コラム

カーボンニュートラル時代の原子力エネルギー・サステナビリティ・食農

大きな転換点を迎える福島環境再生

中間貯蔵除去土壌等の最終処分への課題と針路

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2024.9.9

社会インフラ事業本部鈴木 浩

カーボンニュートラル時代の原子力
2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故以降、拡散した放射性物質の影響を低減させるため土地や建物などの除染が行われてきた。除染に伴い発生した土壌や廃棄物などは、最終処分までの間、安全に集中的に貯蔵するため、同発電所を取り囲む形で、大熊町・双葉町に整備した中間貯蔵施設に持ち込まれている。その最終処分に向けての検討が、環境省を中心に2015年から進められてきた。2024年度は、これまでの検討の成果に基づき、今後の対応方針を定める区切り(戦略目標)の年度である。戦略目標の年度にあたり、これまでのコラムシリーズ※1※2で検討してきた考えをもとに、最終処分に向けた課題への向き合い方について考察する。

2024年度は最終処分の具体化への重要な目標年

最終処分の時期は、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法※3に規定されている。同法によれば、「国は中間貯蔵されている除去土壌などについて、2045年(中間貯蔵開始後30年以内)までに、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」こととなっている(図表1)。
図表1 中間貯蔵・環境安全事業株式会社法第3条
中間貯蔵・環境安全事業株式会社法第3条
出所:中間貯蔵・環境安全事業株式会社「中間貯蔵事業関連法令」 を基に三菱総合研究所作成
https://www.jesconet.co.jp/interim/scheme/law.html(閲覧日:2024年5月17日)
最終処分に向けて、これまで10年という長い期間をかけて、「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略(図表2)」に基づき、最終処分量を少しでも減らすための減容・再生利用技術の開発や、再生利用の推進、最終処分の方向性の検討、全国的な理解の醸成などが行われてきた。減容・再生利用に関する技術開発などについては、コラム「福島環境再生 最終処分に向けた現況と課題」で解説したとおりである。

2024年度は、戦略目標として、これまでの10年間の取り組みで得た成果を踏まえ、最終処分方式の具体化、取り出し・搬出方法、跡地利用の検討などに向けた方針が定められる、重要な目標年度である(図表2)。
図表2 中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略 工程表
中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略 工程表
図表を拡大する(PDF)

出所:環境省「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略 工程表」を基に三菱総合研究所作成
https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/investigative_commission_process_2003.pdf(閲覧日:2024年5月17日)
本件には多様なステークホルダーがいて、それぞれの利害が非常に複雑である。最終処分に向けた今後のあらゆるプロセスにおいて社会的合意を形成していくことが重要になるが、中間貯蔵除去土壌等の性質や最終処分の具体的な方法について適切に理解するには科学的知識が必要であり、決して簡単ではない。メディアやネット情報などにより偏った知識・情報が流布することでステークホルダーの不信感や不安感が強まり、社会的合意形成を妨げてしまう可能性もある。今後の最終処分に向けて、冷静かつ適切な対応を進めていくには、最低限として、以下の3つが必要であるとわれわれは考えている。次節以降で、その対応のあり方について考察する。

最終処分に向けた取り組みの全体像を示すこと

対応必要事項は、最終処分に限らず、工程表(図表2)に示されたとおり多岐にわたる。その全体像を示すことは、社会的合意形成を図る上で欠かせない。個々の対応とともに、全体としての最適解を目指した取り組みが重要となる。

物量・安全性などを定量的に示すこと

対応のあり方は物量により違ってくる。安全性などとともに、定量的な把握が必要となる。さらに、再資源化などにより物量自体の減容化を進めることや、放射能濃度レベルに合わせた安全管理を図ることも重要である。

意思決定のプロセスを示すこと

最終処分は、多方面の方々が関与しなければならない事業である。多くの人々の安全・安心に直結する問題であり、情報公開やコミュニケーション機会を設けるなど、できるかぎり透明化しないと不信感が募りやすい。最終的な方針のみでなく、意思決定のプロセスを示すことが必要となる。

最終処分に向けた取り組みの全体像への理解促進を

最終処分のプロセスの全体像を提示しステークホルダーからの理解を得ることは、社会的合意形成の大前提となる。「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略 工程表(図表2)」によれば、最終処分に向けた取り組みの全体像を理解するために必要な要素は、図表3のように整理される。最終廃棄物の最終処分のみでなく、再生利用の推進、中間貯蔵施設の敷地の跡地利用などの検討も重要になる。
図表3 最終処分に向けた取り組みの全体像理解のための要素
最終処分に向けた取り組みの全体像理解のための要素
三菱総合研究所作成
最終廃棄物は、再生利用先の確保が困難なものであり、最終処分方法の具体化が求められている。現状では、場所未設定として、産業廃棄物の最終処分場および放射性廃棄物の処分場の要件などに基づき技術的な検討が行われている。

また、放射能濃度の低い土壌などを、道路盛土といった再生資材として活用することも検討されている。この場合、安全性を確保した上で、必要性・有効性への理解醸成を行いながら、利活用することが必須である。再生資材活用を実行できる技術的な見込みは、飯館村長泥地区の環境再生事業、福島県(中間貯蔵施設)内での道路盛土実証事業などの「再生のための実証事業」により得られている。今後は再生資材活用のさらなる具体化が求められる。

中間貯蔵施設の敷地の跡地利用については、福島県と大熊、双葉両町が環境省と結んだ「中間貯蔵施設の周辺地域の安全確保等に関する協定書」第14条第5項(図表4)が今後の検討のベースとなろう。福島県と大熊、双葉両町の意向を踏まえ地域の振興および発展のために利用されるよう、協議を行うことが求められる。双葉地方の8町村は、「ふたばグランドデザイン報告書(令和元年9月4日)※4」として事業構想案を作成しており、跡地利用検討のベースになると考えられる。地元で検討されている構想の具現化は、再生資材の活用、最終処分の具現化と並行して進めていく必要がある。
図表4 中間貯蔵施設の周辺地域の安全確保等に関する協定書 第14条
中間貯蔵施設の周辺地域の安全確保等に関する協定書 第14条
出所:環境省「中間貯蔵施設の周辺地域の安全確保等に関する協定書(平成27年2月25日)」を基に三菱総合研究所作成
https://josen.env.go.jp/soil/pdf/agreement_150225.pdf(閲覧日:2024年5月28日)

物量・安全性などを定量的に把握し対応を進める

最終処分に向けては、その物量と安全性を定量的に示すとともに、減容化や放射能濃度レベルに合わせた安全管理に取り組むことも重要である。

中間貯蔵施設に持ち込まれた対象物の物量は、東京ドーム11個分(1,400万㎥)と莫大(ばくだい)である。しかし最終処分量は、再生資材の有効利用とともに、熱処理などの処理により減容化させることが可能となる。環境省想定(2018年時点)のうち、最終処分量の最小化を目指したシナリオ(図表2)では、再生資材が1,300万㎥、最終処分が3.4万㎥になる見込みである。また当社が、中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)から受託した「仮設灰処理施設で発生する飛灰を対象とした灰洗浄実証試験業務(その1)」で実施した洗浄・吸着により、双葉町減容化(その1)業務の飛灰(20~60万ベクレル/kg)を4,000万ベクレル/kg超に濃縮できることが確認できている。その結果をもとに、環境省シナリオの最終処分量(3.4万㎥)を見直すと3,000㎥まで減容化することも期待できる(図表5)。
図表5 環境省想定(2018年時点)シナリオおよび洗浄処理実績に基づく最終処分量の推定
環境省想定(2018年時点)シナリオおよび洗浄処理実績に基づく最終処分量の推定
出所:環境省「減容・再生利用技術開発戦略進捗状況について(2018年12月17日)」を基に三菱総合研究所作成
https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_181217_04.pdf(閲覧日:2024年5月17日)
最終処分物の安全性を定量的に把握・提示するため、「運搬時・処分時の安全に関わる放射能濃度」について、原子力施設から発生する放射性廃棄物レベルにおける位置づけで整理した(図表6)。最終処分物は、熱処理後の飛灰(20~60万ベクレル/kg)でも、洗浄・吸着により放射性セシウム濃度を濃縮させた最終処分物(4,000万ベクレル/kg超)でも、低レベル放射性物質分類であるLSA-II、ピット処分の範囲内となっている。今後も安全のため、低レベル放射性物質の要件を満たす対応が必要である。
図表6 原子力施設から発生する放射性廃棄物の放射能濃度レベルにおける最終処分物の位置づけ
原子力施設から発生する放射性廃棄物の放射能濃度レベルにおける最終処分物の位置づけ
出所:原子力規制委員会「放射性同位元素等の工場又は事業所の外における運搬に関する技術上の基準に係る細目等を定める告示」および「核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の第二種廃棄物埋設の事業に関する規則」を基に三菱総合研究所作成
https://www.nra.go.jp/data/000045582.pdf(閲覧日:2024年5月17日)
https://www.nra.go.jp/law_kijyun/law/haiki_kisoku.html(閲覧日:2024年5月17日)
最終廃棄物の最小化を目指すほど、再生資材の物量が大きくなる。環境省想定(2018年時点)シナリオ(図表2)によれば、再生資材は放射能濃度が基準値以下の土、レキ、砂、スラグなどのことであり、その想定物量は全体量1,300万㎥程度である。その内訳は図表7に示すとおりである。
図表7 再生資材の種類ごとの物量(想定値)
再生資材の種類ごとの物量(想定値)
出所:環境省「減容・再生利用技術開発戦略進捗状況について(2018年12月17日)」を基に三菱総合研究所作成 https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_181217_04.pdf(閲覧日:2024年5月17日)
再生資材の安全性は、被ばく線量評価計算により定量化できる。環境省の「中間貯蔵施設における除去土壌等の減容化技術等検討ワーキンググループ※5」では、除去土壌の再生利用の放射線安全に関する検討※6、除去土壌の処分基準及び概略安全評価※7を実施しており、放射能濃度等による基準値を定めようとしている。

意思決定プロセスを明示し合意形成につなげよ

ここまで見てきたように、中間貯蔵施設の敷地の跡地利用、最終処分方法の具体化、再生資材の利用など、最終処分に向けた課題は多い。ステークホルダーの合意形成を図っていくため、その対応は、想定シナリオの洗い出し、比較検討、判断理由などの意思決定の過程を示すことが望まれる。

そのためには、道路計画策定プロセス※8や欧米の戦略的環境アセスメント※9などと同様に、複数の施策を挙げて比較検討を行い、その結果を明示することが有用である。

再生資材の活用に関する比較検討の例として、「全都道府県で利用する場合」と「中間貯蔵施設敷地の跡地のみで利用する場合」の比較を図表8に示す。意思決定プロセスの一環として、いくつかの選択肢について比較検討した結果を明示することは、ステークホルダーの不信感を取り除き、納得感につながるため、社会的合意形成に有用である。
図表8 再生資材の活用方法の比較検討例
再生資材の活用方法の比較検討例
出所:三菱総合研究所作成

最終処分の完遂に向けて何が必要か?

中間貯蔵除去土壌等の最終処分は、法で定められた期限(2045年)までに完遂すべき大事業である。その取り組みは多岐にわたっており、全体を把握する必要がある。対処すべき物量は膨大であり、物量・安全性等を定量的に把握する必要がある。そして、その取り組みは社会的合意形成が重要な性格のものが多く、意思決定プロセスを明示することが有用である。

最終処分に向けたこれまでの10年間の検討過程で、われわれが注目している課題は、「当初設定した目的を達成することばかりに対応が限定され、最終処分後の地域創生など長期的視野に立った柔軟な対応ができていない」ということだ。例えば、仮設焼却炉は中型2基にすれば、最終処分後も1基を地域で利活用することが可能だが、最終処分に向けた目的達成とコスト最小化を理由として、大型1基が採用され、目的達成後に計画通り解体された。

最終処分に向けた取り組みは極めて重要な事業だが、ゴールではない。あくまで「福島環境再生」に向けたプロセスの一つである。中長期的な福島環境再生のために、全体最適な最終処分を目指して、社会的合意形成を進めていくことが不可欠である。今後われわれとしても、「意思決定プロセスの見える化」によって全体最適な取り組みを促すとともに、福島環境再生を起点とした地元事業創成など、最終処分後の未来を見据えた提言を行っていきたい。

※1:福島第一原子力発電所事故後12年を振り返り、今後の課題を考える(カーボンニュートラル時代の原子力 2023.3.29)

※2:福島環境再生 最終処分に向けた現況と課題(カーボンニュートラル時代の原子力 2024.3.21)

※3:中間貯蔵・環境安全事業株式会社「関連法令」
https://www.jesconet.co.jp/interim/scheme/law.html(閲覧日:2024年5月17日)

※4:大熊町公式ホームページ「ふたばグランドデザイン報告書」
https://www.town.okuma.fukushima.jp/site/fukkou/12311.html(閲覧日:2024年5月28日)

※5:環境省「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」
https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/(閲覧日:2024年8月23日)

※6:環境省「除去土壌の再生利用の放射線安全性に関する検討について」
https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/volume_reduction_technology_240712_06.pdf(閲覧日:2024年8月23日)

※7:環境省「除去土壌の処分基準及び概略安全評価について」
https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/volume_reduction_technology_240712_05.pdf(閲覧日:2024年8月23日)

※8:国土交通省道路局「構想段階における道路計画策定プロセスガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-hyouka/pdf/ps_guideline.pdf(閲覧日:2024年7月5日)

※9:Scottish Environment Protection Agency「Guidance for the Environment Agencies’ Assessment of Best Practicable Environmental Option Studies at Nuclear Sites」
https://www.sepa.org.uk/media/103546/bpeo_guidance.pdf(閲覧日:2024年7月5日)