マンスリーレビュー

2020年6月号

MRIマンスリーレビュー2020年6月号

巻頭言|先人の知恵

研究理事 亀井 信一
新型コロナウイルス感染症防止のため、テレワークの日々が続いている。

わずか4年ほど前、「働きかたの未来」と題する未来読本を上梓した。技術の爆発的進化やマネジメントのイノベーションによって個人の能力が引き出される社会へのシフトを見据え、働き方は、「フリー」「フラット」「プルーラル」で示されるようになると提言した。中でも、フリーとは、場所や時間などに縛られず、自律・主体的に働くことであったが、当時は、「そんな働き方で社会は成り立たない」という批判の声が圧倒的に多かった。

しかしながら、実際にやってみると、思わぬ問題も露見してきた。3カ月近くも自宅での単調な勤務が続くと、しだいに体感として曜日の感覚がまひし、生活のリズムが崩れてくる。いかに律するのかが課題である。

よく知られているように、旧海軍では、長い海洋生活の中で曜日感覚を維持するために、金曜日の昼にカレーを食べるという習慣ができた。現在の自衛隊でも、旧海軍の伝統が色濃く残る海上自衛隊では、その伝統が引き継がれている。今では、横須賀カレーや呉カレーなどが広く知られるようになってきた。

ところで、わが家の食卓の横には、「五省(ごせい)」の色紙が掲げられている。五省とは、旧海軍の兵学校において用いられた五つの訓戒であり、現在の海上自衛隊にも継承されている。

「一、至誠に悖(もと)るなかりしか」「一、言行に恥づるなかりしか」「一、気力に缺(か)くるなかりしか」「一、努力に憾(うら)みなかりしか」「一、不精に亘(わた)るなかりしか」

テレワークの終了時間にこれを見ると、惰性に流されそうな日々の総括が自然に出来上がる。すなわち、非常によくできたチェックリストである。決して洋上にいるわけではないが、テレワークの日々でも十分通用する。伝統のなせる先人の知恵であろう。

今日は金曜日。五省を眺めながらカレーを食す。
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