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社会課題×デジタルデジタル・イノベーション

第4回:暗号資産の普及に必要な視点

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2020.8.28

デジタル・イノベーション本部河田雄次

社会課題×デジタル

POINT

  • 暗号資産(仮想通貨)を取り巻く経済圏は拡大途上だが、金融犯罪も激増。
  • 暗号資産を巡る規制がグローバルに整備されつつあるも、その有効性は未知数。
  • ネットベネフィットの増大にはグローバルな産学官民の連携、多面的な対応が不可欠。
放火事件や自動車事故などの痛ましい事件の度に思うことがある。発火法や自動車といった技術は、人類全体として、果たして功(こう)と罪どちらの要素が大きいだろうか。

翻って、フィンテック※1の代表的な技術とされるブロックチェーンを用いた暗号資産を見ると、足元の時価総額は約37兆円、取引量は約10兆円/日に上り※2、Facebookのリブラや中国のデジタル人民元などの例のように、既存の価値移転の仕組みを変えるものと期待されている。一方、取引所からの不正流出事件は減少しつつあるが、ダークマーケットでの違法売買や詐欺・盗難事件、経済制裁回避などを目的とした金融犯罪は激増しており、2019年の不正取引額は3年前の約27倍(4,700億円超)と見られている※3

こうした状況に対し、金融当局は強い危機感を抱いており、G20や FSB(金融安定理事会)、FATF(金融活動作業部会)などの国際機関主導のもと、グローバルに規制が整備されつつある。しかし、その規制の有効性については悲観的に捉える向きも多い。暗号資産には一般に特定の管理者は存在せず、当事者間でのみ取引が可能なため、第三者からは売買当事者の特定や実態把握は極めて困難である。各国の管轄権をまたいでグローバルに取引が行われることから、取り締まりも一国だけでは難しい。プライバシー保護に利用される取引秘匿化技術の悪用も懸念される。実際に、現在までに世界の取引所不正流出事件などで犯人が摘発された事例は皆無に近い。

あらゆる技術には功罪のトレードオフが存在するが、そのベネフィットとロスを相殺した「ネットベネフィット」を増大させるために、現在までに多面的な対応が進められてきた。例えば火をおこす技術であれば、放火に対する刑罰などのほか、民間消防組織の整備、難燃性素材や消化剤の開発、火災保険やその再保険、「火の用心」といった標語などである。ハーバード大学のローレンス・レッシグ教授は、社会課題を解決する力を、Law(法規制)、Norm(社会規範)、Market(市場)、Architecture(社会や技術の仕組み)に整理している。

暗号資産も同様に、一国の法規制だけでは十分でない以上、グローバルに産学官民が連携した多面的な取り組みが必要とされる。日本も、例えば非競争領域における業界横断・官民協働の取り組みなど、自らがグローバルなルール作りを主導する気概のもと、業界一丸となり暗号化資産のネットベネフィット最大化に向けて多面的に取り組むことが求められている。

※1:フィンテック(FinTech)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、革新的技術を活用して新たな金融サービスを生み出したり、既存の金融サービスを向上させるさまざまな動きを指す。

※2:CoinMarketCap,
https://coinmarketcap.com/(閲覧日:2020年8月19日)

※3:CipherTrace,
https://ciphertrace.com/spring-2020-cryptocurrency-anti-money-laundering-report/(閲覧日:2020年8月19日)

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