マンスリーレビュー

2019年8月号トピックス5経済・社会・技術

22世紀の人類・社会を考える

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2019.8.1

オープンイノベーションセンター小野 由理

経済・社会・技術

POINT

  • 当社は22世紀の人類・社会に関するワークショップを開催。
  • 未来の考察に「学際的・バックキャスト・実験的」の三つの手法を採用。
  • 今後も常識にとらわれない議論を通じた知の構造化で未来に備える。
1人の女性が生涯に産む子供の数とされる合計特殊出生率は世界的に見ても減少の傾向が続いている※1。このため世界人口は100億人水準まで増えた後、減少に転じる公算が大きい。有史以来で初めて人類の数が減るのである。一方で脳科学、AI、人間拡張などの新技術は急激なスピードで進化して、従来の延長線上では捉えられない、見たこともない未来をもたらす可能性もある。こうした人類・社会の大転換の時代に、われわれはどう対処すべきなのだろうか。

当社はその答えを探るべく、今春、「22世紀に向けた人類のチャレンジ」と題するワークショップを開催した。22世紀を想定したのは、現在からは想像が難しいほど遠い未来である分、その姿について自由に考えることが可能だからである。学識経験者に加え、SF作家、漫画家、宇宙飛行士など多彩な顔ぶれを招いて討論した。テーマには「テクノロジーで進化する人類」「AI・ロボット時代の社会システム」「人類が生み出す新たな豊かさ」を掲げた。

22世紀までに起こりうるシナリオやクリアすべき課題、解決法などを探る上で、三つの手法を採ることにした。まずは学際的アプローチ。現在と地続きではない超長期の技術予測には深い専門性と分野横断型の思考が必要なためだ。第二にバックキャスト型アプローチ。遠い未来を想像するには現状の制約にとらわれない思考が必要だからである。第三は実験的なアプローチである。前提となるセオリーやルールにこだわらず、さまざまな事象から結論を導き出そうと考えた。

2019年4~6月に計3回開催したワークショップでは、常識の枠にとらわれない議論が展開された。ソフトとハードのように意識と身体とが分離可能になれば「人間」の定義は変わってしまうのか、人間が感じる幸福は定量化できるのか、デジタル技術進化の先にある究極の民主主義の在り方などについて、活発な意見が示された(表)。当社は今後、セカンドセッションを企画していく。自由な議論を深めることで知の構造化に努め、現在の延長線上ではない未来に備えたい。

※1:厚生労働省「人口動態統計」によると2018年の日本の合計特殊出生率は1.42。中国国家統計局の発表によれば2018年の同国の人口出生率(人口1000人当たりの出生数)は10.94人と、1949年の建国以来で最低を記録した。

[表] ワークショップのテーマと議論