マンスリーレビュー

2020年9月号トピックス1エネルギー・サステナビリティ・食農

コロナ禍の経験を電力業界の未来に活かす

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2020.9.1

環境・エネルギー事業本部齋藤 憲作

エネルギー・サステナビリティ・食農

POINT

  • 新型コロナによる電力需要減には再エネ浸透を先取りする側面もある。
  • 再エネが主力電源化する未来に起こりうる課題が浮き彫りになった。
  • 電力業界や行政は貴重な経験や情報を活かし逆風を追い風に変えるべき。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会経済活動の縮小により、電力業界は需要の減少※1に見舞われている。

ベースロード電源※2である一部の火力発電所は、一定の出力で発電してきたこれまでの状況とは全く違う運用を強いられている。需要と供給のバランスに応じて出力を変化させたり、平日に稼働させ、休日に停止させるなどの調節に踏み切っているのだ。卸電力市場では、太陽光発電量が増える昼間になると供給過多となって値崩れが起き、ほぼ0円で取引が成立するケースも相次いでいる。

政府の「エネルギー基本計画」では、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを将来的に主力電源としていく方針だが、今回の需要減の状況は、再エネ普及が一定程度進んだ未来の姿を先取りしたとも考えられる(図)。つまり、再エネ発電比率の増加に応じた柔軟な電源運用の実現、卸電力市場における電力価格低下といった変化に対峙(たいじ)しなければならないのである。くしくもコロナ禍によって、再エネの主力電源化に向けて解決しなければならない課題の一部が、現実問題として浮かび上がってきたともいえるだろう。

こうした課題に取り組むことで得られた貴重な経験や情報を、電力業界や行政は有効活用することが必要だ。例えば、発電事業者や発電機器メーカーは再エネの出力変動に柔軟に対応するために、プラントの稼働データをもとに運用改善や技術開発を進めて低出力時の発電効率向上や起動時間の短縮などにつなげる。小売電気事業者は市場価格低下を見据えて、中長期的な電力調達ポートフォリオを見直すとともに、消費者向けの新サービス開発を進める。そして行政は、早ければ2021年4月にもスタートする、再エネの市場統合を意識した「FIP制度」※3の詳細設計で、プレミアムの算定方法などに今回のような構造的な市場変化への対処を考慮すべきであろう。

そのようにすることで、コロナ禍によって生じたさまざまな逆風も、未来に向けた追い風へと変えることができるはずだ。

※1:MRIマンスリーレビュー2020年6月号「新型コロナによる電力需要への影響」。

※2:季節や天候などを問わず、一定量の電力を低コストで安定供給できる電源。

※3:Feed-in Premium制度。再エネ売電において、市場価格に一定のプレミアムを上乗せ交付する。電力会社が再エネ事業者の電力を固定価格で買い取るよう約束する「FIT(Feed-in Tariff)制度」の後継。

[図] コロナ禍を電力業界が未来に活かす図式