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新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言ヘルスケアスマートシティ・モビリティ

新型コロナウイルス人流分析レポート4:7月4連休 全国の鉄道による長距離移動は前年連休比36%、東京発着の移動は抑制

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2020.8.11

次世代インフラ事業本部坂井浩紀

盛田太郎

中條 覚

新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言
2020年7月22日よりサービス産業消費喚起事業(以下、Go Toトラベル事業)が開始された。当面の方針として、東京都発着の旅行は割引支援を行わないなど、東京都は対象外とされている。Go Toトラベル事業開始後の最初の連休の移動を分析する。

東京都発着の長距離移動は抑制

三菱総合研究所では、2020年7月23日~26日の主たる交通手段(以下、代表交通手段)別の分析を行った。全国でみると、長距離移動は、前年同時期(海の日を含む3連休)の水準からは大幅に減少しており、特に鉄道による長距離移動は約36%にとどまっていることが分かった。緊急事態宣言解除後の休日の長距離移動の平均値との比較では増加していたものの、東京都発着の移動は、緊急事態宣言解除後の休日と同程度に抑えられていた。仮に、東京都発着の移動は全国と同様であったとすると、全国の長距離移動は約20%ポイント上昇していたと推定される。

Go Toトラベル事業は始まったところではあるが、足元では三大都市圏を中心に全国で感染者が増加している。感染抑制と地域経済活動維持の両立へ向けては、各所での接触をより確実に制限するとともに、必要以上の移動抑制とならないよう、場所・時間・目的を絞り込んだきめ細かな移動抑制/緩和を実施することが望ましい。例えば旅行については、従来のように夏休みなど特定の期間に集中してしまわないよう、時期や地域などを大幅に分散させる方策の検討も一案かもしれない。

以下で、今回の分析内容の詳細を述べる。

代表交通手段を区別した人流推定データの分析

人流推定データは、LocationMind株式会社によるLocationMind xPOPのデータ※1を活用した。本データでは、ある滞留(一定時間移動がない状態)から次の滞留までの移動を「1移動」として計上している。さらに、移動の代表交通手段を速度や経路などから推定した。

分析期間は、2020年7月23日~26日(4連休)とした。比較対象は、a)前年同時期のデータ(2019年7月13日~15日の連休)、b)緊急事態宣言解除後の休日(2020年5月30日~7月19日の休日)とした。移動は①県内移動、②隣接県間移動※2とそれ以外の③長距離移動に分類した。

なお、本コラムで用いた各表の元となるデータ(全国地方別・代表交通手段別人流推定データ)は、参考資料にとりまとめた。

長距離移動の前年連休比は自動車が66%、鉄道が36%

全国および8地方(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州)別の移動について、前年連休比を図表1に示す。

全国の長距離移動は、前年同時期の連休と比較し、自動車移動で66%、鉄道移動で36%にとどまっている。自動車と比較し、鉄道の落ち込みが大きい。地方別にみても、いずれの地方でも同様の傾向がみられた。国土交通省が公表している鉄道輸送統計調査※3によると、新幹線における例年の7月の旅客数量(定期および定期外)は年間旅客数量の10%程度でありこの時期の旅客数量落ち込みは運輸事業者への影響が大きいと考えられえる。
図表1 前年連休比:代表交通手段別の移動状況(全国および8地方、長距離移動)
図表1 前年連休比:代表交通手段別の移動状況(全国および8地方、長距離移動)

前年連休比:2019年7月13日~15日の代表交通手段別の平均値に対する比。

代表交通手段は移動を徒歩、自動車、鉄道のうち最も近い交通手段を推定して当てはめたもの。

長距離移動:「県内移動」「隣接県間移動」のいずれにも該当しない移動

所:三菱総合研究所

関東地方の長距離移動は抑制

次に、全国および8地方別の長距離移動について、宣言解除後休日比を図表2に示す。

8地方別にみると、宣言解除後の休日と比較して、長距離移動は、東京都が含まれる関東地方の全移動および近畿地方の県内・隣接県間移動のみが他地域と比較して増加が抑制されていた。雨天続きであった天候の影響もあったものと考えられるが、報道などによる間接的な影響も含め、一定程度、Go Toトラベル事業から東京都を対象外とした効果があったと考えられる。
図表2 宣言解除後休日比:移動状況(全国および8地方)
図表2 宣言解除後休日比:移動状況(全国および8地方)

宣言解除後休日比: 2020年5月30日~7月19日の休日の移動の1日当たり平均値に対する比

①県内移動:都道府県を超えない移動

②隣接県間移動:隣接県への移動

③長距離移動:「①県内移動」「②隣接県間移動」のいずれにも該当しない移動

所:三菱総合研究所

4連休中の東京発着移動の減少により全国の移動はおおむね20%ポイント抑制

続いて、東京都の移動について、宣言解除後休日比を図表3に示す。いずれの移動も緊急事態宣言解除後の休日の移動と同程度であり、関東地方の中でも東京発着の移動が抑制されたことの影響が大きかったことが分かる。
図表3 宣言解除後休日比:移動状況(関東および東京都)
図表3 宣言解除後休日比:移動状況(関東および東京都)

宣言解除後休日比:2020年5月30日~7月19日の休日の移動の1日当たり平均値に対する比

①県内移動:都道府県を超えない移動

②隣接県間移動:隣接県への移動

③長距離移動:「①県内移動」「②隣接県間移動」のいずれにも該当しない移動

所:三菱総合研究所

最後に、東京発着の移動が抑制されたことによる影響を推定した。緊急事態宣言解除後の休日と比べた4連休期間中における東京都発着の自動車・鉄道を合算した長距離移動の増加が全国と同程度の増加であったと仮定すると、連休中の全国の長距離移動は、118%から137%と19%ポイント上昇していたものと推定される。
図表4 東京発着の移動が抑制されたことによる影響(全国の長距離移動、宣言解除後休日比)
図表4 東京発着の移動が抑制されたことによる影響(全国の長距離移動、宣言解除後休日比)

推定方法:4連休期間中の東京都発着の長距離移動が、東京都と全国の長距離移動の増加の差分だけ上昇していた仮定。この仮定の下で、全国の長距離移動について宣言解除後休日比を算出(137%)し、実績値との増加率の差分(19%)を得た。

所:三菱総合研究所

確実な接触制限と、場所・時間・目的を絞り込んだきめ細かな移動抑制/緩和

Go Toトラベル事業は始まったところではあるが、足元では三大都市圏を中心に全国で感染者が増加している。感染抑制と地域経済活動維持の両立へ向けては、各所での接触をより確実に制限するとともに、必要以上の移動抑制とならないよう、場所・時間・目的を絞り込んだきめ細かな移動抑制/緩和を実施することが望ましい。

三菱総合研究所では、社会経済活動の再開と移動の関係に関する示唆などを得るため、今後も継続的に全国的な移動状況や一部地域における詳細な移動内容などを把握していく予定である。
 
参考

※本データは、株式会社三菱総合研究所がLocationMind株式会社の協力を得て作成したものです。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス表示4.0国際ライセンス(CC BY 4.0)のもとで提供しております。「全国地方別・代表交通手段別人流推定データ(宣言解除後休日比および前年連休比:CC BY 4.0)」内の利用規約に従ってご利用ください。

 
謝辞
本分析に際しては、LocationMind株式会社の桐谷直毅CEO、柴崎亮介CTO、金杉洋氏、宮澤聡氏をはじめ、皆さまから多大なる協力をいただいた。ここに記して感謝の意を表したい。

※1:LocationMind xPOPのデータは、NTTドコモが提供する「ドコモ地図ナビ」サービスのオートGPS機能利用者より、許諾を得た上で送信される携帯電話の位置情報を、NTTドコモが総体的かつ統計的に加工を行ったドコモ地図ナビ統計情報を基に作成されたデータを使用。位置情報は最短5分ごとに測位されるGPSデータ(緯度経度情報)であり、個人を特定する情報は含まれない。

※2:国土交通省「『隣接する都道府県』について」
https://www.mlit.go.jp/tec/nyuusatu/hattyu/rinsetu.pdf(閲覧日:2020年7月30日)
ただし、本分析では岡山の隣接県は島根ではなく鳥取とした。

※3:国土交通省「鉄道輸送統計調査報告書(平成30年度分)」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00600350&kikan=00600&tstat=000001011026&cycle=8&year=20181&month=0&stat_infid=000031884708&result_back=1&result_page=1&tclass1val=0(閲覧日:2020年7月30日)

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