コラム

カーボンニュートラル時代の原子力エネルギー・サステナビリティ・食農

福島第一原子力発電所事故後12年を振り返り、今後の課題を考える

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2023.3.29

セーフティ&インダストリー本部近藤直樹

鈴木 浩

カーボンニュートラル時代の原子力
当社は、2022年10月7日に「提言 カーボンニュートラル時代の長期的な原子力利用の在り方」を発表した。同提言では、カーボンニュートラル達成、エネルギー安全保障の重要性の再認識といった新たな潮流を踏まえ、短期、中期、長期のそれぞれの視点で原子力利用の在り方を提言した。

本コラムシリーズは、これを踏まえて、原子力利用の在り方を具体化して示すものである。福島第一原子力発電所(1F)の事故から12年を経た今、エネルギー政策を進める上での原点とされる福島復興※1を再検証する時期に差し掛かった。
第2回の本コラムでは、特に「事故炉の廃炉」と「福島地域の環境回復」の2つにおける対応の進捗を振り返り、今後重要となる課題を分析する。

1. 事故炉の廃炉

5つの取り組みと進捗

国が策定した「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下、ロードマップ)※2では、2011年12月から30~40年後までに廃止措置を終了することが目標として掲げられており、このロードマップに示された方針のもと、廃炉作業が進められている。次の通り、「作業環境改善」「汚染水・処理水対策」「使用済燃料取り出し」「燃料デブリ取り出し」「廃棄物対策」の5つの取り組みの進捗を概観する。

①作業環境改善

事故直後、発電所構内の多くのエリアは「防護服」と顔全体を覆う「全面マスク」の着用が必要だった。2018年5月には構内の約96%のエリアで「一般作業服」と「使い捨て式防じんマスク」などの軽装備で作業可能になるまで、環境の改善が進んでいる※3。2021年10月には岸田首相もスーツ姿で視察を行っている。

②汚染水・処理水対策

汚染水は事故直後から大きな問題となっていた。汚染水とは、燃料デブリを冷却するための水が燃料デブリに触れる、建屋内に流入した地下水や雨水が汚染水と混ざる、といったことにより発生するもので、原子炉建屋から土壌側にあふれ出ないように抜き取りを行い、それをタンクに貯留している。汚染水は放射性核種を取り除く処理をした後に冷却水として再利用するが、地下水や雨水の流入分だけ日々増加していく。2015年時点に1日当たり490m3程度だった汚染水の増加量も、凍土壁や敷地表面のフェーシング(吹き付け処理)、井戸による地下水位コントロール、雨水流入抑制により2021年時点には1日当たり130m3程度にまで抑え込むことに成功している。タンクにためられた汚染水は、化学的・物理的性質を利用した「多核種除去設備(ALPS)」によって放射性核種を取り除く処理がなされた処理水※4として、海洋放出の準備が進められている。

③使用済燃料取り出し

各号機のプールに貯蔵されている使用済燃料はリスクが最も大きいとされている。ロードマップ初版(2011年策定)においては、1~4号機の使用済燃料は10年以内(2021年まで)には取り出しを完了する予定とされていた。現在は1~4号機の順に、「がれき撤去のための大型カバー設置中(1号機)」「取り出し用構台の設置中(2号機)」「2021年取り出し完了(3号機)」「2014年取り出し完了(4号機)」という状況であり、全ての使用済燃料取り出しは2031年までに完了するように計画されている。後ろ倒しされた原因は、安全を優先した結果であると考えられ、ダストの飛散抑制、がれきなどの混入物除去、並行作業の難しさにあると言えるだろう。

④燃料デブリ取り出し

燃料デブリは、ロードマップ初版(2011年策定)においては、10年以内(2021年まで)には取り出しを開始するとされていた。ロードマップはその後改訂を重ね、他のマイルストーンは見直しがなされたが、燃料デブリ取り出しだけは不変であった。2021年の取り出し開始に向けて機器開発が進められてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大によってロボットアームの開発や試験が予定どおりには進まず、現在は2023年度に取り出しに着手する計画で進められている。最初は少量の取り出しだが、その後、段階的に取り出し規模を拡大していく予定である。取り出しのペースを速めるための研究開発も行われている。

⑤廃棄物対策

1Fの廃棄物の特徴は大きく4つある。
  1. 通常の原子炉の廃止措置に伴い発生する廃棄物と比べて物量が多いこと。
    通常の原子力発電所の廃止措置であれば、廃棄物総量のうち、約93%が「放射性廃棄物でない廃棄物」として取り扱われるが、1Fでは全ての廃棄物を「放射性廃棄物」として取り扱わなければならない可能性がある。
  2. 処理・処分の実績が乏しいものがあること。
    例えば、汚染水を処理した後に残る水処理二次廃棄物は、通常の原子力発電所の運転・廃止措置では発生しない廃棄物であり、処理経験がない。
  3. 非常に高線量なものがあること。
  4. まだ性状などが分かっていないものがあること。

2021年の技術戦略プラン※5(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)では、処理・処分の方策とその安全性に関する技術的な見通しが示された。今後は全ての廃棄物を対象に、性状把握・保管管理・処理・処分を包括的に見た上で最適な技術選択を可能としていくことが重要である。

廃炉作業全体を俯瞰すると、一部に当初の計画から遅れはあるものの、各項目では進捗しており大幅な改善が見られる。一方で当初想定していなかった状況や課題、例えば格納容器補修の難しさ、ダスト飛散抑制の難しさ、被ばく低減のための遠隔技術開発の難しさなども見え始めており、今後も安全を最優先に課題解決・研究開発に取り組むことが重要である。
表1 事故炉の廃炉の進捗
事故炉の廃炉の進捗
出所:三菱総合研究所

今後の重要課題:廃炉完遂までの計画づくりがポイント

廃炉に関しては、処理水海洋放出を着実に進めることに加えて、確実かつ円滑に廃炉完遂に至るための全体計画を描くこと、それに基づく研究開発(R&D)の全体像を描くことが重要となる。さらに、こうした全体計画は地元の方々にも丁寧に説明されることが重要である。しかし、いまだ原子炉内部の状況に不確実性がある中、確たる全体計画を描くことは容易ではない。全体計画の策定に向けて重視すべき点を当社は独自に検討した。以下に列挙する。
 

目標とする未来像からの逆算

いつまでに何を実現すべきかのマイルストーンを設定した上で、各マイルストーンを起点としてバックキャスト型(逆算型)で全体計画を積み上げることが肝要だ。例えば、燃料デブリはいつまでに取り切らないといけないのか、燃料デブリの今後の取り扱い方法をいつまでに決めるべきか、さらにはそのために必要となる条件などに基づき、想定される課題を洗い出す必要がある。課題の洗い出しには多様な組織が関与することについても入念に配慮しなければならない。
 

思考実験の反復と代替策の準備

現状の不明点、要検討事項、懸念点などを峻別し、できるだけ先を見通し思考実験を繰り返すことが求められる。その際には簡易的にでも、仮置きでも構わないので、可能な限り迅速かつ先行きを見通して検証を重ねることが肝要だ。例えば、1~3号機における燃料デブリの取り出しでは、「どういう順番で行うのか」「並行して実施するのか」「その際の敷地利用計画はどうすべきか」などに配慮する必要がある。その結果、円滑な廃炉にインパクトの大きい障壁(例えば、被ばく線量、コスト、敷地、期間などが過大となること)が想定される事項には、代替策を事前に準備する必要がある。
 

全体最適化と適時の見直し

部分最適に陥ることなく、廃炉期間全体を見通し、安全性、コスト、期間の観点から取るべき対策の最適化を検討し、新たに得られる情報を基に柔軟に計画を見直すことが求められる。その際には、「作業員被ばく低減のためにどこまで遠隔技術でカバーするのか」「廃棄物量低減のためにどこまで厳密に廃棄物の仕分けを行うのか」がポイントとなるだろう。なお投入できる人、時間、敷地、資金が有限であることも(当然のことであるが)考慮に入れる必要がある。
 

事故炉に対する規制の合理化

廃炉とは放射性物質を取り除き解体することであり、廃炉完遂に至る全体計画を描くためにも1Fの特性に応じた規制における審査を合理化・効率化することが求められる。
 
今後の研究開発課題としては、遠隔技術(被ばく低減)、作業速度向上、長期劣化予測、廃棄物量低減などがポイントになるだろう。その他、中長期を見据えた、「ナレッジマネジメントのためのアーカイブ化」「不確実性を踏まえたシナリオ検討」も重要となる。
 

2. 福島地域の環境回復

3つの取り組みと進捗

福島地域の環境回復は、「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法・基本方針(平成23年11月11日)」に基づき、「土壌等の除染等の措置」、「除去土壌の収集、運搬、保管および処分」および「汚染廃棄物等の処理」が実施されている。その現状は次に示す通りである。

①土壌等の除染等の措置

市町村、県、国などが、除染計画を策定し、汚染状況重点地域または除染特別地域と設定した上、除染などの措置を実施し、2018年3月19日までに帰還困難地域を除く全ての面的除染が完了した。除染などの措置で残っているのは、特定復興再生拠点区域(将来にわたって居住を制限するとされてきた帰還困難区域内に、避難指示を解除して居住を可能と定めることが可能となった区域)および「特定帰還居住区域(住民の帰宅意向調査で帰還の希望が出された場所とそれらを結ぶ道路など)」であり、除染などの措置が継続実施されている。

②除去土壌の収集、運搬、保管および処分

除染により生じた土壌(除去土壌)などは、仮置場や現場保管場所等に保管された後、中間貯蔵施設および仮設焼却施設等に運搬された。仮置場の数は、2016年12月頃の1,133カ所がピークだったが、その後減少し2022年9月時点で36カ所になっている。2023年2月末時点に福島県で発生した除去土壌などのうち、約1,153.9万m3(輸送量ベース)が、分別処理後に中間貯蔵施設内の土壌貯蔵施設に貯蔵され、安全に集中的に管理・保管されている。

③汚染廃棄物等の処理

農林業系副産物や下水汚泥などの可燃性の指定廃棄物については、焼却処理などによって処理量を削減(減容化)するとともに、性状の安定化を図る事業が実施されてきた。なお国直轄の仮設焼却施設は12カ所で運営されており、現在稼働中の施設は3カ所になっている。
表2 福島地域の環境回復の進捗
福島地域の環境回復の進捗
出所:三菱総合研究所

今後の重要課題:再利用・処分量低減がポイント

福島地域の環境回復では、「県外最終処分に向けた取り組み」が今後の重要課題である。中間貯蔵施設の周辺地域の安全確保などに関する協定書※6第14条4に基づき、「環境省は、福島県民その他の国民の理解の下に、除去土壌などの再生利用の推進に努めるものとするが、再生利用先の確保が困難な場合は福島県外で最終処分を行う」必要がある。そして、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法※7第3条に基づき、「国は中間貯蔵されている除去土壌などについて、2045年(中間貯蔵開始後30年以内)までに、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」必要がある。この対応を円滑に実施するためには、「除去土壌の再生利用の推進・利用先の具体化」および「最終処分量の最小化」が必要不可欠である。

除去土壌の再利用の推進・利用先の具体化

適切な前処理や分級などの物理処理をした後、用途先の条件に適合するよう品質調整を行う必要がある。また、管理主体や責任体制が明確となっている公共事業など、適切な管理の下で利用することが求められている。さらには、リサイクルの重要性と安全性について地域住民の皆さまに理解していただくこと、そのために的確な品質改良を行うこと、所管官庁が連携して対応することが重要である。

最終処分量の最小化

実事業に向けた検討が必要である。除去土壌について、環境省または大熊分級技術実証試験において、土壌を分級することにより、放射能濃度が低い「礫・砂」と放射能濃度が高い「シルト(沈泥:粒径 0.074~0.005mmの土粒子)・粘土」に分離できること、砂は高度分級(機械式研磨、流体式研磨)で除染できることを確認している。またシルト・粘土は微粒子であり、廃棄物の灰処理と同様の熱処理が可能であることも確認されている。廃棄物については、「焼却⇒灰処理⇒灰洗浄」の段階を踏んで、減容化を目指す実証事業が行われている。

今後の環境回復のポイントは、実証試験で試行したシステムを連携させること。そして、物量の多くを占める除去土壌(再利用不可)に対する減容化処理(土壌の分級処理・化学処理⇒土壌の熱処理⇒焼却灰(飛灰)の洗浄処理)※8については、安全性・経済性・効率性に配慮し最終処分量最小化のための最適なシステムを構築することである。

※1:「GX実現に向けた基本方針」(2023年2月)において、「福島復興はエネルギー政策を進める上での原点である」とされている。
https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210002/20230210002_1.pdf(閲覧日:2023年3月22日)

※2:廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(2019年12月)
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/20191227.pdf(閲覧日:2023年3月22日)

※3:福島第一原子力発電所の敷地境界の最大空間線量率は、2015年当時に約4μSv/hだったが、2023年現在では約1μSv/hまでに低減している。

※4:処理水とは、多核種除去設備(ALPS)などを使って「汚染水」からトリチウム以外の放射性物質を規制基準以下まで取り除いたもの。唯一基準値を上回るトリチウムについても海水で希釈して国の定めた安全基準の40分の1(WHO飲料水基準の約7分の1)未満にしてから海に放出する予定とされている。

※5:原子力損害賠償・廃炉等支援機構「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2021」(2021年10月)
https://www.dd.ndf.go.jp/strategic-plan/index2021.html(閲覧日:2023年3月22日)

※6:福島県復興ポータルサイト「中間貯蔵施設の周辺地域の安全確保等に関する協定書及び中間貯蔵施設環境安全委員会設置要綱について」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/sankosiryo.html(閲覧日:2023年3月6日)

※7:中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)「中間貯蔵事業」
https://www.jesconet.co.jp/interim/scheme/law.html(閲覧日:2023年3月6日)

※8:これらは、「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略(戦略目標の達成に向けた見直し):環境省・平成31年3月:http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/investigative_commission_review_1903.pdf」において「減容・再生利用技術の開発」として検討されている。

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