1.1. VUCAワールドでの経営計画とは
本コラムでは、第1回に続き、環境変化を前提とした計画策定および運用のポイントを解説する。
まず、非連続的変化に対応するための経営計画策定の在り方について整理したい。当社が2020年6月に実施した企業経営者アンケートでは、約半数の経営者が中期経営計画の重要性が高まると回答している(図1)。
大きく変化する事業環境への適応にむけ、経営計画が果たすべき役割はより一層重要になると考えていることが伺える。
まず、非連続的変化に対応するための経営計画策定の在り方について整理したい。当社が2020年6月に実施した企業経営者アンケートでは、約半数の経営者が中期経営計画の重要性が高まると回答している(図1)。
大きく変化する事業環境への適応にむけ、経営計画が果たすべき役割はより一層重要になると考えていることが伺える。
図1 今後の中期経営計画に対する重要性
一方で、経営計画の策定について頭を悩ませている経営層や経営企画部門も多いのではないだろうか。悩みの要因は幾つか考えられるが、「将来予測の精度が低下し、計画策定の難易度が高まった」点に強い課題意識を持っていると考えている。
非連続的で不安定な変化が続くであろうポストコロナ下の事業環境において、現在の環境認識(シナリオ)に基づく経営計画は、環境変化に対し、改定・更新のスピードが追いつかず、すぐに実態と乖離するリスクを包含している。
上記課題に対応する計画の在り方として「事業環境に合わせて即座に計画を見直す」アプローチがある。
未来は精緻に予測できないことを前提におき、環境変化に即応し、自社の戦略、組織体制、制度などをその都度環境に適応する形に変化させていく。近年注目が集まる「OODA(ウーダ)※1ループ」を経営レベルで実現していく、とも表現できる。このアプローチは、環境変化の激しい業界においては、コロナ以前より導入・運用がなされており、中には、年次での計画自体をあえて策定せず、激変する環境に即応して事業運営を変遷させていく企業もある。
本アプローチはVUCAワールドにおける有効な生存戦略の一つとして評価できる一方、課題もある。短期的な最適を追い求めるあまり、「いきあたりばったり」に陥ってしまい、長期的な企業価値を毀損(きそん)してしまう懸念がある。また、ともすれば「朝令暮改」ともとれる度重なる計画変更に組織内部が追い付けず、かえって混乱を生むことも考えられる。
本アプローチの実現には、組織に柔軟な変化への耐性があることが求められるため、現時点で採択できる企業はそこまで多くはなかろう。
図2は先に紹介した経営者アンケートにて、経営計画の策定手法に対する方針を確認した調査結果である。
非連続的で不安定な変化が続くであろうポストコロナ下の事業環境において、現在の環境認識(シナリオ)に基づく経営計画は、環境変化に対し、改定・更新のスピードが追いつかず、すぐに実態と乖離するリスクを包含している。
上記課題に対応する計画の在り方として「事業環境に合わせて即座に計画を見直す」アプローチがある。
未来は精緻に予測できないことを前提におき、環境変化に即応し、自社の戦略、組織体制、制度などをその都度環境に適応する形に変化させていく。近年注目が集まる「OODA(ウーダ)※1ループ」を経営レベルで実現していく、とも表現できる。このアプローチは、環境変化の激しい業界においては、コロナ以前より導入・運用がなされており、中には、年次での計画自体をあえて策定せず、激変する環境に即応して事業運営を変遷させていく企業もある。
本アプローチはVUCAワールドにおける有効な生存戦略の一つとして評価できる一方、課題もある。短期的な最適を追い求めるあまり、「いきあたりばったり」に陥ってしまい、長期的な企業価値を毀損(きそん)してしまう懸念がある。また、ともすれば「朝令暮改」ともとれる度重なる計画変更に組織内部が追い付けず、かえって混乱を生むことも考えられる。
本アプローチの実現には、組織に柔軟な変化への耐性があることが求められるため、現時点で採択できる企業はそこまで多くはなかろう。
図2は先に紹介した経営者アンケートにて、経営計画の策定手法に対する方針を確認した調査結果である。
図2 中期経営計画の策定方法
このアンケートは、自社の経営計画が「戦略を柔軟に見直していく」方針(A)と「策定する計画の精度を高める」方針(B)のどちらに近いかを確認したものだが、回答は「どちらともいえない」を含め、三分に拮抗(きっこう)する結果となっている。
回答結果からも伺えるが、現在時点では自社組織が環境即応型アプローチに耐えうるかを思案している段階の経営者も多いのではないだろうか。
また、環境即応型の計画策定を志向したとしても、今後、実行段階において組織がついてこられないという新たな課題に直面する企業が増えるのではないか。
組織を環境即応型に作り替えるためには、多くの労力と時間がかかる。長期的に変化に対応できる組織を目指すことは非常に重要な経営課題であるが、まずは変化に対応しやすい計画を策定することで、現行組織において変化に立ち向かっていく必要がある。
そのためのアプローチとして、次の1.2では「シナリオ複線化に基づく計画策定」について言及する。
回答結果からも伺えるが、現在時点では自社組織が環境即応型アプローチに耐えうるかを思案している段階の経営者も多いのではないだろうか。
また、環境即応型の計画策定を志向したとしても、今後、実行段階において組織がついてこられないという新たな課題に直面する企業が増えるのではないか。
組織を環境即応型に作り替えるためには、多くの労力と時間がかかる。長期的に変化に対応できる組織を目指すことは非常に重要な経営課題であるが、まずは変化に対応しやすい計画を策定することで、現行組織において変化に立ち向かっていく必要がある。
そのためのアプローチとして、次の1.2では「シナリオ複線化に基づく計画策定」について言及する。
1.2. シナリオ複線化に基づく計画策定とは
このアプローチは、これまで単一の環境認識(シナリオ)を前提とした計画策定を改め、「あらかじめ複数の環境認識(シナリオ)に基づく計画を用意しておき、状況に応じ、進行シナリオを切り替える」ことによって、環境変化に対応していく仕組みであり、以下3点の特徴がある(図3)。
①自社事業に重要な影響を与える幾つかの環境変化に着目し、複数の将来予測からなるシナリオを計画に加える(シナリオの複線化)
②用意したシナリオのうち、現在時点で主流となるシナリオ(メインシナリオ)を設定し、メインシナリオを前提に計画を遂行する
③あらかじめシナリオ分岐点を用意しておき、環境変化の状況に応じ、期中であってもメインシナリオを切り替えて変化に順応していく
①自社事業に重要な影響を与える幾つかの環境変化に着目し、複数の将来予測からなるシナリオを計画に加える(シナリオの複線化)
②用意したシナリオのうち、現在時点で主流となるシナリオ(メインシナリオ)を設定し、メインシナリオを前提に計画を遂行する
③あらかじめシナリオ分岐点を用意しておき、環境変化の状況に応じ、期中であってもメインシナリオを切り替えて変化に順応していく
図3 シナリオ複線化による経営計画(イメージ)
本アプローチは、従来手法よりも策定時に工夫と労力がかかることになるが、複数の環境認識を計画内に織り込むことで、予測精度の低下をカバーし、変化に対応しながらも、長期的に企業が目指す姿に歩みを進めることができる。
計画に織り込むシナリオについては、現在想定しうる範囲内で「幅」をもって検討を進めることが望ましい(図4に導出イメージを掲載)。
シナリオについては、「シナリオプランニング」にて整理されている策定手法が参考となるだろう。詳細については、経営戦略とイノベーションに関するコラム「ポストコロナの経営 鉄道 第1回:未来シナリオ活用のポイント」を参照されたい。
計画に織り込むシナリオについては、現在想定しうる範囲内で「幅」をもって検討を進めることが望ましい(図4に導出イメージを掲載)。
シナリオについては、「シナリオプランニング」にて整理されている策定手法が参考となるだろう。詳細については、経営戦略とイノベーションに関するコラム「ポストコロナの経営 鉄道 第1回:未来シナリオ活用のポイント」を参照されたい。
図4 シナリオの導出イメージ