マンスリーレビュー

2020年9月号特集経済・社会・研究開発

レジリエントで持続可能な社会に向けて

ポストコロナの世界と日本

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2020.9.1
経済・社会・研究開発

POINT

  • 持続可能性の優先、分散・多極化、デジタルとリアルの融合が三大潮流。
  • 政府・地域・企業は、潮流にマッチする取り組みに着手して未来創造を。
  • レジリエントで持続可能な社会の実現には自律分散と協調がキーとなる。

1.世界の三つの潮流

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの経験は世界に大きな影響を与え、ポストコロナ※1の社会を形づくる三つの潮流が明らかになってきた。

第一に、持続可能性の優先順位の上昇である。SDGs(持続可能な開発目標)をはじめすでに表れていた潮流が加速したともいえる。医療や物流など社会機能維持の課題が顕在化する中で、企業は事業継続の危機に直面し、市民は健康維持に強い不安をもつなど、長期的な持続可能性を重んじる価値観が高まった。

第二に、集中から分散・多極に向かう潮流である。これまでの経済合理性に基づく一極集中にはリスクを伴うことをさまざまな面で体感し、企業のサプライチェーンから市民の居住地まで、集中から分散に向かう新たな潮流が出現しつつある。

第三は、デジタルの加速とリアルとの融合だ。人々の価値観の変化と技術の社会実装に対する受容性の向上も手伝って、全世界でデジタル化が不可逆的に加速している。同時にリアルの価値も再評価されており、デジタルとリアルとの使い分けや、リアルの魅力を引き出すためにデジタルを活用するなど両者の融合も進むであろう。

2.ポストコロナの社会像

コロナ禍に対する世界共通の課題は、経済社会に及ぶ影響を克服し、より良い未来に向けて社会を再構築することだ。それは、感染症などのショックにも柔軟にもちこたえられるとともに、地球環境の維持、経済の豊かさ、そして個人のウェルビーイング(身体的だけでなく、精神的・社会的にも良好な状態)を持続的に実現できる社会である。こうした、「レジリエントで持続可能な社会」を実現するために今から着手すべき事項を「国際」「社会」「産業」の観点から提案したい。

(1) 国際情勢:持続可能な国際秩序の形成

コロナ危機を経て、国際情勢は一段と不安定化する様相を呈している。米中対立のエスカレートが懸念される一方で、米国は世界の秩序形成に積極的に関与する意思を後退させつつあり、国際機関も機能不全に陥りつつある。コロナ危機という人類への挑戦に直面し、今後も温暖化など地球レベルの危機や課題が迫る中、国際社会は協調してこれらを乗り越える途(みち)を模索しなければならない。今こそ、レジリエントで持続可能な国際秩序の形成が求められる。

このためには、世界各国の合意をベースとした国際秩序の再構築・維持はもとより、二国間や複数国間での合意、民間企業や大学、NGOなど政府以外の主体による連携活動なども含めた、重層的な国際協調の枠組みを総動員することが必要である。世界全体の「共通利益」を示し、各国の自発的な支持と支援を集める多国間の枠組みを構築することが喫緊の課題といえよう。戦後の国際社会への貢献を通じてソフトパワー※2を培ってきた日本は、そうした枠組みづくりに向けて重要な役割を果たしうる存在だ。

その一つは、米中二大パワーに対して、第三極を構成するミドルパワーとの連帯である。価値観を共有するEUや経済連携の進むASEAN諸国などとの連帯を図り、日本が第三極の構成を主体的に進める。日EU経済連携協定や環太平洋パートナーシップ協定、デジタル経済の国際ルールを議論する「大阪トラック」創設などの実績があり、こうした取り組みを拡充していくことが重要だ。

もう一つの大切な役割は、グローバルに共感を得られる社会モデルの提示・実現だ。日本が培ってきた成長と安定を両立する社会モデルや、社会課題を解決する技術などである。コロナ禍で注目された国民皆保険制度や、防災分野の国際的な取り組み(兵庫行動枠組、仙台防災枠組)など、日本発の社会モデルを国際社会に提示し、他国の共感を広げることだ。それが、日本の経済社会の持続可能性も高めていく。

(2) 社会:圏域マネジメントによる自律分散協調

限られた地域資源を有効活用しつつ、不足するリソースを広域連携で賄う自律分散協調型の地域社会像はこれまでも提言されてきたが、実現には至ってこなかった。コロナ禍の体験に基づく人々の意識の変化は、加速するデジタル化の流れと組み合わせることで、自律分散協調の実現・実装を促す起動力となる可能性がある。

リモートワークの普及により、居住地の選択では、職場への近さを重視する人が減り、生活の質(買い物、治安防災、生活コスト、医療介護)を重視する人が増えた。こうした意識変化を踏まえ、2050年の日本全国の人口分布を試算したところ、首都圏への一極集中が弱まり(流入人口が約200万人減少)、県庁所在市や中核市への集中が拡大(流入人口が約60万人増加)する傾向が見られた。コロナ後の日本の人口は一極集中から相対的に多極に移行する可能性がある。

自律分散型社会を持続可能なかたちで運営するには、一定の集積が必要だ。国全体の人口が減少していく中、限られた資源を活用して効率よく経済活動を促進する一方で、公共サービスの提供水準を維持するためには、都市機能の充実が欠かせない。密集を避けると同時に集積のメリットを享受する工夫が、ポストコロナ期における自律分散型社会の重要なポイントとなる。

多極化した地域社会が機能するには、その受け皿の整備が重要となる。解決策の一つが、県庁所在市や中核市を中心に複数市町村が協調する「圏域マネジメント」である(図1)。行政業務や医療介護、教育などの市民サービスのほか、新しい働き方への支援を広域連携で賄うものであり、徹底したデジタル化が鍵となる。行政手続きや診療をオンライン化することで、提供側の負担が減り、市民の満足度も高まる。人材や施設など数量に限りのあるリアルな資源は、住民と接する現場サービスや圏域の産業戦略づくり、圏域を担う人材育成、関係人口を含むコミュニティー形成などに集中させる。デジタルとリアルを組み合わせる圏域マネジメントが、行政の効率化、生活の質向上、圏域の魅力創造を同時にもたらし、市民に選ばれる圏域の実現を可能にする。
[図1] 圏域マネジメントのイメージ

(3) 産業:デジタル×リアルによる付加価値創出

多くの企業はコロナ禍によって深刻な需要減に見舞われた。ポストコロナにおいても企業活動や消費行動の質的な変容は継続すると考えられ、従来と同じサービスを提供するだけでは需要量をコロナ以前の水準に戻すことは困難である。「戻らない需要」に代わる新たな需要を創造できるかが企業の将来を左右する。

新たな需要創造には、顧客ニーズを起点としたリアルとデジタルの融合が有効な手段であり、四つのフェーズに整理できる(図2)。

一つ目は従来の商品・サービスの課題やニーズをデジタルで解決する「デジタル代替」である。例えばコロナを契機に導入が進んだオンラインでの教育や診療・投薬など、サービスの一部をデジタルで代替することのメリットは大きい。

二つ目は「デジタル完結」である。米国での自動車の完全オンライン販売では、顧客が店舗に足を運ぶ手間を省くことができ、ローンなどの手続きもスムーズである。先進技術を活用すれば、運転を疑似体験するなど顧客満足をさらに高めることができる。

デジタル完結の先は、デジタルでは体験できない重要なリアル要素を顕在化させる「リアル代替」を経て、リアルに特別な価値を見いだす洗練された「リアル完結」のフェーズに向かう。これらのリアルとデジタルの価値創出サイクルを回すことで、顧客に対して新鮮かつ満足度の高い体験の提供が可能となり、企業の持続的成長につながる。

リアル×デジタルの価値創出では、多様な産業との連携も重要な視点となる。モビリティ分野で考えると、通勤や外出での移動機会の減少が想定される中、旅行や行楽といった選択的な需要の喚起が重要となる。北海道や九州で観光施設・アクティビティ・ホテル・交通を一体的に組み合わせて提供するプラットフォームが運用されている。加えて、旅行・行楽の疑似体験サービスを提供することにより、リアルな旅行に出かけたくなる需要を喚起できる。デジタル×リアルによってさまざまな顧客体験を提案し、新たな需要を掘り当てることは十分に可能だ。

顧客戦略CEM※3にも、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、アバター(オンライン上の分身)、テレイグジスタンス(実在の場所とは異なる場所で行動)など先進技術の活用が欠かせない。リアルでないと体験できないと思っていた常識を覆し、先進技術を活用し顧客に高度な体験を提供することが可能となる。
[図2] リアル×デジタルの価値創出サイクル

3.レジリエントで持続可能な社会に向けて

コロナ禍の経験から、平常時の経済合理性のみを追求した社会は脆弱(ぜいじゃく)であり、ショックの発生も計算に入れた合理的で持続可能な社会の構築が求められることを学んだ。ポストコロナの時代には、長期的かつ質的な成長と持続可能性の重視、行き過ぎた集中を見直した「自律分散」型への経済社会のリバランスが進む。さらに、経済社会を持続するには、主体者間の信頼に基づく関係性が不可欠であることから、政府・企業・市民が「協調」的な動きを行うべきである。

日本がコロナを含む多くの試練を乗り越え、明るい未来を切り開くためには、見えてきた潮流の変化をチャンスと捉え、官民が積極的に行動を起こすことが大切だ。「自律分散」と「協調」の二つの軸により、積年の多様な社会課題の解決を図る。その過程で、デジタル技術を活用しつつ、複合的でイノベーティブな新しいモデルの創造を目指すことが、持続的な経済成長と豊かさ向上の原動力となる。

※1:ここでは、ワクチンなどの治療方法が確立し、感染症が終息した後の時期を想定。

※2:軍事など強制的なパワーではなく、文化的な存在感や政治的な価値観などを発揮して国際的な発言力を向上させること。

※3:カスタマー・エクスペリエンス・マーケティング。CEMは、商品やサービスを通じた体験が顧客の価値となる考え方であり、例えばコーヒーチェーンでは、接客・香り・BGMを含めた店舗での体験を価値と捉えることで顧客から支持を得ている。

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