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2020年6月号トピックス1エネルギー・サステナビリティ・食農

新型コロナによる電力需要への影響

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2020.6.1

環境・エネルギー事業本部我孫子 尚斗

エネルギー・サステナビリティ・食農

POINT

  • 新型コロナウイルスの感染拡大により平日の電力需要が減少。
  • 日本では例年比10%弱減少。北イタリアなどと比較すると軽微。
  • 中長期的な影響分析には詳細な電力需要データ活用の仕組みが必要。
新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大は、私たちの経済活動にさまざまなかたちで影響を及ぼしている。今回は、速報性に優れる電力需要に着目し、休業や外出自粛などの対策が電力需要にどの程度影響を与えているか、地域別の比較分析を行った。

図は、日本(東京電力パワーグリッド管内※1)、イタリア(北部)および米国(ニューヨーク州)の3地域での、新型コロナウイルスの影響を受けた期間における平日の電力総需要の増減率を示している。横軸は日付※2で、縦軸は電力総需要の例年同時期比(気温の違いを考慮)の増減率である※3。深刻な流行が生じたイタリアでは、3月9日のロックダウン開始以降に急激な電力需要の減少が生じ、一時は約40%減近くまで落ち込んでいる※4。ニューヨーク州でもロックダウン開始以降に減少が生じ、10%前後の電力需要の低下が確認できる。一方、日本の減少は他国と比較して緩やかであり、緊急事態宣言以降でも10%弱の低下にとどまっている。

電力需要の減少は、外出自粛などによる家庭部門の電力需要の増加よりも、店舗や工場の閉鎖などによる産業部門や業務部門の電力需要の減少が大きいために生じていると考えられる。また、地域ごとに影響度合いが異なる理由として、新型コロナウイルス対策の対象範囲や強制力の有無が挙げられる。影響の小さい日本では休業要請の対象が限定されており、違反者への罰則もないのに対して、イタリアでは必要不可欠な業種を除いた全ての企業活動へ強制力の伴う対策が実施されている。このような違いが電力需要の減少率の大小に関係していると考えられる。

コロナ禍は、上記の分析に見られるような直接的な電力需要の減少に加え、テレワークの活用やオンライン教育の充実化など、今後のわれわれの生活にさまざまな変化を生じさせると考えられる。こうした生活の変化による中長期的な電力需要への影響についても分析を進める必要があるだろう。そのためには、直近の電力需要の変化を業種別や用途別に把握し、詳細な分析を行うことが不可欠であり、そのような分析に必要なデータを大学や研究機関などが利用できる仕組みが求められる。

※1:関東地方の1都6県(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、静岡県、山梨県。

※2:新型コロナウイルス感染症による影響が比較的小さかった2月15日から4月22日までを示している。

※3:3地域ともこの時期は気温によって暖房の使用が左右され、1日の電力総需要は変化する。そのため、単純に比較すると新型コロナウイルス感染症流行の影響で減少したのか、例年に比べて気温が高いために減少したのか判断できない。そこで、過去3年分の同時期の日平均気温と1日の電力総需要のデータから、2020年の各日の日平均気温に応じた1日の電力総需要の予測値を計算し、予測値と実測値の比を用いることで増減率を求めた。

※4:4月14日以降は一部の業種に対して緩和措置が取られたため、若干の回復傾向にあるが依然として他2地域と比べて減少率が大きい状態にある。

[図]新型コロナウイルス感染症による平日の電力需要への影響