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ポストコロナの経営 経営戦略 第2回:ポストコロナにおける経営計画の策定と運用

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2020.10.15

経営イノベーション本部藤澤広洋

杉下寛樹

宮川貴光

経営戦略とイノベーション

1.環境変化に対応できる計画づくり

1.1. VUCAワールドでの経営計画とは

本コラムでは、第1回に続き、環境変化を前提とした計画策定および運用のポイントを解説する。

まず、非連続的変化に対応するための経営計画策定の在り方について整理したい。当社が2020年6月に実施した企業経営者アンケートでは、約半数の経営者が中期経営計画の重要性が高まると回答している(図1)。

大きく変化する事業環境への適応にむけ、経営計画が果たすべき役割はより一層重要になると考えていることが伺える。
図1 今後の中期経営計画に対する重要性
図1 今後の中期経営計画に対する重要性
出所:三菱総合研究所「企業経営者アンケート」(2020年6月17-19日実施、事業規模100億円以上の経営者、n=192)
一方で、経営計画の策定について頭を悩ませている経営層や経営企画部門も多いのではないだろうか。悩みの要因は幾つか考えられるが、「将来予測の精度が低下し、計画策定の難易度が高まった」点に強い課題意識を持っていると考えている。

非連続的で不安定な変化が続くであろうポストコロナ下の事業環境において、現在の環境認識(シナリオ)に基づく経営計画は、環境変化に対し、改定・更新のスピードが追いつかず、すぐに実態と乖離するリスクを包含している。

上記課題に対応する計画の在り方として「事業環境に合わせて即座に計画を見直す」アプローチがある。

未来は精緻に予測できないことを前提におき、環境変化に即応し、自社の戦略、組織体制、制度などをその都度環境に適応する形に変化させていく。近年注目が集まる「OODA(ウーダ)※1ループ」を経営レベルで実現していく、とも表現できる。このアプローチは、環境変化の激しい業界においては、コロナ以前より導入・運用がなされており、中には、年次での計画自体をあえて策定せず、激変する環境に即応して事業運営を変遷させていく企業もある。

本アプローチはVUCAワールドにおける有効な生存戦略の一つとして評価できる一方、課題もある。短期的な最適を追い求めるあまり、「いきあたりばったり」に陥ってしまい、長期的な企業価値を毀損(きそん)してしまう懸念がある。また、ともすれば「朝令暮改」ともとれる度重なる計画変更に組織内部が追い付けず、かえって混乱を生むことも考えられる。

本アプローチの実現には、組織に柔軟な変化への耐性があることが求められるため、現時点で採択できる企業はそこまで多くはなかろう。

図2は先に紹介した経営者アンケートにて、経営計画の策定手法に対する方針を確認した調査結果である。
図2 中期経営計画の策定方法
図2 中期経営計画の策定方法
出所:三菱総合研究所「企業経営者アンケート」(2020年6月17-19日実施、事業規模100億円以上の経営者、n=192)
このアンケートは、自社の経営計画が「戦略を柔軟に見直していく」方針(A)と「策定する計画の精度を高める」方針(B)のどちらに近いかを確認したものだが、回答は「どちらともいえない」を含め、三分に拮抗(きっこう)する結果となっている。

回答結果からも伺えるが、現在時点では自社組織が環境即応型アプローチに耐えうるかを思案している段階の経営者も多いのではないだろうか。

また、環境即応型の計画策定を志向したとしても、今後、実行段階において組織がついてこられないという新たな課題に直面する企業が増えるのではないか。

組織を環境即応型に作り替えるためには、多くの労力と時間がかかる。長期的に変化に対応できる組織を目指すことは非常に重要な経営課題であるが、まずは変化に対応しやすい計画を策定することで、現行組織において変化に立ち向かっていく必要がある。

そのためのアプローチとして、次の1.2では「シナリオ複線化に基づく計画策定」について言及する。

1.2. シナリオ複線化に基づく計画策定とは

このアプローチは、これまで単一の環境認識(シナリオ)を前提とした計画策定を改め、「あらかじめ複数の環境認識(シナリオ)に基づく計画を用意しておき、状況に応じ、進行シナリオを切り替える」ことによって、環境変化に対応していく仕組みであり、以下3点の特徴がある(図3)。

①自社事業に重要な影響を与える幾つかの環境変化に着目し、複数の将来予測からなるシナリオを計画に加える(シナリオの複線化)

②用意したシナリオのうち、現在時点で主流となるシナリオ(メインシナリオ)を設定し、メインシナリオを前提に計画を遂行する

③あらかじめシナリオ分岐点を用意しておき、環境変化の状況に応じ、期中であってもメインシナリオを切り替えて変化に順応していく
図3 シナリオ複線化による経営計画(イメージ)
図3 シナリオ複線化による経営計画(イメージ)
出所:三菱総合研究所
本アプローチは、従来手法よりも策定時に工夫と労力がかかることになるが、複数の環境認識を計画内に織り込むことで、予測精度の低下をカバーし、変化に対応しながらも、長期的に企業が目指す姿に歩みを進めることができる。

計画に織り込むシナリオについては、現在想定しうる範囲内で「幅」をもって検討を進めることが望ましい(図4に導出イメージを掲載)。

シナリオについては、「シナリオプランニング」にて整理されている策定手法が参考となるだろう。詳細については、経営戦略とイノベーションに関するコラム「ポストコロナの経営 鉄道 第1回:未来シナリオ活用のポイント」を参照されたい。
図4 シナリオの導出イメージ
図4 シナリオの導出イメージ
出所:三菱総合研究所

2. 変化に即応する計画運用

2.1. 仕組み・ルール策定

複線化されたシナリオと、それに基づく計画を運用するためには、従来とは異なる手法が求められる。シナリオと計画の見直しを行う仕組みや意思決定のルールを定め、外部環境と事業の状況をモニタリングし、メインシナリオとの差異を確認することが必要となる。

その際に重要となるのは以下の三つのポイントである。

①環境変化の随時・迅速な察知:外部環境の状況確認を、四半期に一度などの定期的な経営サイクルに合わせるのではなく、随時モニタリングし、大きな変化の予兆を迅速に察知し経営層で共有する

②明確な判断基準:変化に対して迅速にアクションに移れるように、シナリオと計画見直しの実施を判断するための指標(できれば定量指標)と判断基準を明確に定めておくことが望ましい

③躊躇(ちゅうちょ)なき前提・施策の見直し:大きな変化の予兆を捉えた際には、判断基準に従い速やかに経営・事業の前提や施策の見直しを行う

図4の例に即して説明すると、シナリオの主な決定要因は、重点市場国の経済成長率や製品普及率、および異業種企業の参入などとなる。それらの要因に応じたシナリオと施策を検討した上で、分岐点として、例えば当該国のマクロ経済指標や関連製品の販売動向(例:自動車販売台数)の大幅な変化や、異業種企業による業界内企業の買収・提携などを設定する。

シナリオの決定要因に即したモニタリング指標と、その情報源・更新頻度を踏まえたモニタリング体制を決めた後、経営層への報告や意思決定の判断基準を決定する。その後、モニタリングを開始し、基準が満たされた際には、メインシナリオを切り替え、タイムリーに施策の見直し(例えば、生産調整、営業ターゲットの変更、研究開発投資や人員配分の大幅な見直し)を実施することになる。

2.2. 随時のモニタリングと躊躇なき計画の見直し

通常の四半期ごとの経営計画の管理に加え、日々の顧客動向や外部環境動向を随時モニタリングし、必要に応じてシナリオの切り替えを行うことにより、ビジョン・計画・運用の一体性を保ちつつ、変化への対応が可能となる。

これまで、経営層に求められたのは、綿密な計画策定・管理能力であったが、このような変化に即応する経営を実践する上では、幅広い外部環境認識とタイムリーな判断力が必要となる。そして、その能力を組織的に高めるために、社内各部署や社外ステークホルダーとの議論を通じた幅広い視野の獲得と、シナリオに対する共通認識の形成が重要なミッションとなる。

なお、このような複数シナリオに対応した経営を行うためには、各シナリオに対応した施策の組み合わせ(施策ポートフォリオ)という考えが重要となる。すなわち、メインシナリオでの施策に注力しつつも、他シナリオへの移行を想定した手も同時に打つことである。シナリオの見直しに伴い主たる施策を変更した際も、他シナリオを想定した施策を組み合わせておくことが望ましい。

3. 起点とすべきはビジョン

事業環境の変化に直面した際に、シナリオと計画を見直し、全社の方向を調整していくには、ビジョンが社内に浸透していることが前提となる。いくら環境変化に対応する仕組みを確立しても、自社が実現を目指す姿(ビジョン)が定まっていなければ変化への対応に終始する可能性が高い。

新型コロナのように突発的かつ甚大な影響を及ぼす事象が生じると、往々にして自社の先行きに対して不安を抱く従業員が増加する。その際、ビジョンが未来社会における自社の存在意義として浸透していれば、変化の荒波の中でも自社が進むべき方向性を示す北極星となるはずだ。結果として、社内の動揺を早期に鎮め、むしろビジョン実現に向けた社内の結束をさらに高めていく機会とすることができるだろう。

なお、ポストコロナでは、企業が定めるべきビジョンの内容も変化する。各業界によって変化の内容はさまざまであるが、共通するのは、消費者の行動変容によって未来の変化が前倒しで生じている点である。ポストコロナにおけるビジョンは、コロナ以前の想定より未来志向であるべきだ。ポストコロナにおいて求められるビジョン策定のポイントについては、別の機会に紹介したい。

※1:Observe(観察)、Orient(方向づけ)、Decide(決断)、Act(実行)からなる意思決定に際する思考整理の手法。

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