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2019年8月号トピックス3経営コンサルティング

研究者・技術者の働き方改革の本質と成功の秘訣

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2019.8.1

コンサルティング部門 経営イノベーション本部清水 良樹

経営コンサルティング

POINT

  • 研究者・技術者の労働時間を単純に削減しても生産性向上は見込めない。
  • 付帯業務・間接業務の削減に加え本来業務への集中と意欲の向上が重要。
  • 改革実現には、経営層が関与し「現場に本気度」を示すことも必要。
働き方改革関連法が2019年4月に施行され「長時間労働の是正」を主眼とした議論は一巡した感がある。そうした中で、大手グローバルメーカーの研究部門、開発部門からの生産性向上に関する当社への相談が増えている。研究者・技術者(設計技術者など)にも事務系ホワイトカラーと同様の労働時間の削減、時間管理を強化した結果、パフォーマンス低下が懸念されるといった相談だ。

働き方改革の本質的な目的は「生産性の向上」だが、多くは「生産性=成果÷労働時間」の分母である労働時間の削減が中心的な対応である。しかし、研究者・技術者が求められているのは本来、創造力を駆使して新規性がある発想を生み出す頭脳労働者の役割だ。情報をインプットし思考を重ねる時間を相応に確保する必要があるが、メリハリのない軽率な労働時間の削減では、いいアイデアや成果が生まれる機会を逸しかねない。付帯業務※1や間接業務※2と本来業務を明確に切り分けて頭脳労働に専念できる時間を確保することが有効だろう。当社のコンサルティング実績によれば、付帯業務、間接業務の見直しにより総労働時間の10~20%の効率化が図れる。

「成果÷労働時間」の分子である成果の最大化も重要なポイントである(図)。その際に求められるのは、「本来業務(頭脳労働)への集中度向上」「意欲(モチベーション・モラール※3)を高めるマネジメント」の2点である。前者については、本来業務に集中するために、余計な中断を受けず業務に専念できる職場環境がとりわけ重要となる。後者については、研究者・技術者の意欲を高めるために成果の適切な評価とフィードバックや能力・適性把握に基づく業務配分などが不可欠である。

しかし、プレーヤー(実務者)として優秀な研究者・技術者が部下育成を含め個人と組織のパフォーマンスを最大化する役割を担う管理職として適任とは限らない。時には経営層が前線に立ち、人事配置、評価制度を含めたマネジメントシステム改革を断行し、現場に本気度を示す必要があるだろう。「マネジメントシステム」と「管理職・社員の意識、組織風土」の一体改革が必須であるが、現場任せでは限界がある。

※1:本来業務に伴って付随的に発生する会議準備・日程調整、メール処理、移動、資料印刷などの業務。

※2:本来のやるべき役割以外の経費精算、事務処理、勤怠登録、購買検収などの業務。

※3:個々人の前向きな意識(モチベーション)と集団総意としての前向きな意識(モラール)双方を意味すると定義した。

[図] 研究者・技術者の生産性向上のポイント/改革の対象