マンスリーレビュー

2020年9月号トピックス4ヘルスケア

マイナポータルが医療の「質」を変える

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2020.9.1

イノベーション・サービス開発本部前田 由美

ヘルスケア

POINT

  • 生活習慣病の患者増加により、食事や運動履歴の蓄積管理が不可欠。
  • 「マイナポータル」における健診結果の集約で、一元的・経年利用が可能に。
  • 対面・オンライン診療の双方で、患者と医師の情報共有が進む。
複数の病院やクリニックで、同じ検査を受けたり、過去の健診結果の紙を紛失して、医師への説明に困ったりした経験がある人は少なくないだろう。医療データの一元管理の重要性は指摘されてきたものの、この十数年なかなか進まなかったのが現状だ。

一方で、「生活習慣病」の患者は増加し、日々の食事や運動習慣の改善が不可欠との認識が医療業界で定着しつつある。食事・運動の記録を「見える化」したり、ゲーム要素を取り入れたりして、生活改善を促すスマートフォン向けのアプリも多数出てきた。こうしたアプリの効果を医学的に検証し、糖尿病の標準治療に取り入れようとする動き※1も始まっている。

また、生活習慣病の治療においては、日々の健康データに加えて、過去からの状態変化も重要な情報だ。例えば同程度の血圧、血糖値(HbA1c)のケースでも、長期間かけて徐々に悪化した人と、急に悪化した人とでは治療法が異なる。そこで重要になるのが過去の健診結果の履歴である。

2021年3月から、政府が運営する行政手続きのオンラインサービス「マイナポータル」で特定健診※2等の結果が閲覧・活用できるようになる(図)。今後は、母子健診、学校健診、事業主が実施する定期健診、市町村が実施するがん検診など、各種健診・検診結果が順次提供される予定だ。これによって、生涯にわたる健診・検診結果を個人が電子的に保有・活用することが可能になり、これまで分散管理されてきた検査履歴の一元的かつ経年利用が可能になる。

健診結果や日々の健康データを患者自身から医師へ提供すれば、診療の質が向上し、医師からのよりよい治療方針の提案も期待できる。当社が実施したアンケートによると、コロナ禍を受けてオンライン診療を希望する人は6割を超えた※3。対面に比べて、患者から医師へ提供できる情報が少なくなりがちなオンライン診療の課題克服に向けても、マイナポータルが貢献できる余地は大きい。

※1:国立国際医療研究センター「IoT活用による糖尿病重症化予防法の開発を目指した研究(PRISM-J)における臨床研究開始について−2型糖尿病患者におけるIoT活用の行動変容と血糖改善効果の検証−」(2017年12月)。

※2:40〜74歳を対象とする、生活習慣病に着目した健診。

※3:当社ニュースリリース「コロナ収束後も6割超がオンライン診療に前向き」(2020年6月12日)。

[図]マイナポータルを活用した診療イメージ