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DX・GX時代の「企業の人的資本投資」のあり方 第3回:3つのキャリアシフト類型実践例 ①ワンノッチ型キャリアシフト

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2022.11.18

政策・経済センター大内久幸

人材
第2回「DX・GX対応のカギとなるキャリアシフト3類型」では、DX・GXに伴う産業構造変化を生き残るための経営戦略、その実現に向けた人事戦略を策定する上で押さえておくべき人材ポートフォリオの捉え方、求められる人材タイプの変化、を中心に説明した。そして求められる人材タイプの育成をねらいとする、企業内での3つのキャリアシフト類型を示した。

第3回~第5回では、3つのキャリアシフト類型それぞれについて、企業の現状の取り組み状況を、三菱総合研究所が実施した企業向けアンケート(2022年8月実施)結果から示すとともに、実際の取り組み事例を紹介していく。第3回は、ワンノッチ型キャリアシフトの実践例を見ていく。

ワンノッチ型キャリアシフトの現状と取り組み事例

デジタル技術をはじめとしたノンルーティン・スキルを段階的に獲得するワンノッチ型キャリアシフトのうち、象徴的と言えるのが、企業のDX対応の取り組みであろう。企業内でのAI関連研修やプログラミング研修の拡大、社外のデジタル技術関連教育への参画推進など、各種メディアで多くの事例が取り上げられている。今後もDX対応としてのデジタル人材育成の取り組みは、さらに広がりを見せるであろう。

その一方でDXのさらなる進展に向けた課題も見えてきている。図表1はDX対応進展のための現状の取り組み状況と課題について聞いたアンケート結果である。課題意識と現状の取り組み状況との乖離(かいり)が最も大きかったのが、「DX対応に必要な知識・スキルを明確にする」。次いで「DX対応のKPIを設定し、モニタリングする」であった。

これはDX対応の必要性こそ浸透しているものの、「具体的にどのような知識・スキルを獲得すれば良いか」「その企業におけるDXとは何か」を企業自体が明確にできていない、または社員に明示できていないことの表れである。
図表1 DX対応への取り組み状況と課題
DX対応への取り組み状況と課題
出所:三菱総合研究所

事例:双日 デジタル人材育成プログラム「基礎」

DXに向けた取り組みとして、大手商社の双日では、「デジタルは顧客・社会ニーズを価値創造につなげる上での大前提であり、全従業員が持つべき共通言語」と位置付け、2021年4月よりITパスポート取得を全社員必修化するなどして、ITリテラシーの底上げを図ってきた。加えて昨今では、DXと実務とのさらなる連動のために、デジタル人材育成プログラム「基礎」「応用」を開始している。

このうち「基礎」のプログラムは、ITリテラシー、情報セキュリティマネジメント、データサイエンス、デジタルマーケティングの4テーマからなり、それぞれオンライン形式での充実した学習コンテンツが準備されている。各テーマとも履修に10時間程度かかるコンテンツとなっており、現中計では総合職約2,000人全員が計50時間近くにも及ぶプログラムを履修することを目標としている。

双日のデジタル人材育成プログラムが目指す姿は明確である。商社が強みとしてきたネットワーク力を活かしながら、旧来型の商社のビジネスモデルにデジタル技術を加えることで、新たな付加価値を創出する。そのための知識を全社員にインストールしていく取り組みを「基礎」と位置付けている。通り一遍の知識を伝授するにとどまらず、外部のパートナーと共通言語を持って会話できるようになるのに必要な知識の習得を意識している。

対象は全社員ながら、各プログラムには職層によって異なる意図が組み込まれている。例えばITリテラシーのプログラムでは、全社におけるデジタルの共通言語化というねらいのほか、例えば管理職層向けには、自身のリテラシー向上に加え、デジタルのスキルや知識を身に付けた部下に適切なアサインメントやミッションを与える役割を求めている。

今回のデジタル人材育成プログラムの開発は、双日としても従来にない規模の投資であるという。その背景には、「人材は会社の資本である」という明確な思いがある。「基礎」は、原則として業務時間内で履修すべきとしており、管理職層にも全社員のプログラム参加に対する理解浸透を図っている。例えば管理職層向けの集合研修では、CDO(最高デジタル責任者)室から、このプログラムを通してどのようなスキルが身に付くか、それが現場業務にどう活用できるかなどについて実例を挙げながら説明し、理解を促している。こうした取り組みが、社員への教育投資を重視する風土醸成につながっていると推察される。

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