私たちの生活・働き方を一変させた新型コロナウイルス感染症。企業の感染拡大防止策としてのリモートワーク推進やペーパーレス化等の動きは、コロナ禍以前から叫ばれてきたデジタル社会への変革、いわゆるDXの流れを加速させる契機となった。
さらに、DXと並行してさらなる機運の高まりを見せたのが、脱炭素化を実現するための社会変革、いわゆるGX(グリーン・トランスフォーメーション)である。2021年11月の第26回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP26)は、世界的なCN(カーボンニュートラル)への動きを後押しし、日本でも大規模な洋上風力発電プロジェクトの発足や、ペロブスカイト太陽電池※1・次世代高炉といった新たな環境技術の開発が進んできている。足下のウクライナ情勢によって変革が足踏みしているとの見方もあるが、この大きな潮流が止まる、ないし急に方向転換することはないだろう。
一方で、DX・GXの2大潮流に伴う産業構造変化に対し、日本政府および企業は、技術、資本(投資)、法整備などさまざまな側面で後れを取っていると指摘される。当社では、特に人材面での対応の後れに着目し、2022年7月に「DX・GX 時代に対応するキャリアシフト」の必要性を提言した。日本における人的資本投資の水準の低さを指摘するとともに、DX・GXによって拡大する人材需給のミスマッチ解消のために、成長が見込まれる産業・事業領域に政労使が一体となって人材をシフトさせていく必要性を示している。
本コラムでは、DX・GXに対応するキャリアシフト、そして人材需給ミスマッチ解消に向けて、個々の企業目線で具体的にどのような考え方で臨み、どのように取り組みを進めるべきかを6回に分けて論じていく。ポイントは以下の4つである。
- 企業の人的資本投資は、経営戦略と人材戦略を連動させるための経営レベルの課題(第1回)。
- 人的資本投資を「人材タイプ×キャリアシフト」に要素分解しToBe人材ポートフォリオを実現(第2回)。
- 先進的なキャリアシフト実践事例はあるものの、日本企業全体としての取り組みは不十分(第3・4・5回)。
- 企業は人的資本投資の目指す姿を明確化し、本気の「投資」と捉えて取り組みの強化を(第6回)。