マンスリーレビュー

2019年10月号トピックス3スマートシティ・モビリティ

地域の「素材」を訪日客の消費増につなげる

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2019.10.1

地域創生事業本部西畠 綾

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 訪日客の消費額を伸ばすには単価の高い「富裕旅行」誘致が不可欠。
  • 富裕旅行者は商品の価値に加えプロフェッショナルによる対応を求めている。
  • 総力を挙げて良質なツーリズムを実現すれば「地域の宝」も保てる。
訪日外国人旅行者による日本での消費額が伸び悩んでいる。2018年の消費額は前年比2.3%増の4兆5,189億円※1と、旅行者数が同8.7%増の3,119万人※2だったことを考えると低調である。2020年の旅行者数4000万人、国内消費8兆円という政府目標をともに達成するのは、厳しいと言わざるを得ない。

旅行者数と消費額のギャップを埋める鍵は、1回の旅行先で1人当たり100万円以上を使う「富裕旅行」※3の地域への呼び込みにある。資産家による「富裕層旅行」に比べれば対象者が多く、消費拡大の余地も大きいはずである。日本政府観光局は、こうした富裕旅行の要件として、商品の価値や希少性に加え、「価値に精通したプロフェッショナルによる体制・対応」「融通が利く体制・対応」などを挙げている。

日本には独自の食文化やアートなど、海外から見て魅力的な「素材」が多数存在する。しかし、こうした素材を、ツーリズムを通じた本格的な消費増には生かし切れていないのが実情だろう。

ただ、成功例も出ている。海外旅行ガイドブック「地球の歩き方」発行元のダイヤモンド・ビッグ社が復興庁の委託事業として2017年6月に立ち上げた「東北プレミアムサポーターズクラブ」である。運営主体の「地球の歩き方総合研究所」は富裕旅行者のニーズに精通した目利きであり、同クラブ会員である東北各地の観光関連業者などと組んで、仙台藩祖・伊達政宗が眠る霊廟「瑞鳳殿」で石州流清水派※4が点(た)てたお茶を堪能できる体験を含むPRツアーを企画した。ツアーで紹介した体験の希少性や品質の高さが好評となり、発足初年の2017年に欧米・シンガポールの旅行会社からの富裕旅行者約200人招致と、売り上げ約1億円を達成した。

短期間での成功の背景には、幅広い関係者を巻き込んで、海外の旅行会社が必要とするサービスをワンストップで提供できた点がある。これに限らず、地域の総力を挙げて良質で満足度の高いツーリズムを実現できれば、各地の伝統芸能や食文化といった「地域の宝」を守り育てることにもつながるはずである。

※1:観光庁「訪日外国人消費動向調査」の確報値。2017年実績は4兆4,162億円。

※2:日本政府観光局(JNTO)の推計。

※3:JNTOによる定義。100万円には旅行先への往復運賃は含まれない。

※4:仙台藩の正式な流儀として発展した茶道。

[写真]「 瑞鳳殿」での仙台藩茶道・石州流清水派による点茶