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2020年6月号トピックス6経済・社会・研究開発デジタル・イノベーション

50周年記念研究 第5回:新型コロナ対応が示唆する監視社会の行方

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2020.6.1

未来構想センター吉永 京子

POINT

  • 監視・追跡技術では、実効性と個人情報保護のバランスが重要。
  • 緊急時の監視方法とこれに対するチェック方法の組み合わせを整理すべき。
  • 新型コロナ対応は情報社会の未来の分岐点であり国民的議論が望まれる。
新型コロナウイルス感染症による未曾有(みぞう)の危機で、働き方やライフスタイルのデジタル化が加速している。テロ・犯罪対策の監視・追跡技術を、感染拡大防止のために国家が利用する動きも広がっている。例えば、中国、韓国のほか、個人情報保護に意識の高い欧州諸国でも監視・追跡技術の開発・導入が進んでいる※1。その精度や有効性が確認された今、未来の情報社会において、国による「監視社会」が現実の脅威となりつつある。

この脅威に対して、あらかじめ緊急時における個人情報利用の判断基準を明確化することが重要である。ひとたび危機が起きると、政治判断の下、なし崩し的に個人情報が侵害されるリスクが生じる。緊急事態を機に国による監視が続くことへの歯止めも必要となる※2。「緊急時」に国の監視強化を正当化する「監視方法」とこれに対する「チェック方法」をどのように組み合わせるかを整理しなければならない(図)。具体的には、監視を行う利用目的を明確にし、これに応じた適切な利用技術を選択して、利用期限、データの加工度、利用主体などの監視方法の枠組みを設計する。加えて、監視技術のプライバシー侵害の程度に応じた適切な審査方法を確立する必要がある。

なお、危機対応の迅速性・実効性を確保する際も、個人の同意が必要とは一概には言えない。個人情報保護法上でも法令に基づく場合や、生命・身体・財産の保護や公衆衛生の向上のために必要がある場合には、本人の同意は必要ではないとしている※3。政府はそのことをあらかじめ国民に十分に周知しておくことが求められる。

AIを利用した監視技術の導入に伴い、個人情報に関わる脅威はますます増大する。安心できる未来の情報社会の実現に向け、情報技術に応じた制度設計を行い、プロセスの透明性(デュープロセス)を高め、国民が主体的にチェックを続けることが望まれる。新型コロナウイルスによる大きな変化を機に、情報技術と個人情報保護の専門家からなる独立した諮問機関が意思決定プロセスに関与しつつ、国、企業、個人がそれぞれの立場から建設的な意見交換を行うことが必要である。

※1:例えば、中国、韓国ではGPS位置情報、イスラエルでは治安当局がテロ対策に利用する携帯電話の位置情報を用いている。香港と 台湾が監視に利用しているのは、隔離区域の周囲にめぐらせた仮想フェンスの仕組みを活用した、携帯電話からのデジタル信号 による位置情報。なお、韓国と香港は、各々前述技術に紐づいた電子リストバンドも活用。シンガポールではBluetoothを利用し た政府アプリを活用。欧州各国もBluetoothを活用した独自のアプリ開発に乗り出している。GoogleとAppleが共同 開発を進めているアプリは、英国、ドイツなどの複数の国が導入に関心を示している。

※2:EU委員会はEU加盟国に対して、アプリの使用を強制とすべきではないこと、期限を定めることなどの勧告を出している。欧州議会では匿名データの限定的利用と集中型データベースに格納しないことなども議論されている。

※3:個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)第16条第3項第1号から4号、第23条第1項1号から4号。

[図] 個人情報の監視・チェック方法の例

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