東京都発着の長距離移動は抑制
Go Toトラベル事業は始まったところではあるが、足元では三大都市圏を中心に全国で感染者が増加している。感染抑制と地域経済活動維持の両立へ向けては、各所での接触をより確実に制限するとともに、必要以上の移動抑制とならないよう、場所・時間・目的を絞り込んだきめ細かな移動抑制/緩和を実施することが望ましい。例えば旅行については、従来のように夏休みなど特定の期間に集中してしまわないよう、時期や地域などを大幅に分散させる方策の検討も一案かもしれない。
以下で、今回の分析内容の詳細を述べる。
代表交通手段を区別した人流推定データの分析
分析期間は、2020年7月23日~26日(4連休)とした。比較対象は、a)前年同時期のデータ(2019年7月13日~15日の連休)、b)緊急事態宣言解除後の休日(2020年5月30日~7月19日の休日)とした。移動は①県内移動、②隣接県間移動※2とそれ以外の③長距離移動に分類した。
なお、本コラムで用いた各表の元となるデータ(全国地方別・代表交通手段別人流推定データ)は、参考資料にとりまとめた。
長距離移動の前年連休比は自動車が66%、鉄道が36%
全国の長距離移動は、前年同時期の連休と比較し、自動車移動で66%、鉄道移動で36%にとどまっている。自動車と比較し、鉄道の落ち込みが大きい。地方別にみても、いずれの地方でも同様の傾向がみられた。国土交通省が公表している鉄道輸送統計調査※3によると、新幹線における例年の7月の旅客数量(定期および定期外)は年間旅客数量の10%程度でありこの時期の旅客数量落ち込みは運輸事業者への影響が大きいと考えられえる。
・前年連休比:2019年7月13日~15日の代表交通手段別の平均値に対する比。
・代表交通手段は移動を徒歩、自動車、鉄道のうち最も近い交通手段を推定して当てはめたもの。
・長距離移動:「県内移動」「隣接県間移動」のいずれにも該当しない移動
出所:三菱総合研究所
関東地方の長距離移動は抑制
8地方別にみると、宣言解除後の休日と比較して、長距離移動は、東京都が含まれる関東地方の全移動および近畿地方の県内・隣接県間移動のみが他地域と比較して増加が抑制されていた。雨天続きであった天候の影響もあったものと考えられるが、報道などによる間接的な影響も含め、一定程度、Go Toトラベル事業から東京都を対象外とした効果があったと考えられる。
・宣言解除後休日比: 2020年5月30日~7月19日の休日の移動の1日当たり平均値に対する比
・①県内移動:都道府県を超えない移動
・②隣接県間移動:隣接県への移動
・③長距離移動:「①県内移動」「②隣接県間移動」のいずれにも該当しない移動
出所:三菱総合研究所
4連休中の東京発着移動の減少により全国の移動はおおむね20%ポイント抑制
・宣言解除後休日比:2020年5月30日~7月19日の休日の移動の1日当たり平均値に対する比
・①県内移動:都道府県を超えない移動
・②隣接県間移動:隣接県への移動
・③長距離移動:「①県内移動」「②隣接県間移動」のいずれにも該当しない移動
出所:三菱総合研究所
・推定方法:4連休期間中の東京都発着の長距離移動が、東京都と全国の長距離移動の増加の差分だけ上昇していた仮定。この仮定の下で、全国の長距離移動について宣言解除後休日比を算出(137%)し、実績値との増加率の差分(19%)を得た。
出所:三菱総合研究所
確実な接触制限と、場所・時間・目的を絞り込んだきめ細かな移動抑制/緩和
三菱総合研究所では、社会経済活動の再開と移動の関係に関する示唆などを得るため、今後も継続的に全国的な移動状況や一部地域における詳細な移動内容などを把握していく予定である。
参考
※本データは、株式会社三菱総合研究所がLocationMind株式会社の協力を得て作成したものです。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス表示4.0国際ライセンス(CC BY 4.0)のもとで提供しております。「全国地方別・代表交通手段別人流推定データ(宣言解除後休日比および前年連休比:CC BY 4.0)」内の利用規約に従ってご利用ください。
謝辞
本分析に際しては、LocationMind株式会社の桐谷直毅CEO、柴崎亮介CTO、金杉洋氏、宮澤聡氏をはじめ、皆さまから多大なる協力をいただいた。ここに記して感謝の意を表したい。