マンスリーレビュー

2020年6月号特集ヘルスケア・ウェルネス経済・社会・研究開発

新型コロナの感染被害を抑えつつ社会経済を正常軌道に戻す

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2020.6.1
ヘルスケア・ウェルネス

POINT

  • ICTを活用した個別具体的な接触制限により納得感を得つつ効果を最大化。
  • 感染者数がコントロールできている間に感染者急増に備えた万全な事前準備を。
  • 知恵を結集して長期戦を乗り切りポストコロナ社会を拓く。

1.無症状の感染者の把握

首都圏などでも緊急事態宣言が解除され、日常生活への制約は緩和される方向に向かい始めた。が、海外の例からも明らかなように、警戒を緩めることが第二波、第三波のリスクに結びつく。現時点の諸外国との対比で見ると、死亡者数が少ないのが日本の特徴で、人口100万人あたりの累積死亡者数は5.9人と欧米諸国よりも2ケタ少ない(表)。その理由には諸説あるがまだ解明されず、有効なワクチン開発のめどが立っていない現状では、効果的で負担が少ない感染抑制方法の開発を含め、警戒を緩めずに試行錯誤を続けることが求められる。

今後の対策で考慮すべきは、新型コロナウイルス感染症では感染者の数と実際に重い症状が発生する人の数が大きく異なること(そこが2003年に流行したSARSとの大きな違い)、それでいて症状が悪化に転じてから重篤化するまでの時間が短いこと、さらに最もやっかいなのは、感染したが症状の発生していない人(無症状の感染者)も、周囲の人に対しては感染源となりうることである。つまり、無症状の感染者を把握し、一定期間の隔離など必要な措置を講じることが、感染拡大と重篤者・死者の発生を防ぐ喫緊のテーマとなる。

そのため、すでに開始されているPCR検査数の増加、検査方法や確認に要する期間の短縮に加えて、抗原検査、抗体検査なども議論されてはいるが、いずれも決定打とまでは言えないようだ。結局、ワクチンや特効薬が開発されるまで、無症状の感染者が相当数存在することを前提に、重症化する感染者が急増しないようコントロールしていくという守りの対応を続けるほかないであろう。
[表] 各国の感染者数・死亡者数などの状況(2020年5月17日時点)

2.一律の接触制限から焦点を絞った接触制限へ

緊急事態宣言の解除後も、感染拡大防止への警戒を保ちつつ、社会・経済活動への影響を最小化するためには、広域一律の移動・接触制限ではなく、人や場所、さらには接触の態様に着目した個別具体的な制限に移行することが有効だ。ICT・ビッグデータを活用して、データに基づく客観的な理由を明確に示すことで、制限措置に対する公平感や納得感が得られやすくなり、効果の最大化が期待できる。

例えば、シンガポールや韓国では感染者と接近・接触した可能性のある人をスマホなどで把握する接触確認アプリが導入されている。日本では接触者情報の利用が検討されている。感染者との接触履歴が利用者に通知されれば、保健所への相談など早期に手を打つこともしやすくなるだろう。散発的に発生する感染者も追えることから、有効な手段と言えそうだ。

アプリの導入と並行して、地域間の移動を分析できる「人流データ」を活用すれば、感染リスクの高い地域や建物を特定して接触制限することも可能になる。感染者の行動履歴、人流データと建物の用途データなどを組み合わせ、滞留時間の長さや場所の性質を考慮した分析を加えれば、感染リスクの高い場所を絞り込むことができる。感染が拡大した際には、感染者が増加している地域との人流に着目して、地域内外の感染状況に応じた限定的な移動制限の検討にも活用できる。

3.感染者の急増に備えた十分な準備を

守りの対応でもう一点重要なのが、重症化した感染者への適切な処置、その急増にも対応できる事前準備である。欧米でも、多くの死者が発生した国では、急増した重症者に対応できず医療崩壊を起こし、十分な医療が提供されぬまま短期間で死に至った例が多かった。一方、人口あたりの死亡者数を一定水準以内に抑えられた国では、重症患者の急増を想定して周到に事前準備がされていた。例えば、ドイツではもともとICU病床数など医療提供体制が十分に整備されていたのに加え、緊急対応として、連邦政府がICUを一元管理し、感染者の発生状況に応じて医療資源を振り分ける仕組みを導入した。さらに、緊急性の低い手術を抑制するなど、重症患者の受け入れ余力を確保する施策をとっている。

日本では、人口あたりのICU病床数が少なく、その増床や人工呼吸器の増産などが急がれている。しかも、そうした設備や機器は、これを活用できる医療従事者とセットになってはじめて機能する。医療従事者のトレーニングや、重症化した感染者の発生状況に応じた人財の再配置なども準備しておくことが必要である。さらには、ドイツのように国を挙げた緊急対応体制に向けても、改善の余地は大きい。例えば、重症患者が急増した自治体と病床余力のある自治体との間での病床の融通などは、第一波では十分機能していない。現在、国が主導して病床数モニタリングシステムを開発しているが、関係主体間の調整機能についても検討が必要である。

感染者急増による医療体制の逼迫(ひっぱく)状況をレベル分けし、各段階に応じた患者の医療機関(ホテルなどの隔離施設を含む)への振り分け基準と治療方針の明確化も、今回の大きな教訓であった。感染者・重症者急増への対応手順と役割分担を明らかにし、事前に医療機関や国民の周知・理解を得ておかなければ、患者急増時に医療現場が判断に迷い、助かる人が助からないという状況になる。混乱した現場で、「想定外」の事態に陥り、医療崩壊のリスクを招くことは避けなければならない。

4.知恵を結集して長期戦を乗り切りポストコロナ社会を拓く

感染拡大の抑制に一時成功したと思われていたドイツやシンガポールで、ロックダウン解除により感染者数が再度増加した例がみられる(図)。欧州の数カ国において、収束(感染者数が10分の1に減少する状況を想定)までに要する期間をシミュレーションしたところ、ロックダウンなどの厳しい接触制限を継続した場合でも、収束までには3~4カ月を要するとの結果となった。制限緩和をすれば、より長い期間を要する、つまり年単位の長期戦を覚悟して乗り切る必要がある。

新型コロナウイルス克服への切り札がワクチンや特効薬であることは疑いない。一刻も早く実現するために国際的に協調して取り組むべきである。並行して、新型コロナウイルスの特徴に着目した攻めの取り組みも重要だ。例えば、感染者が重症に至る原因やメカニズムの解明。重症化予備群を早期に特定できれば、適切な対処で死亡を避けることができる。これらの人にフォーカスすることで、社会・経済にダメージの大きい移動・行動制限から脱却できる可能性もある。これまでの重症化事例を徹底的に分析し原因究明する調査・研究にリソースを重点的に投入するべきではないか。

日本の死亡者数は欧米各国と比較して極めて少ない上、強制的なロックダウンをせずに感染拡大を抑制できている。その原因を特定できれば、感染抑制の新たな方法が確立できる可能性もある。医学的な見地に加え、社会学、経済学、ビッグデータ分析など、多方面からの知見を加え、学際的に取り組むべきテーマとしてふさわしい。

新型コロナウイルスは100年に一度のレアケースであり、収束後も流行前と同じ社会・経済状況に戻ることはないと言われる。が、ポストコロナの新たな生活・経済様式は、積年の課題を一挙にブレークスルーする可能性も秘める。緊急事態下の長期在宅勤務などを契機に、規制改革やDX化が予想を上回る範囲と速さで一挙に進む可能性もでてきた。「転禍為福」、社会・経済の変革を加速させる機会と捉えたい。

SEIRモデルによる各国施策の分析

代表的な感染症数理モデルであるSEIRモデル(Susceptible-Exposed-Infectious-Recovered)を用いて、各国の感染者数および各種対策の効果分析を行ったところ、ロックダウンなどの制限措置が感染者数の減少に影響を与えるまで10日程度を要していることが分かった。さらに、ロックダウンなどによりいったん感染者数が減少に転じた国(封じ込めに成功したと言われているドイツやシンガポールなど)においても段階的な制限緩和をすることにより、感染者数が増加に転じた状況がうかがえる。ロックダウン解除後の影響については、今後継続的な分析が必要であるが、これらの推移を見ながら、制限の強化・緩和を繰り返す必要がある。
図 ドイツにおける感染者数増減と規制措置(~5/10)
図 シンガポールにおける感染者数増減と規制措置(~5/10)
詳細は下記コラムをご覧ください。
新型コロナウィルス(COVID-19)危機対策:分析と提言
新型コロナウイルス各国施策分析レポート4:SEIRモデルによる各国施策の分析」(2020年4月24日)

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