再チャレンジ型キャリアシフトは、GXを主とした産業構造変化に伴い、新たに台頭する成長産業・事業領域に対応するためのスキル転換を意味している。分かりやすい例を挙げれば、火力発電の機械保修を担っていた職員が風力発電のブレード保修の技術を身に付ける、自動車エンジンの保守技術者がEVモーターの保守技術を習得するなどがある。無論、これらは一朝一夕に対応できるものではなく、場合によっては一時的な離職を伴う、集中的な教育・訓練が必要となる。
一方でこうしたスキル転換、および成長領域への人材シフトは、産業・企業をまたぐ場合はもとより、各企業内でも十分進んでいるとは言えない状況である。図表1は、産業構造変化に際した人材戦略・人材マネジメントの対応状況についてのアンケート結果である。スキル転換に向けて教育訓練を施す以前に、「人材要件が明確化できている」「今後必要となる人材のスキルを人数として把握できている」「採用や育成に関する定量的な目標を設定できている」などいずれの項目も、否定的回答が肯定的回答を上回っている。また、いずれの項目も積極的肯定「とてもあてはまる」の割合は5%に満たない。
多くの企業で、長期ビジョンや中期経営計画において、産業構造変化に対応する経営戦略・事業戦略が描きなおされている一方で、人材戦略としてどのような人材がどの程度必要かを明確にできていない。なお「人材版伊藤レポート」でも、経営戦略と人材戦略の連動、人材のAsIs‐ToBe ギャップの定量把握は、人的資本経営における重要な視点として指摘されている。
図表1 産業構造変化に際した人材戦略・人材マネジメントの対応状況
出所:三菱総合研究所