マンスリーレビュー

2020年9月号トピックス6ヘルスケア経済・社会・技術

50周年記念研究 第8回:考えていくべき日本独自のウェルビーイング

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2020.9.1

未来構想センター武田 康宏

POINT

  • ウェルビーイングの研究や指標化は、新しい社会を目指す機運の象徴。
  • 日本ならではの指標は、国内の姿を新しい切り口で示せる可能性。
  • 新たに目指す社会は、厳しくも豊かな共生社会につながる。
ウェルビーイング(WB)は多様な解釈が可能な概念である。各個人の「幸福感」「QOL」などに影響する一方で、社会全体の持続性を担保するとの考えもある※1。GDPを重視した経済至上主義からの脱却を目指し、現在、世界各所でWBの指標化が行われている。国連やOECD、企業・自治体、学術領域に至るまで、さまざまなWBへのアプローチを通じた、新たな社会の方向性の模索とも受け取れよう。

WBは各国共通の基準で決まるものではないため、日本ならではの様態に着目する必要がある。そこで当社では、日本の文化性を考慮したWB体系を作成するため※2、主観的データを取得する調査※3を実施した。日本社会のWBの構成要素を、「ストック(=資本)」の面から「文化資本※4」「経済資本」「社会関係資本」などの六つに分類し、それぞれについて「形成進度(10年前と比べた傾向の強弱)」「日本の特徴(他国と比べた傾向の有無)」「幸福感への寄与度」を調べた(図)。

その結果、「文化資本」は日本の固有性が際立つ構成要素で、幸福への寄与度も高いことが明らかになった。調査では、文化資本を「文化的コンテンツの発信力」「文化的価値の高い施設や観光資源の存在」「文化の担い手の存在」の三点をもとに評価している。地域の祭りや慣習なども含め、伝統や文化を継承していくような活動を通じて社会生活に文化資本を取り入れることで、幸福感を高めることができるだろう。

一方で「社会関係資本」の形成進度は低い水準にとどまる。社会関係資本は「性善説に立った経済活動や社会活動」「善行は自分に還元される」「誰か一人でも頼れる人がいる」といった項目で構成されている。日本社会のWB向上を促す意味において社会関係資本の形成進度を高める意義は大きい。この論拠は「協調的幸福感」※5に求められ、日本人の幸福感形成にとっては、個人と他者・社会の相互協調が重要である。しかし、社会やコミュニティーの変化とともに、座して待つだけでは協調を得ることができなくなった。各個人が自発的・自律的に、自ら他者や社会との関係性を築いていくことで初めて、自分・社会にとっての真のWBをゴールに据えることができるだろう。

※1:MRIマンスリーレビュー2020年2月号「50周年記念研究 第2回:ウェルビーイング志向の革新技術活用が新たな価値創造を生む」。

※2:アンケートによるミクロな主観的データと、統計的に得られるマクロな客観的データを組み合わせることで、日本でのWB向上を目指す社会の姿を「見える化」することに挑戦している。

※3:三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif)」アンケート調査(回答者5,000人、2020年7月実施)。回答年齢は15歳以上70歳未満。

※4:文化的素養などの個人的、社会的な資産。

※5:周囲を幸福にすることによって自己の心が満たされるとする考え方。       
内田由紀子「これからの幸福についてー文化的幸福観のすすめー」(2020年 新曜社)。

[図]ウェルビーイングを構成する資本形成

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