今のCCRCの議論でもう一つ欠けているのが、「ワクワク感」ではないだろうか。「いつかあのCCRCに住みたい」という憧れや前向きな動機が必要であり、そこには「私が輝くライフスタイル」というストーリー性の訴求が求められる。
シニアの住み替えで気になるのは「年賀状」だという。例えば「この度、東京の介護問題が不安なので、地方の老人ホームに引っ越しました」という年賀状だと、いかにも都落ちのようだ。しかし、「この度、『高知龍馬ビレッジ』に移住しました。かつて支社長として過ごした思い入れのある場所で、好きな幕末の歴史を地元の大学で学びながら、地元の特産品の営業アドバイザーをしています」といった内容であれば年賀状にも書きたくなるだろう。ほかにもテーマパークの近隣のCCRCやプロ野球、Jリーグと連携したCCRCであれば、孫も遊びに行きたくなり親子三世代で楽しめる。また大学連携だけでなく、旧制中学のような地方の名門高校に再び卒業生が集う高校連携型も可能性がある。さらにCCRCの隣にシングルマザーの住宅を併設し、彼女たちの雇用を担保すると共に、シニアが子育て支援に参加し、子供の家庭教師を担うような多世代連携型も考えられる。
CCRCのような新たな暮らしを選ぶのは、「イノベーター(革新者)」といわれる層である。例えば初めてスマートフォンを使った人、最初にSNSを使い始めたような人である。スマートフォンで撮影した自らの写真をSNSで発信し、他の人と共有する姿を見て追随者が増えたように、今後はイノベーターがCCRCのライフスタイルを発信し、市場のけん引者となるはずだ。そのためにも彼らが満足するようなCCRCを創出しなければならない。
CCRCでは集客戦略が重要である。米国のラッセル・ビレッジでは、敷地内の大学講座を最低年間450時間以上受講するよう義務づけ、入居条件のハードルを上げたことによって知的好奇心の高いシニアを呼び込むことに成功した。日本でも、近隣の大学での週10時間受講、その大学の学生のホスト・ファミリーとなる、地域で週10時間就労する、といった入居条件を設定するなど、「あえてハードルを上げる」戦略を取り入れてはどうか。
また、CCRCは生涯活躍のまちと称されるように、アクティブシニアの活躍の基点であったが、ともすれば要介護や認知症の発症時に、継続的なケア=Continuing Careや尊厳のある暮らしを担保した本来のCCRCの姿を忘れがちになることがある。無論、アクティブであることも大切だが、要介護になった時に、“別の施設に移ってください”では本末転倒である。「Continuing Careの視点」でしっかりとユーザーの人生をフォローすることが重要だ。
事業主体だけでなく、「居住者へのインセンティブ」も忘れてはいけない。もし居住者の自立度や要介護度が改善し、健康に生活できるようになった場合は、彼らの医療費や健康保険料を一部減額するアイデアだ。また、地域で50時間就労したら、その50時間を自分が介護を受ける時に使えたり、5,000円の地域通貨と交換できたりするポイント制度の導入も有効だ。
低品質の「えせCCRC」の粗製乱造は絶対に避けねばならない。CCRCは自分の老後を託す重要な存在であり、それには客観的な品質保証が必要だ。米国にはCARFCCACという非営利機関が担う認証規格がある。ハード、ソフト、財務内容が評価対象であり、居住者の判断基準になり、機関投資家の投資評価基準にもなっている。日本でもユーザー視点に加え、市場の健全性のためにも、「認証規格制度」の設置を進めるべきである(図)。
[図] CCRC2.0実現に向けた12のポイント
民主導の視点
- 事業主体の後押し
- 減税・補助インセンティブ
- 規制緩和インセンティブ
- 逆転の発想
- 組合せ型ビジネスの視点
- 事業主体形成の視点
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ユーザー主語の視点
- ワクワク感と年賀状問題
- イノベーターの視点
- あえてハードルを上げる
- Continuing Care の視点
- 居住者インセンティブ
- 認証規格制度
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出所:三菱総合研究所
CCRCに対して否定的、批判的な見方もあるが、カラダ・オカネ・ココロの安心が満たされたコミュニティーづくりに反対する人はいないはずだ。当社がCCRCの有望性を提言し続けてきた理由は、従来の老人ホームのイメージを払拭したシニアの新たなライフスタイルの可能性である。今こそCCRCの本質を見つめ直そうではないか。官主導の地方創生政策で始まったCCRC 1.0から、民主導のCCRC 2.0にシフトする重要な分岐点が今なのである。