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内外経済見通し

ウィズコロナ下での世界・日本経済の展望|2022年11月

2022~2023年度の内外経済見通し

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2022.11.16

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:籔田健二)は、ロシアのウクライナ侵攻を含む11月半ばまでの世界経済・政治の状況、および日本の2022年7-9月期GDP速報の公表を踏まえ、世界・日本経済見通しの最新版を公表します。
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世界経済

世界経済は、需要と供給の両面でコロナ危機から回復傾向をたどってきたが、高インフレと金融引き締めで景気の回復ペースが鈍化している。

世界経済の成長率見通しは、23年を中心に総じて下方修正する。米欧経済は、インフレ率が前回(8月時点)想定よりも高めに推移しており、継続的な利上げが景気の下振れ要因となる。中国経済は、ゼロコロナ政策の継続や住宅市場の下振れなどから景気回復ペースが鈍る見込み。23年の世界経済の成長率は、22年から一段の減速を予測する。

今後の世界経済の注目点は次の3つだ。

①インフレ抑制と景気のバランス

米欧中銀はインフレ抑制に向けて23年春にかけて利上げを継続する見通しだ。成長減速により、米欧の物価上昇圧力は段階的に緩和していくとみるが、米国は労働需給逼迫による賃金上昇、欧州はエネルギー調達コストの高止まりが予想される。23年末でも米欧中銀の物価目標を上回る伸びが継続するだろう。米国は辛うじて景気後退を回避する見込みだが、欧州は23年に景気後退を見込む。

②金融市場の安定性

英国では、金融政策はインフレ抑制に向け引き締めが強化されるなか、財政政策は景気下支えのため拡張的な施策が実施され、両者の不整合により金融市場が不安定化した。金利が上昇するなかで、財政規律に対する市場の目は一段と厳しくなっており、債券価格急落がもたらす金融市場の不安定化に注意が必要だ。新興国でも資金流出圧力が強まっている。特にエネルギーの海外依存度が高い経常赤字国などでは、通貨安によるインフレや、通貨防衛のための利上げが景気の下振れ要因となる。

③米国と中国の政策運営

中国共産党大会において、次期指導部の顔ぶれが決定した。李克強首相など改革派が退任、習主席への権力集中が顕著な体制となる。党大会で示された政策方針に大きな変更はないが、具体策が示される23年3月の全人代などで、改革開放路線やイノベーション強化に向けた政策が維持されるか注目だ。米国中間選挙では苦戦が予想されていた民主党が上院で多数派を占めるなど善戦した。「ねじれ議会」となることで、議会の予算措置が必要な分野では政策運営の制約が強まるだろう。
23年にかけての世界経済の先行きリスクは、第一に、米欧の主要国が同時にスタグフレーションに陥ることである。金融引き締めでもインフレが収まらず、さらなる金融引き締めや財政抑制が必要となった場合、景気後退が長期化する恐れがある。第二に、金融システム不安への発展である。景気減速と金利上昇が並行するなかで、ノンバンクなどの資金繰りが悪化、金融システム不安が強まる可能性がある。第三に、中国不動産市場の低迷長期化である。GDP比10%を占める住宅市場の冷え込みが長期化すれば、不良債権増大などから中国経済の下振れ要因となる。

日本経済

日本経済は、供給制約の緩和と経済活動正常化により、内需を中心に持ち直し傾向にある。7-9月期は輸入の急増によりマイナス成長となったが、内需は堅調だ。22年度後半は、コロナ禍で先送りされたペントアップ需要の顕在化などから、消費や設備投資を中心に引き続き堅調な伸びを見込む点に変更はないが、物価高による消費の下振れなどを主因に、前回2次QE後9月時点の前年比+2.0%から、同+1.9%へ下方修正する。23年度は、米欧を中心とする海外経済減速が輸出の下振れ要因となる一方で、22年10月に公表された経済対策が上振れ要因となり、マイナス/プラス要因が相殺されるかたちで、23年度の実質GDPは前年比+1.3%(前回から変更なし)と予測する。

米国経済

米国経済は、物価高止まりによる消費下押しと大幅利上げ継続による住宅投資減少から内需が減速している。景気減速にもかかわらず、労働需給逼迫による賃金上昇などの要因で物価上昇圧力は根強く、高インフレ解消には時間を要する。22年の実質GDPは前年比+1.7%(前回8月時点から変更なし)を見込むが、23年春にかけてFRBが5%程度にまで政策金利を引き上げると想定し(前回8月時点は4%まで)、同年の実質GDPは同+0.4%と、前回8月時点の同+1.5%から下方修正する。コロナ下で蓄積した家計の過剰貯蓄が内需を下支えするが、利上げの影響が本格化する23年は、潜在成長率を大幅に下回る成長にとどまると見込む。

欧州経済

欧州経済は、エネルギー制約と記録的な物価上昇、利上げが域内経済活動の制約となり、景気後退入りするとみる。懸案のエネルギー供給不足は、今年冬は回避される公算だが、価格・供給ともに不安定な状況であり、欧州経済の抑制要因となる。ECBはインフレ抑制を重視し23年春にかけて利上げを継続、利上げにより設備や住宅投資も減少するとみる。欧州主要5カ国の実質GDPは、実績の上振れを反映し22年が前年比+3.1%(前回8月時点は同+2.6%)と上方修正する一方、金融引き締めの強化を踏まえ23年は同▲0.2%(同+0.6%)と下方修正する。

新興国経済

新興国経済は、もう一段の行動抑制策の緩和による内需中心の成長回復の継続を見込む。ただし、成長の勢いは、外需の取り込みの可否、インフレ圧力の強弱、資本流出リスクへの耐性により異なる。資源輸出国は資源高の恩恵を引き続き享受することが見込まれる。工業製品輸出国はコスト上昇の価格転嫁力、欧米向け輸出鈍化と中国向け輸出回復の強弱が先行きを左右する。欧州・ロシア依存度が高い国や経済基盤の脆弱な国は、既に欧米を上回るインフレ圧力に直面し、厳しい経済環境にある。

中国経済

中国経済は、景気刺激策に支えられ段階的な回復を見込む。共産党内での権力基盤を固め、長期政権が視野に入った習政権は、まずはコロナ抑制で下振れした景気の回復に取り組むことが見込まれる。習政権は改革開放路線を継続すると表明しているものの、李克強首相などの改革派が退任した。中長期的には、習一強体制のもと、外資の技術・投資を受け入れ、民間のイノベーションによる経済の新陳代謝を維持できるかに注目だ。ゼロコロナ政策の長期化や不動産市場の低迷を踏まえ、22年の実質GDPは、前回8月時点の前年比+4.0%から同+3.5%へ、23年は前回の同+5.5%から同+4.8%にそれぞれ下方修正する。