マンスリーレビュー

2017年8月号特集エネルギー

2050年における電力システムのあり方

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2017.8.1
エネルギー

POINT

  • 2050年に向けて、再生可能エネルギーの大量導入が不可欠。
  • 太陽光・風力は変動電源であり、蓄電池活用、需要シフトによる調整が必要。
  • 再生可能エネルギーの基幹電源化を見据えた新たな制度設計が鍵を握る。

1.パリ協定を踏まえた再生可能エネルギーの導入拡大の必要性

2015年12月のCOP21にて採択されたパリ協定は、翌年11月に発効し、その翌月にはわが国でもその効力が発生している。パリ協定には、世界共通の長期目標や各国の長期低排出発展戦略の作成と提出が規定されている。アメリカではトランプ政権がパリ協定からの離脱を表明しているが、EUと中国はあらためてパリ協定支持を表明しており、世界全体として温室効果ガスの削減を進める潮流は継続すると考えられる。

こうした動きを背景に、わが国では2016年5月に閣議決定した「地球温暖化対策計画」の中で、「長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す」ことを掲げている。さらに経済産業省と環境省では、それぞれ2050年を対象とした温暖化対策のあり方についての検討を進め、「長期地球温暖化対策プラットフォーム報告書」および「長期低炭素ビジョン」を取りまとめている。前者はグローバルな視点に立って戦略をまとめている一方、後者は国内で80%削減を実現する姿を中心に据えているというスタンスの違いがある。しかし、長期的には生活の質の向上を前提に、エネルギー需要の大幅な抑制、電化の促進、電力の低炭素化を進めることが必要という点では共通している。

ここで、電力を低炭素化するには非化石電源の発電比率を高める必要がある。まして80%削減を達成するには、これまでの延長線上にはないスピードで、非化石電源の飛躍的な導入を促す抜本的対策が求められる。原子力発電の拡大を前提とした対応は、東日本大震災以降難しくなっており、再生可能エネルギーに多くを頼る必要がある。

2.再生可能エネルギーの大量導入に向けた課題

現在、固定価格買取制度のもとで再生可能エネルギーの導入拡大が進められており、特に開発リードタイムが短い太陽光発電は、急速に導入が進んでいる。太陽光発電と風力発電は、将来的にも導入ポテンシャルの大きさやコスト低減の可能性という点で、大量導入が期待される電源である。

一方で、これらの電源は、出力が気象条件によって変動する。特に太陽光発電は晴れた日であれば昼間に発電量がピークとなり、夕方には出力が大幅に減少し、夜間は全く発電することができないという特性をもつ。こうした変動と需要を調整する役割は主に火力発電が担っているが、こうした変動電源が大量に導入されると、急な出力の変動に対し、従来型の火力発電では対応できなくなる場面が想定される。また、電力需要の少ない季節や曜日には、電力の供給が需要を超えてしまうことも想定される。電力を安定的に供給するには時々刻々で需要と供給を一致させることが必要だが、結果的に電力の安定供給が損なわれる恐れが生じる。

このような課題に対して、火力発電の抑制や揚水発電の活用、電力供給エリア間で電力の融通を可能とする地域間の連系線を活用して調整する方法がある。それでもなお対応が必要な場合、再生可能エネルギーの出力制御を行うことがルール化されている。実際、すでに種子島、壱岐島、徳之島といった九州電力管内の離島では、再生可能エネルギーの出力制御を繰り返し実施している(図1)。電力の安定供給のためには、再生可能エネルギーによる電力を一定の範囲内に抑える必要があるため、本来発電できるはずのCO2フリー電気が、供給できなくなっている。

今後、原子力発電の再稼動が一定程度見込まれる中で、再生可能エネルギーの導入拡大がより進むと、離島に限らず広域的なエリアでも出力制御が行われるものと想定される。
[図1]九州の離島における出力制御実績

3.再生可能エネルギーの大量導入を支える電力システム

仮に、現在の電力システムを前提として、太陽光発電と風力発電の導入量が飛躍的に増えた場合、1年間に発電可能な電力量のうち、40~50%は利用されることなく抑制される可能性がある※1

太陽光発電の大量導入時で、日照条件の良い場合の発電量と電力需要を模擬的に示すと図2のとおりであり、火力発電の出力を抑えた上でも、昼間の太陽光発電は大量に余ることが予想される。

非化石電源の比率を高めるには、太陽光発電による余剰電力をできるだけ活用することが望ましく、以下に掲げる三つの方策が有効である(図3)。

(1) 需要シフト

夜間に消費している電力需要を、効用を損なうことなく昼間にシフトすることができれば、その分だけ夜間の火力発電を抑制しつつ昼間の余剰電力を有効活用することが可能となる。

例えば、現在普及が進みつつあるヒートポンプ式給湯機(いわゆるエコキュート)は、通常夜間の電力を使ってお湯を沸かしている。これを、湯切れを起こさない範囲で昼間の運転に切り替えることで、需要を日中にシフトさせることが可能となる。他にも上下水道で使われているポンプ、倉庫の冷凍冷蔵機器、自動販売機などにも需要シフトの可能性がある。

現時点でこのような需要シフトを需要家に促すには、報奨金などの経済的インセンティブが短期的には必要と考えられる。しかし、大量の余剰電力が生じる頃には、昼間の発電コストが安価になるため、それがリアルタイムで電力価格に反映されればおのずと需要は昼間にシフトするものと期待される。

(2) 蓄電池活用

昼間の余剰電力を蓄電池に貯めることができれば、それを夜間などに放出することで有効活用が可能となる。蓄電池については、将来的に太陽光発電と蓄電池それぞれのコストダウンが進み、この組み合わせによる発電コストが購入電力価格を下回る(この状態をストレージパリティに達するという)ことが期待される。ストレージパリティに達することで、太陽光発電+蓄電池のシステムが自立的に普及し、余剰電力の有効活用が促進される。また、将来的に電気自動車が普及することで、その利用に影響を与えない範囲で車のバッテリーを蓄電池として活用することも有効と考えられる。

(3) 水素などへの変換

余剰電力を電気として貯めるのではなく、水素やメタンといった別のエネルギーに変換することで、より柔軟なエネルギーの使い方が可能となる。水素の場合であれば、燃料電池で利用することで熱も取り出せるほか、燃料電池自動車への利用も効果的である。海外ではメタンや液体燃料に変換する技術開発が進められているが、これは都市ガスインフラなど、既存のエネルギーインフラを活用できる点でメリットがある。

また、余剰電力の活用以外に電力の安定供給を図る方策として、地域間連系線の容量拡大や、地域間連系線の利用ルールの見直し、コジェネレーションなどの他の分散型電源との協調も効果的と考えられる。ただし、連系線容量の拡大のためには長期のリードタイムや費用負担といった課題がある。別の発想として、太陽光や風力の導入ポテンシャルの大きいエリアに電力需要を物理的にシフトさせることや、電力需要の大きいエリアに太陽光や風力を積極的に導入することも考えられる。


中長期的に再生可能エネルギーを拡大することは、80%削減を達成するためだけでなく、わが国のエネルギーの輸入依存度を下げる観点からも望ましい。しかし、既存の電力システム前提で大量導入を進めてはエネルギーの安定供給の実現が難しく、新たな発想が必要となる。

具体的には、需要に合わせて発電する従来の考え方から脱却し、需要側の資源や電気以外のエネルギーへの転換技術などを最大限活用する新たな電力システムの構築と運用が必要である。

再生可能エネルギーは物理的に需要家に近接した分散型電源であり、その特性を最大限に活かしていくためには需要のシフトや蓄電池活用などの取り組みが有効になる。「足りない」時、「余る」時の双方を的確に捉え、それぞれを補完する上では需要家の積極的な関与が必要である。将来の再生可能エネルギーの基幹電源化を見据えて、需要家が容易に参加できる電力市場を形成するなど、市場メカニズムを活かした制度設計が鍵となる。

※1:電力需要は2014年度に同じとし、太陽光発電は国の2030年目標の4倍程度と仮定したときの当社試算。発電した電気がすべて使えた場合、現在の需要に対して3割程度のシェアとなる。

[図2]太陽光発電大量導入時の発電量と電力需要のイメージ
[図3]余剰電力有効活用方策のイメージ