国が策定した「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下、ロードマップ)
※2では、2011年12月から30~40年後までに廃止措置を終了することが目標として掲げられており、このロードマップに示された方針のもと、廃炉作業が進められている。次の通り、「作業環境改善」「汚染水・処理水対策」「使用済燃料取り出し」「燃料デブリ取り出し」「廃棄物対策」の5つの取り組みの進捗を概観する。
①作業環境改善
事故直後、発電所構内の多くのエリアは「防護服」と顔全体を覆う「全面マスク」の着用が必要だった。2018年5月には構内の約96%のエリアで「一般作業服」と「使い捨て式防じんマスク」などの軽装備で作業可能になるまで、環境の改善が進んでいる
※3。2021年10月には岸田首相もスーツ姿で視察を行っている。
②汚染水・処理水対策
汚染水は事故直後から大きな問題となっていた。汚染水とは、燃料デブリを冷却するための水が燃料デブリに触れる、建屋内に流入した地下水や雨水が汚染水と混ざる、といったことにより発生するもので、原子炉建屋から土壌側にあふれ出ないように抜き取りを行い、それをタンクに貯留している。汚染水は放射性核種を取り除く処理をした後に冷却水として再利用するが、地下水や雨水の流入分だけ日々増加していく。2015年時点に1日当たり490m
3程度だった汚染水の増加量も、凍土壁や敷地表面のフェーシング(吹き付け処理)、井戸による地下水位コントロール、雨水流入抑制により2021年時点には1日当たり130m
3程度にまで抑え込むことに成功している。タンクにためられた汚染水は、化学的・物理的性質を利用した「多核種除去設備(ALPS)」によって放射性核種を取り除く処理がなされた処理水
※4として、海洋放出の準備が進められている。
③使用済燃料取り出し
各号機のプールに貯蔵されている使用済燃料はリスクが最も大きいとされている。ロードマップ初版(2011年策定)においては、1~4号機の使用済燃料は10年以内(2021年まで)には取り出しを完了する予定とされていた。現在は1~4号機の順に、「がれき撤去のための大型カバー設置中(1号機)」「取り出し用構台の設置中(2号機)」「2021年取り出し完了(3号機)」「2014年取り出し完了(4号機)」という状況であり、全ての使用済燃料取り出しは2031年までに完了するように計画されている。後ろ倒しされた原因は、安全を優先した結果であると考えられ、ダストの飛散抑制、がれきなどの混入物除去、並行作業の難しさにあると言えるだろう。
④燃料デブリ取り出し
燃料デブリは、ロードマップ初版(2011年策定)においては、10年以内(2021年まで)には取り出しを開始するとされていた。ロードマップはその後改訂を重ね、他のマイルストーンは見直しがなされたが、燃料デブリ取り出しだけは不変であった。2021年の取り出し開始に向けて機器開発が進められてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大によってロボットアームの開発や試験が予定どおりには進まず、現在は2023年度に取り出しに着手する計画で進められている。最初は少量の取り出しだが、その後、段階的に取り出し規模を拡大していく予定である。取り出しのペースを速めるための研究開発も行われている。
⑤廃棄物対策
1Fの廃棄物の特徴は大きく4つある。
- 通常の原子炉の廃止措置に伴い発生する廃棄物と比べて物量が多いこと。
通常の原子力発電所の廃止措置であれば、廃棄物総量のうち、約93%が「放射性廃棄物でない廃棄物」として取り扱われるが、1Fでは全ての廃棄物を「放射性廃棄物」として取り扱わなければならない可能性がある。
- 処理・処分の実績が乏しいものがあること。
例えば、汚染水を処理した後に残る水処理二次廃棄物は、通常の原子力発電所の運転・廃止措置では発生しない廃棄物であり、処理経験がない。
- 非常に高線量なものがあること。
- まだ性状などが分かっていないものがあること。
2021年の技術戦略プラン
※5(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)では、処理・処分の方策とその安全性に関する技術的な見通しが示された。今後は全ての廃棄物を対象に、性状把握・保管管理・処理・処分を包括的に見た上で最適な技術選択を可能としていくことが重要である。
廃炉作業全体を俯瞰すると、一部に当初の計画から遅れはあるものの、各項目では進捗しており大幅な改善が見られる。一方で当初想定していなかった状況や課題、例えば格納容器補修の難しさ、ダスト飛散抑制の難しさ、被ばく低減のための遠隔技術開発の難しさなども見え始めており、今後も安全を最優先に課題解決・研究開発に取り組むことが重要である。