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局地的な電力需要に対応した送配電設備の在り方

将来の空容量を考慮した需要・DERの立地誘導

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2024.8.19

エネルギー・サステナビリティ事業本部藤田 恵

環境・エネルギートピックス
近年、データセンターやEVの普及に伴う局地的な電力需要の増加が見込まれている。これに対し、費用対効果の高い送配電設備を形成するため、需要やDERを適切に立地誘導する取り組みに注目が集まっている。その具体策として、海外では、系統のホスティングキャパシティ※1を考慮した取り組みが進んでいる。本コラムでは、米国の先進事例を分析し、日本での導入に向けたポイントを紹介する。

局地的な電力需要が送配電ネットワークに与える影響

「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、再生可能エネルギーの導入が拡大している。一般送配電事業者は、増加する再エネの接続申請に迅速に対応すること、再エネの普及拡大に伴う電力供給の構造変化に対し、国民負担を極力抑えた送配電設備の形成が求められる。

電力・ガス取引監視等委員会の主催する「局地的電力需要増加と送配電ネットワークに関する研究会」では、生成AIの普及に伴うデータセンターや半導体工場の新設に加え、EVをはじめとした電化に伴う電力需要の増加が見込まれている。これらの局地的な需要増で送配電ネットワークに影響を及ぼす可能性があるとされている。

こうした需要増に、送配電設備増強で対応した場合は、時間とコストを要し、費用対効果の面で得策とはいえない。一方、電力セクターの制約が、データセンターなどの需要設備新設を妨げる事態は避けるべきである。またEVなどのフレキシビリティの接続が阻害されれば、カーボンニュートラル達成の阻害要因にもなりかねない。

費用対効果の高い設備を形成するためには

設備増強によるコスト増を回避しながら局地的かつ大規模な需要を系統に接続するためには、既存系統を有効活用し、再エネをはじめとした分散型エネルギーリソース(DER)の利活用も含めた柔軟な設備計画を策定する必要がある。これにより費用対効果の高い設備形成が可能になる。まず最初に行うべきは、DERの接続状況も踏まえ、系統のどこに空容量があるのか、どこに接続すれば潮流改善効果が高いのかなどを把握することである。これらの情報をもとに、需給両面から最適な立地に需要、電源を誘導することが重要である。

日本では、高圧・特別高圧の需要家向けに、供給余力のある地点(ウェルカムゾーン)を地図上で公開し、需要設備を誘導する取り組みが始まっている。ただしこのウェルカムゾーンマップは、現在の系統における空容量の公開にとどまっている。実際は需要やDERの接続までには開発期間がかかり、その間にも系統の空容量が変化していく。そのため、事業者は数年先、すなわち将来系統の空容量を把握し、接続までのリードタイムを考慮してDERの投資判断を行う必要がある。また、現在の制度設計は供給可能エリアへ需要や電源を設置するに当たって事業者側へのインセンティブが乏しく、ウェルカムゾーンマップの公開だけで立地誘導を行うことは困難である。

米国の先進事例にみる需要・DERの立地誘導

このような課題に対し、米国の電力会社は、系統のホスティングキャパシティ(以下「HC」という)を考慮した立地誘導の取り組みを進めている。HCのユースケースは、大きく以下に示す3点である。
図1 HCの主なユースケース
HCの主なユースケース
三菱総合研究所作成
米国ニューヨーク(以下、NY)州の電力会社は、主に立地誘導のユースケースを前提に、直近の配電系統※2におけるHCを算出し、地図上で公開している。またHCマップと共に、DER設置による潮流(系統を流れる電流の方向や量)の改善効果が高いエリアを、高価値エリア(LSRV : Locational System Relief Value)として公開している。LSRVはValue of DER(VDER)と呼ばれるNY州におけるDERの補助金メカニズムの1つの要素である。LSRVを含む複数の価値の組み合わせで算出された補助金が、当該エリアを管轄する電力会社の託送原価から発電事業者へ支払われる。このようにHCだけでなく、インセンティブとなる情報も同時に公開し、立地誘導効果を高めることが期待される。
図2 米国National Gridが公開するHCマップ
米国National Gridが公開するHCマップ
出所:National Grid, “National Grid New York System Data Portal: User Guide”
https://systemdataportal.nationalgrid.com/NY/documents/National%20Grid%20New%20York%20System%20Data%20Portal%20User%20Guide%20Phase%203%20Critiera%20Violations.pdf(閲覧日:2024年7月23日)
さらにNY州では近年、立地誘導のユースケースを前提に、将来系統におけるHC予測(Forecasted Hosting Capacity)の公開を検討している。NY州の電力会社各社により構成された連合(Joint Utilities)は、現在公開されている直近の系統に対するHCの評価が、需要家やDER設置事業者の開発プロセスや意思決定に十分な情報を与えていないとし、数年先の予測系統におけるHCの公開が必要であるとの見解を示している。また、将来のHCを正確に把握するためには、将来の系統構成をもとに、細かな地域粒度での需要予測、DERの普及予測を組み込む必要があると言及されている。

効果的な立地誘導の実現に向けたポイント

需要・DERの立地誘導や事業者による適切なDER投資判断に貢献するには、日本でも、現在系統を対象としたウェルカムゾーンマップの公開だけでなく、DER開発期間や適時拡大を考慮した空容量の予測が必要である。それに加え、潮流改善効果が高く、需給両面で需要・電源を最適に誘導するようなインセンティブと、その情報公開が必要である。これらを踏まえ、制度面、技術面でもそれぞれ以下の項目検討が求められる。

制度面

  • DER開発、空容量拡大のリードタイムを考慮した空容量の開示
  • 立地誘導のシグナルとなる託送料金制度等のインセンティブ

技術面

  • HC予測に必要な地域別の需要・DER予測
特に技術面については、当社にて提供している地域別電力需要予測のサービス(BlueGrid DFES)もその一助となるものと認識している。

このようなサービスを通じて、当社は今後も「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた一般送配電事業者の送配電設備形成に貢献していく。
BlueGrid
BlueGridが提供する地域別電力需要予測(DFES)の機能では、2050年までの需要、DER(PV、EV、蓄電池、ヒートポンプ)の地域別の普及見通し、8,760時間の潮流予測を提供可能。BlueGrid DFESにより、将来の送配電網に生じる負荷を予測し、送配電設備計画、設備工事、系統運用に寄与するサービスを提供する。

※1:ホスティングキャパシティ(HC : Hosting Capacity):既存の系統構成で、電力品質や系統の信頼性に悪影響を与えることなく接続できるDERの容量を指す。

※2:NY州の電力会社の配電系統は33kV以下が対象。

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