マンスリーレビュー

2020年6月号トピックス3地域コミュニティ・モビリティ

新型コロナがもたらしたMaaSの新展開

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2020.6.1

政策・経済研究センター木根原 良樹

地域コミュニティ・モビリティ

POINT

  • 新型コロナ感染症の拡大によって大都市圏でのMaaSへのニーズが変化。
  • 事業者はこの変化にデジタル技術を活用して柔軟に対応する必要がある。
  • より安全な交通手段を提供すれば、復興のさまざまな可能性を示せる。
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、大都市圏のMaaS(Mobility as a Service)に求められるものも変わってきている。緊急事態宣言による不要不急の外出自粛要請を受けて「ヒト」の動きが減った半面で、巣ごもり消費の拡大などで「モノ」を運ぶ需要が急増したためだ。

こうした変化を受けて政府は、タクシーが料理や医薬品などの貨物だけを運ぶことを時限的な特例として認めた※1。感染を恐れて、弁当や食料、薬の買い出しに出掛けたくない市民のニーズに配慮した措置だ。ヒトの面でも、社会活動維持に欠かせない医療従事者らを職場に移送することを目的とする配車サービスも登場した※2

これまでのMaaSは既存の交通手段を組み合わせて最適な移動を実現するサービスであった。だが、今回の感染拡大によって、MaaSをめぐる需要と供給は共に既存の枠組みを超えた。事業者側はこうした需給の変容に、デジタル技術を活用して柔軟に対応する必要に迫られたと言えるだろう。

緊急事態宣言が解除され市民活動が再び盛んになっていく中では、電車やバスでの通勤・通学における感染予防が重要になる。それには車内の混雑状況や空気の清浄度、消毒の状況といったデータを交通事業者が市民に開示することが欠かせない。さらに、満員の電車やバスを減らすため、市民や行政、企業が協力してテレワークや時差出勤、イベントの分散開催などを効率的に推し進めていかねばならない。

一方、コロナ危機が終息すれば、家計での交通費の支出は元に戻る見込みである(図)。デジタル技術が浸透しても家族との旅行や友人との会話などについてはバーチャルではなくリアルに行いたいとの志向が根強いからである※3

コロナ禍を教訓に日本社会は、東日本大震災からの復興でも提唱されたBuild Back Better(より良い復興)※4を目指すべきである。大都市圏のMaaSがより安全で快適な交通手段を提供可能になれば、復興に向けてさまざまな可能性を示すことができる。

※1:赤羽一嘉国土交通大臣が2020年4月21日の定例会見で表明。

※2:米配車サービスのUberやLyftなどが無料での移送を強化している。

※3:三菱総合研究所「新型コロナウイルス感染症の世界・日本経済への影響と経済対策提言」(2020年4月6日)

※4:「仙台防災枠組2015-2030」(2015年)で行動目標の一つに採択された考え方。

[図]新型コロナをめぐる交通費(電車、バス、飛行機など)意識の変化