩和や施設の営業再開がされることになる。休日は、当面は、訪日外国人が戻らない状況とはなるが、国内の人の移動や滞在が増加し、新幹線や飛行機などの長距離の旅客輸送事業や観光業などは徐々に回復していくことが期待される。

しかし、万一、感染拡大が再発し再び一律の移動制限となれば、経済活動に再び大きな影響が生じる。こうした事態を防止するため、今後増加する移動においては、適切な接触制限などの予防策を講じることが必須と考える。

以下で、今回の分析内容の詳細を述べる。

代表交通手段を区別した人流推定データの分析

人流推定データは、LocationMind株式会社によるLocationMind xPOPのデータ※3を活用した。本データでは、ある滞留(一定時間移動がない状態)から次の滞留までの移動を「1移動」として計上している。代表交通手段は、移動の速度や経路などから推定した。

分析期間は、GW期間翌週から6月前半まで(2020年5月11日~6月14日)とし、この期間を1週間(月曜から日曜まで)ごとに区分した。なお、比較対象は第2回レポートで定義した緊急事態宣言発令前(2020年3月16日~4月7日)の期間とした。

分析は全国および8地方(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州)別に行った。移動は①県内移動、②隣接県間移動※4とそれ以外の③長距離移動に分類した。

平日の移動は、6月半ばでも緊急事態宣言発令前まで戻らず

平日における全国の移動状況を表1に示す。表中の数値は、代表交通手段別の緊急事態宣言発令前比である。

全国の移動をみると、不要不急の往来の自粛を呼びかけていた5月までは、移動は緊急事態宣言前と比較して抑制されていた。6月からは県内移動および県間移動とも5月最終週の時点から大きく増加しているものの、6月半ばにおいても、鉄道での県内移動および県間移動、自動車での県間移動は、緊急事態宣言発令前の水準までは戻っていない。8地方別の移動をみても、一部地域の隣接県間移動を除き、おおむね全国と同様の傾向がみられた。

この背景には、業種によってはテレワーク/在宅勤務が一定程度継続していることなどがあると考えられる。
表1 緊急事態宣言発令前比:代表交通手段別の移動状況(全国、平日)
表1 緊急事態宣言発令前比:代表交通手段別の移動状況(全国、平日)

緊急事態宣言発令前比:2020年3月16日~4月7日の平日・休日別、代表交通手段別の平均値に対する比。

代表交通手段は移動を徒歩、自動車、鉄道のうち最も近い交通手段を推定して当てはめたもの。なお、②隣接県間移動において「徒歩」と判定された移動は、今回の分析から除外している。

①県内移動:都道府県を超えない移動

②隣接県間移動:隣接県への移動

③長距離移動:「①県内移動」「②隣接県間移動」のいずれにも該当しない移動

所:三菱総合研究所

休日の移動は、日常生活圏内を中心に宣言解除後から大きく増加

次に、休日における全国の移動状況を表2、8地区の6月の移動状況を表3に示す。表中の数値は、代表交通手段別の緊急事態宣言発令前比である。

全国の移動をみると、全国での緊急事態宣言が解除された5月最終週において大きく増加した。これは、宣言解除後の最初の休日となる5月最終週時点に、一部の商業施設やレジャー施設が営業再開したことなどが考えられる。交通手段別にみると、鉄道移動は増加傾向が顕著であり、6月半ばには県内および隣接県間の移動が緊急事態宣言発令前の水準まで戻っている。なお、長距離移動は緊急事態宣言前の水準までは戻っていない。

続いて、8地方別の移動をみると、関東および近畿において県内および隣接県間の鉄道移動は緊急事態宣言前の水準まで戻っているものの、その他の地方では一部の隣接県間移動を除き、同水準まで戻っていない。なお、長距離移動については、いずれの地方も緊急事態宣言前の水準まで戻っていない。

これらの傾向をみると、宣言解除後の休日は、買い物や食事などの日常生活圏内の移動が中心であり、県外からの集客を控えるように呼び掛けていたステップ1の期間においては、本格的な観光などをはじめとして日常生活圏外への移動までは至っていなかったと考えられる。
表2 緊急事態宣言発令前比:代表交通手段別の移動状況(全国、休日)
表2 緊急事態宣言発令前比:代表交通手段別の移動状況(全国、休日)
表3 緊急事態宣言発令前比:代表交通手段別の6月の移動状況(8地方別、休日)
表3 緊急事態宣言発令前比:代表交通手段別の6月の移動状況(8地方別、休日)

緊急事態宣言発令前比:2020年3月16日~4月7日の平日・休日別、代表交通手段別の平均値に対する比。なお、表3は、6月の第1週(6月1日~7日)と第2週(6月8日~14日)の平日・休日別の平均

代表交通手段は移動を徒歩、自動車、鉄道のうち最も近い交通手段を推定して当てはめたもの。なお、②隣接県間移動において「徒歩」と判定された移動は、今回の分析から除外している。

①県内移動:都道府県を超えない移動

②隣接県間移動:隣接県への移動

③長距離移動:「①県内移動」「②隣接県間移動」のいずれにも該当しない移動

所:三菱総合研究所

経済活動との両立へ向け、適切な接触制限を

6月19日からの移行期間ステップ2においては、外出自粛や休業要請などが段階的緩和されることで、平日・休日ともに、県内および県間移動はこれまで以上に増加するものと考えられる。今後、移動を伴う社会経済活動を徐々に活性化させ、維持していくためにも、感染を再拡大させないよう、適切に接触制限を行うことが重要と考える。

三菱総合研究所では、社会経済活動の再開と移動の関係に関する示唆などを得るため、今後も継続的に全国的な移動状況や一部地域における詳細な移動内容などを把握していく予定である。
 
参考

※本データは、株式会社三菱総合研究所がLocationMind株式会社の協力を得て作成したものです。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス表示4.0国際ライセンス(CC BY 4.0)のもとで提供しています。「前年同時期比:代表交通手段別データ(全国地方別および都道府県別:CC BY 4.0)」内の利用規約に従ってご利用ください。

 
謝辞
本分析に際しては、LocationMind株式会社の桐谷直毅CEO、柴崎亮介CTO、金杉洋氏、宮澤聡氏をはじめ、皆さまから多大なる協力をいただいた。ここに記して感謝の意を表したい。

※1:「外出自粛の段階的緩和の目安」
新型コロナウイルス感染症対策本部(第36回)内閣官房(新型コロナウイルス感染症対策推進室)提出資料
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/sidai_r020525.pdf(閲覧日:2020年6月22日)

※2:国土交通省「鉄道統計年報[平成29年度] 鉄・軌道業営業損益」
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000050.html(閲覧日:2020年6月22日)

※3:LocationMind xPOPのデータは、NTTドコモが提供する「ドコモ地図ナビ」サービスのオートGPS機能利用者より、許諾を得た上で送信される携帯電話の位置情報を、NTTドコモが総体的かつ統計的に加工を行ったドコモ地図ナビ統計情報を基に作成されたデータを使用。位置情報は最短5分ごとに測位されるGPSデータ(緯度経度情報)であり、個人を特定する情報は含まれない。

※4:国土交通省「『隣接する都道府県』について」
https://www.mlit.go.jp/tec/nyuusatu/hattyu/rinsetu.pdf(閲覧日:2020年6月22日)
ただし、本分析では岡山の隣接県は島根ではなく鳥取とした。

関連するナレッジ・コラム

もっと見る
閉じる