マンスリーレビュー

2019年10月号特集地域創生

地域創生の将来ビジョン

地縁的な繋がりから、豊かな暮らしを共創する繋がりへ

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2019.10.1
地方創生

POINT

  • 人口減が続くなか、地域創生の担い手を多様化させる「志民」に注目。
  • 持続的な地域づくりには、多様な人々が参加し繋がる「共」の機能が必要。
  • 主体的な繋がりを支える情報共有・交流基盤の構築が鍵。

1.地域創生の担い手は「自治体+住民」から「志民」に

まち・ひと・しごと創生法(地方創生法)が施行されてから5年近くが経ち、2020年度から第2期がスタートする。第1期計画で各自治体が生き残りをかけて「人口目標」を掲げ移住促進などに取り組んだのとは裏腹に、人口の東京一極集中はむしろ加速し、大方の自治体にとって期待外れの結果になっている。

今後も人口と税収の減少が続くことを想定すれば、地域創生の担い手を自治体と住民・地元に限定せず、参加者の範囲を広げて協働の担い手になってもらう仕掛けをつくる必要があろう。こうした、各地域に思いを寄せる人や事業者を「関係人口」として取り込み、創生の輪を広げていく。すでにふるさと納税や地域活性化を支援するクラウドファンディング、NPOなどを通じて、各地域の関係人口は増加しつつある。住民でなくても、その地域に関心・愛着をもち、活気と豊かな暮らし・働き方の実現を目指す志を共有する人と事業者などを巻き込んだ幅広い「志民」(表)を担い手とすることで、創生のスコープとスピードを支えるパワーが追加される。

加えて、人生100年時代の生涯現役社会では、兼業・副業、ワーケーションなどのさまざまなかたちで、地域内外の専門人材の活躍も期待される。後述する「共」領域での活躍機会を提供することが、就業者の生活をより充実したものとし、社会全体の生産性向上にも寄与する好循環の出発点となる。都市部の企業人材が期間限定的に地方で働く「逆参勤交代※1」も、そうした流れを加速する可能性があろう。

日本は高度成長期以来、全国ほぼ一律に便利で快適・安心な暮らしを実現してきたが、現在は人々の目指す豊かさ、価値観も多様化している。かつては大型店・コンビニなど全国一律の「都市化・都市的利便の向上」が重視されたが、現在はスマホやネットショッピングの普及により、どこにいても全国ブランドの商品がすぐに手に入るようになった。その一方で、各地域の「そこにしかないもの」、「豊かでストレスの少ない暮らし」は、さまざまな情報ネットワークを通じて地域外の人たちからも関心を呼び、高い評価・価値を得られる可能性が高まっている。これも創生の新たな糸口であり、「志民」はその担い手と利用者・受益者の両方の要素をもつことになる。
[表]「志民」と「住民」の主な違い

2.「志民」ニーズに応える「共」領域の確立

もう一つのアプローチは、自治体と住民、言い換えれば行政と民間の役割区分を再設計して協働・相互乗り入れする「共」の領域を増やしていくことである。行政の公共性・安全性と民間の活力・事業性を組み合わせることで、持続的なまちづくりを狙う。

「共」領域のサービスは大きく二つのケースが想定される。従来の行政サービスを代替するかたちと、民営事業に地域貢献・公共的要素を付け加えていく姿である(図)。

行政サービスを代替する好例として、株式会社吉田ふるさと村(島根県雲南市吉田町)がある。吉田ふるさと村は自治体と住民が共同出資する第三セクターで、水道、バス、農産物加工などの事業を展開している。同社は1985年、合併前の吉田村(当時)住民が「自分たちの村は自分たちで守る」との思いで創設した。社員は現在、住民を中心に約70人で構成され、住民自身が創意工夫によって30年以上も公的サービスの一部を担い続けている。さらに、通常ビジネスでも成功を収めており、卵かけごはん専用のしょうゆ「おたまはん」などのヒット商品も生み出した。

もう一つの「共」は、「民」の立場を起点として、自治体との連携などにより地域全体の持続的な価値向上に資するものである。文化や街並み・景観などをめぐる活動など、これまでも多彩な事例がある。例えば、NPO法人グラウンドワーク三島(静岡県三島市)は、水辺自然環境の消滅の危機に際して、環境改善に取り組む複数の市民団体が合流して1980年代に設立された。「市民が主役」を掲げつつ、行政・企業を巻き込み地域総参加の取り組みを進めて「水の都・三島」を守ってきた。

また、棚田景観維持のための棚田オーナー制度※2や、まちづくりへのクラウドファンディングなど、地域外からの支援を募る取り組みも多い。徳島県神山町などでのIT企業のサテライトオフィス集積は、コワーキングや研究者交流という働き方・暮らし方を好む人たちが作り出した一例だ。地域の新たな価値創出により住民・関係者に満足や希望を与えるだけでなく、事業収益も期待できることが継続の鍵となる。地域に対する思いを集めるための仕組みや住民を超えたネットワーク(関係人口の取り込みなど)の構築が重要である。
[図]人口・税収減に伴う「共」領域の役割増加

3.「共」領域の担い手となる事業組織の確立に向けて

このように「志民」が目指す豊かさ・暮らし方を共有し、それを「共」領域として、地域の持続的発展に資するかたちで具現化するためには、新たな官民連携(住民・民間参画による事業推進)の推進主体となる事業組織が必要だ。

これまで住民活動といえば当然のように自治体の支えがあると考えられてきたが、行政のスリム化が不可避である今、「共」領域を持続させるには“事業が継続的に回る”ことが重要だ。このため、推進主体となる事業組織には、対象の地域に根ざした住民などのグループ、自治体のまちづくりとの連携、持続的な活動を可能にするヒト・モノ・カネ、社会課題解決に資するノウハウ・技術などが求められる。

民間参加のまちづくりの仕組みとして注目されるのが、昨年創設された「地域再生エリアマネジメント負担金制度」である。これは米国などのBID(Business Improvement District)を参考として、市町村がエリアマネジメント活動※3の費用を受益者(小売り、サービス、不動産事業者など)から徴収し、エリアマネジメント団体に交付する官民連携の制度である。主に都心のにぎわいづくりなど価値創出の取り組みを対象としている。もともと米国のBIDは、学校、水道、清掃、防犯などの生活インフラを受益者負担で運営する準自治体(Special District)の一つであり、今後、日本においてもスリム化する行政サービスの受け皿としての活用も求められよう。

また、事業組織を組成する上では、基礎自治体の境界にかかわらず、実質的な「社会・生活圏」を意識して、事業の対象地域を検討することが重要となる。以前から、多くの人々の生活・就業は、居住する自治体内では完結していない。例えば、医療サービスは、日常的な診療(一次医療)は基礎自治体単位、入院など(二次医療)は複数自治体単位で対応しており、水道や消防なども広域で対応している。事業組織が持続的に回るために適切な人口・予算などを勘案し、対象地域を決める必要がある。

事業組織を人材・資金・ノウハウなどの面から支えるステークホルダーとして、地域に根ざした産業群(交通、エネルギー、地域金融機関、観光・地場産業など)を取り込むことも必要である。こうした産業群は地域の持続的発展を抜きにしては存立が難しいことから、例えば、交通サービスの恩恵を受ける病院、商店、学校などに資金を負担してもらうことも考えられる。

さらに、企業も含めた民間参画が求められることも踏まえると、まちづくりとしての公共・公益性の担保と民間ならではの事業性の両立がより重要になる。その点からすると、「共」領域の事業組織は、目的ごとに幾つかの組織、法人格を立ち上げることも考えられる。前出の米国の都心のエリアマネジメントでは、清掃・警備などはBIDが受け持ち、にぎわいづくりのためのイベントは事業会社、政策提言などは公益法人がそれぞれ担うかたちで複数の法人が連携し、一体的に運営されている。行政サービスの代替などに当たるものは準自治体として公平性を担保しつつ厳格に運用し、より価値の創出に繋がるものは活動の自由度を重視して、法人格を組み合わせることで、公共と民間の両方の特長を活かした地域経営を実現している。

これまで行政が担ってきた役割を事業組織が代替するには、行政サービス以上の効率化や価値創出を果たさなければならない。効率的に地域課題を解決する技術・ノウハウの導入が不可欠であり、Society5.0で目指すAI、IoT活用による効率化や各種の高度サービス(XaaS)は大いに助けになるはずである。

4.主体的な繋がりを支える情報共有・交流基盤の構築

第1期の地方創生では、各自治体で「産官学金労言」による協議会が設置され、戦略の協議や、目標・KPIの設定・進捗確認などが行われたが、事業主体である自治体の取り組みを評価する側面が強かった。第2期からは、地域外にも開かれた官民連携を進めていくことが、「志民」主役の地域創生推進の鍵となる。自治体は協議会などを活用したプラットフォーマーとしての役割を果たす。KPIの設定や進捗確認においても、住民・関係人口や企業など民間を含めた「共」の取り組みがいかに活発に行われているかが重視されるべきであろう。

今後、社会全体のデジタル化の進展によって情報共有の基盤は整い、繋がりづくりもさらなる円滑化・迅速化が期待される。自治体が効率化の一環としてAI活用などを通じて収集した住民ニーズは、当該住民への対応はもとより施策・計画検討にも活かすことができる。加えて、「共」の事業組織でも住民情報やデータを活用できる環境の整備が、その地域ならではの豊かさの実現と価値創出において重要になる。

自治体システムの標準化・共同化が叫ばれて久しいが、その歩みは依然として遅い。地域創生に向けた多様な場面での協働機会づくりが、DX※4による生産性向上を通じて自治体財政を健全化させる出発点となれば、まさに一石二鳥以上の効果がある。

※1:地方大名が江戸に参勤した「参勤交代」の逆の構想。東京圏などの企業人材が一定期間地方圏で働くことによって、就業者の人生の充実、企業活動の生産性・創造性向上、地方活性化などを目指す。
MRIマンスリーレビュー2019年2月号「構想から実装へ動き出した逆参覲交代

※2:都市住民に直接耕作に関わってもらいながら棚田を保全していこうという制度。1990年代から中山間地域などの自治体で展開されている。オーナーになれば会費を支払うが、代わりに現地で農作業に従事して対価としての収穫米を得る。

※3:特定のエリアを単位に、民間が主体となって、まちづくりや地域経営(マネジメント)を積極的に行おうという取り組み。

※4:デジタルトランスフォーメーション:デジタル技術を活用して新たな価値を創出すること。

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